左から、実業家で投資家の山本一郎氏、文部科学大臣補佐官の鈴木寛氏

4月12日に投開票された統一地方選の前哨戦は、与党の勝利で終わった。しかし、各地で低すぎる投票率が問題視されるなど安倍政権への“白紙委任”とは言いがたいのが実際のところだろう。

どうして、統一地方選はこんなにも盛り上がらないのか。最先端の高齢社会対策プロジェクト「首都圏2030」に携わるふたりの論客、実業家で投資家の山本一郎氏と文部科学大臣補佐官の鈴木寛氏は、こうしたムードが2020年まで続けば、日本は本当に取り返しがつかない事態に陥ると警鐘を鳴らす。

現在の選挙制度に潜む問題点、そして、これからの日本のあり方について、ふたりに語り合ってもらった。

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鈴木 なぜ「2020年まで」なのかというと、五輪という一大イベントの“祭りの後”が相当に大変だからです。1964年の東京五輪の後もそうだったのですが、公共事業が一気に終わる。その上、2020年には団塊の世代が70代に突入する。それまでに地方を含めて産業構造改革、体質改善、思考の切り替えをして、高度人材育成という“生きた投資”をしないといけません。限りある投資を製造業中心のハードパワー型社会の延命に使ったら、もう生き残れない。

山本 教育に投資するのはいいことだというのは誰しも納得するはずです。しかし、数千億円の予算をどこから持ってくるのか。どう考えても高齢者向けの年金や医療を削るしかないです。となると、途端に難しくなる。

悲観的な話になりますが、選挙の投票率が今のままだと有効投票総数のうち高齢者の占める割合が65%から70%くらいになります。この層に働きかけないと構造変化の抵抗勢力になってしまう。

鈴木 民主主義の悪い面が、ここにきて出てしまっているともいえますね。

若者に5倍の票をあげてやっとフェア

山本 多数の政治参加を促す民主主義の仕組みを最初に考えた時は、誰もこういう社会になるとは思っていなかったはずです。言い方は悪いですが、「社会にぶら下がっている人たち」、社会の負担になっている高齢者が最も投票に行く層になると、ある意味で社会の生産性を考えることが放棄されてしまう。彼らとよく対話しないと、民主主義がきちんと機能(ワーク)しない。

鈴木 仮に若い世代が全員投票に行っても元々少数なので、多数派のシニア世代の声にかき消されるーーそんな“シルバーデモクラシー”の時代に若者の政治参画を促すにはどうすればいいのかということですね。

東京大学大学院教授の井堀利宏先生が以前から提唱されていますが、年齢で選挙区を区切り、それぞれの世代の代表者を政治に送り込む「世代別選挙区」も議論されるべきかもしれません。現在の地域ごとの選挙区というのも、元々は「利害の異なるそれぞれから代表者を出す」という発想なのですから、世代というものがこれだけ利害を分ける時代なら同じ発想があってもいい。

山本 「平等」とか「公正」というのは、本来なんなのかという話ですね。

鈴木 日本は戦後、国政における一票の格差を放置してきた。地方のほうが相対的に高齢化が早かったのですが、そこに住む有権者に最大5倍の票を与えてきたわけですよね。そのツケを取り戻すには、若者に対して5倍あげてやっとフェアになる、という考え方もできる。

例えば、20代の若者はあと60年も生きるわけですし。もちろん、それには憲法の変更が必要ですが、そこはきちんと議論したらいいと思います。

山本 変なことを言うようですが、鈴木先生が落選した13年の参院選の東京選挙区で、代わりに当選したのは山本太郎さんや共産党の吉良佳子女史でした。彼らに投票した有権者の選択は尊重されるべきですが、多くの人は「このままではいけない」と思ったんじゃないですか。そういう状況を敏感に察知する人ほど先に手を打ちますね。

鈴木 落選した後、私の周りでも変化がありました。「ずっとどうしようかと思っていたけど、もう日本の政治は無理だとわかったからシンガポールに行きます」とか。

東京含め全国丸ごと地方になってしまう

山本 私が仕事の拠点を持っていたロシアのウラジオストクでも「粗野な地方の人が来て暮らしにくくなった」と、エリートたちが皆、どこか別の場所に移動し始めています。自分へのよりよい評価や、いい教育や暮らしやすい環境を求めて、高度な人材が簡単に国境を越え、都市間を移動する世界になった。

鈴木 私も政界から出て、一番変わったことは移動ですね。昨年1年間で、延べ海外滞在日数が50日くらい。議員時代は海外にちょっと行くだけでハンコが何十個も必要でしたが(苦笑)。

山本 要するに、永田町は日本最大の田舎ですよ。考えてみれば国政というのは地方の代表者の集まりで、今どき日本人しかいない組織なんて逆に珍しいですし。だからなのか、今の自民党政権の地方創生の議論は「東京とそれ以外」という大ざっぱな分け方になっているんですが、実際には「日本とそれ以外」という問題がある。日本での仕事に不安を感じたら、稼げる人はシンガポールや台北、上海に行ったりするわけですし。

鈴木 東京は今やものすごい国際都市間競争にさらされ、2020年までにきちんと投資していかないと生き残れないかもしれない。そうなると、グローバル視点で見れば日本は丸ごと…。

山本 丸ごと地方になっちゃいます。言い方は悪いですが、捨てられてしまう。

鈴木 そういう競争が非常に激しくなっていく中での統一地方選なのですが、それぞれの地域がどう付加価値を創造していくのか、それによってどれだけの雇用と産業が生まれるのか、という議論がなかなか起きていません。

かつて日本の主力産業だった自動車と家電の生産性は高かったのですが、現在のサービス業の生産性はものすごく低い。これをどう転換するかという議論が地方政治から抜け落ちています。今まで全部、国にお任せしてきたから、このままいけると思っているのでしょうか。

山本 地方はもう、既存の産業と助成金だけではどうにもならない。人々が外へ出ていかなくてもいいような地域づくりを自分たちでしなきゃいけないんですが、それをまともに議題として取り上げることすらなかったのが、この15年、20年だったわけです。

ヨーロッパでは親に大学の学費を出してもらう人はいない

鈴木 現実を直視して、これまでの延命ではない真の構造改革を一挙にやらないと、もう本当に“ファイナルファンタジー”…。

山本 最後にしがみつく幻想。ちょっと笑えないです。

鈴木 それにしても、日本をなんとかしないといけないという感覚を持っているのは、私たちの世代で最後かなと最近思うんです。

山本 お礼奉公という感じですかね。

鈴木 日本社会に対するロイヤリティというか、自然な愛国心とでもいうべきか。要するに、国が若者を愛すれば、若者も国を愛してくれるんです。我々の世代は先人からいろいろと有形無形の愛を感じましたよ。

だけど、この国は若者を愛してこなかった。教育費だって投入してこなかった。いまだに日本にはまともな奨学金すら存在せず、あるのは“教育ローン”ですよ。国から奨学金をもらえれば、チャンスをくれた社会に将来なんらかの形で自分も貢献していこうと、自然に思うはずです。

山本 学費を出してくれた親には感謝しても、国や社会に感謝は持てないですね。

鈴木 ヨーロッパでは親に大学の学費を出してもらう人はいませんよ。全部国が出してくれる。

山本 それが知識を広め、社会の根底を支えてくれる。

鈴木 日本はマイノリティや抑圧される人々に対する救済手段がすごく少ない。その原因も、本(もと)をただせばそのあたりにあると思います。例えばフランスでは、裁判所や会計検査といった“正義のプロ”の仕事が優秀な学生に大変人気です。彼らはそこで、社会のマイノリティの価値を守ってくれるわけです。

山本 国が若者を愛すれば、若者も国を愛してくれる。まさにそういうことですね。

(構成/佐藤信正)

●山本一郎(やまもと・いちろう)実業家、投資家。1973年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。最新技術動向や金融市場に精通する、データ分析と未来予想のスペシャリスト。各種選挙データの解析・世論動向調査も専門分野。東京大学政策ビジョン研究センターと慶應義塾大学SFC研究所による高齢社会対策プロジェクト「首都圏2030」の研究マネジメントを行なう

●鈴木寛(すずき・かん)文部科学大臣補佐官、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学教授。1964年生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省官僚、慶應義塾大学助教授を経て、2001年に参議院議員初当選(民主党、在任12年)。文科副大臣などを歴任し、教育、医療、文化、科学技術、IT政策を中心に活動。昨年10月より文科省参与、今年2月より同大臣補佐官