『いいとも!』開始当初からディレクターを務めた“ブッチャー”こと小林豊さん

国民的“お昼のバラエティ”番組『笑っていいとも!』が終了して早1年以上ーー。

当初は“タモロス”などと言われたりもしたが、すっかり12時に始まるあの“ウキウキウォッチング”なテーマソングが流れないことに慣れたのではないだろうか。

タモさんことタモリも週1で夜の人に転身、『ヨルタモリ』(フジテレビ系)で宮沢りえママや訪れる客たちと語らい、『ブラタモリ』(NHK)もこの4月から復活、楽しそうに各地を探索している。

…だが、やはり淋しい! 「テレフォンショッキング」という恒例の名物コーナーを32年も続けて、あれっきりでいいのか!? そう考えた「週プレNEWS」は、勝手にその精神を受け継ぎ“友達の輪”を再開、新たに繋げることにした。そのタイトルは『語っていいとも!』

メモリアルな第1回は、作家の北方謙三氏をゲストに4月26日(日)12時配信予定。

今回はその開始直前スペシャルということで、昨年3月、『週刊プレイボーイ』12号で大特集した「サヨナラ、タモさんと“友達の輪”」から元ディレクターで“ブッチャー小林”のニックネームでも知られた現静岡テレビ社長・小林豊氏によるOA開始当初の秘話を再掲載でお送りする!

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『いいとも!』には放送開始から5年間、ディレクターとして関わらせてもらいましたね。その前身になった『笑ってる場合ですよ!』のプロデューサーだった横澤彪(たけし)さんと、タモリさんの親友でもある放送作家の高平哲郎さんが立ち上げた番組でした。月曜から金曜の各曜日にディレクターがついて、僕を含めた5人が集められたんです。

会社からの条件は「アルタを使うこと」と「生放送」のふたつ。生はお金かからないですから(笑)。

それで、最初の会議で横澤さんから「司会はタモリさんでやろうと思ってる」と初めて聞かされました。でも、当時のタモリさんは深夜番組でイグアナのモノマネをやってるようなすごくアナーキーな芸人でね。だから「昼の番組には無理でしょ」と、僕らは反対したんです。

でも、横澤さんに「とにかく一回会ってくれ」と言われて、四谷のスナックに行ったら、タモリさんが酔っぱらってカウンターで全裸で踊ってたんですよ。「やっぱ無理だろ!」と(笑)。

やるならタブーでも新しいことを!

ただ、話してみると、すごくまじめな人なの。酔っててもこちらの話をはぐらかさずに聞いてくれたし。知識も深くて、音楽の話とか滔々(とうとう)としゃべってくれたりスゴく面白くて。当時、流行(はや)ってた言葉で“ネクラ”(笑)、今でいうオタクっぽさがあってね。「この人が司会の昼番組って面白いかも」ってなったんですよ。

それで司会に決まったら、今度は高平さんが「生放送中に翌日のゲストを決めたい」と。これが「テレフォンショッキング」。彼の中では、「司会者タモリ」と「テレフォン…」は始める上でセットの必須条件だったんです。“いいとも”ってフレーズも当時、マンガ家の赤塚不二夫さんたち仲間内の流行りで、遊びから生まれたものに彼がこだわって使ったんだと記憶しています。

ただ、「出演者が次のゲストを決める場面を視聴者に見せる」のが狙いとはいえ、タモリさんが電話でアポ入れすると番組が止まっちゃうわけ。だから、アシスタントの女のコが必要だってなってね。オーディションをやったけど放送開始1週間前でも決まらなくて。横澤さんが「ブッチャーさぁ…」って相談にきたんです。あっ、“ブッチャー”は島田紳助がつけたあだ名ね。あのプロレスラーに似てるからって(笑)。

で、僕は「『笑ってる場合ですよ!』で使ってた女のコにお願いすれば? 収録終わったら飲み行けるし」とか言ったんだけど、横澤さんは「新鮮さがないよ」と。「いや、ここはブッチャーにお願いしたい」なんて言い出したんです。

おそらく女のコじゃなく僕みたいな男がテレビに出るってギャップを狙ってたのかな。確信犯ですよ。最初は断ったけど、口説かれて「1週間だけ」と引き受けたら、結局5年間も出ることに(笑)。

ただ、テレビで面が割れちゃったからほんと不便で(苦笑)。ラーメン屋にいたら中学生に「ブッチャーがラーメン食ってる~」ってバカにされるし。写真週刊誌に狙われて女のコ口説いて悪さもできない(笑)。

今考えると、横澤さんは裏方の人間がテレビに出る面白さにこだわってたのもあるよね。当時は僕らみたいなのがテレビに出るのはタブーで新しかったんです。それに、みんなに「どうせやるなら新しいことやろうよ!」って思いもありました。キーワードは「オリジナル」かな。他でやってないことをってやつね。

それが、ゲストをキャスティングする場面を見せることであり、「こんなヤツが番組作ってるんです」と表に出しちゃうことで。「誰も見たことがない“スタジオドキュメント”を作りたい」なんて、カッコいい言い方したりしてね(笑)。

コーナーでもハプニングで放送中にセットをその場で変えたりして、お客さんに大ウケ。そういうふうに遊べた時代だったんですよ。

大義名分をつけて実はテレビで遊んでた

だから、ほんとタモリさんにも「遊ばせてもらったな」と。テレフォン以外のコーナーは各曜日のディレクターが企画してたんですけど、どんな内容でも絶対に「イヤだ」って言わないですから。「へー、一回やってみればいいじゃん」って。

僕がそれまでお付き合いしてきたタレントさんって、全部「イヤ」な人なんですよ(笑)。萩本欽一さんとか、自分で考えた企画じゃないとダメだったしね。それをタモリさんはなんでも自由にやらせてくれた。

それで、飲みに行って女のコにモテるために考えたようなゲームがそのままコーナーになることも多くて(苦笑)。“スタジオドキュメント”なんて大義名分をつけて、実はテレビで遊んでたんです(笑)。

でもそうやって、働き盛りの一番いい時代を過ごさせてもらって。僕は5年だけど、タモリさんは32年だもんねぇ。本当によくやったと思います。これだけ長くやってたら『いいとも!』が終わった次の日、朝起きてアルタ来ちゃったりして(笑)。タモリさん、ほんと間違ってもそれだけは気をつけてくださいよ!

●“ブッチャー”小林 豊(こばやし・ゆたか)『いいとも!』開始当初から火曜担当ディレクターを務め、テレフォンショッキングのアシスタントとして出演。現在、テレビ静岡社長

■『語っていいとも!』第1回は作家の北方謙三氏をゲストに4月26日(日)12時配信予定