トリドール人事部採用企画課の課長補佐・谷杉理樹氏。「海外展開の推進力となる人材が是非ほしい」と熱く語った。

3月に解禁となり、いよいよ熱を帯びてきた2016年度の就職活動戦線。そんな中、リクルートスーツで奮闘する学生たちを刺激するかのように、早くもある会社が来年度の入社式にビッグサプライズをぶち上げた!

TV局が入社式にタレントを呼ぶのは、もはや恒例だ。今年もテレビ朝日には爆笑問題、TBSにはタカアンドトシがやってきた。

日本テレビだけは、銀座でのホステス経験を理由に内定取消騒動を起こした笹崎里菜アナが入社するとあって、タレントは呼ばずに自粛ムードの入社式を行なった(マスコミは笹崎アナを取材しようと殺到し、話題性はテレ朝、TBSを抜いていたが…)。

そして、視聴率最下位転落と絶不調が話題のフジテレビはというと、タレントを呼ぶというようなレベルではなく、SMAPゆずE-girlsさだまさし谷村新司が次々に登場し、新入社員とその家族の前で歌まで披露するという豪華な入社式だった。

一方、派手で華やかなマスコミにとどまらず、変わり種の入社式も各地で報告された。三重県鳥羽市の鳥羽水族館での、新入社員にダイビングの装備を付けさせ大水槽の中で行なった「水中入社式」。野菜や果物の宅配サービスを展開するオイシックスが契約農家の畑で行なった「畑入社式」。さらに靴用品メーカーのコロンブスでは、毎年恒例となった新入社員が先輩社員に靴を磨いてもらい、その後、新入社員が先輩の靴を磨くという「靴磨き入社式」なるものもある。

その会社は丸亀製麺のトリドール

そんな入社式のニュースもまだまだ記憶に鮮明な中、「丸亀製麺」などの飲食チェーンを展開するトリドールが、来年の入社式にサプライズを用意しており、会社説明会で発表するという。一体、どんなサプライズなのか? それを確かめるべく、記者は会社説明会の会場へ飛んだ。

4月27日、東京都内の説明会場で学生たちを前に冒頭、トリドールの人事部採用企画課・谷杉理樹課長補佐がこう切り出した。

「今からトリドールは皆さんにある発表をしたいと思います。ジャジャン!」

谷杉氏が取り出したパネルには、青い海をバックに白いビキニを着た金髪の外国人女性が立っており、さらにデカデカと「入社式はハワイでやります。」と書かれている。

「エーッ!」と驚きの声を上げる女子大生、思わず身を乗り出す男性学生…。一瞬、会場がざわついた。

「はい。皆さん、いいリアクションありがとうございます」

発表した谷杉氏が笑顔で応えると、学生たちの驚きは笑顔に変わった。

説明会は和やかなムードのうちに終了。この後、筆記試験に突入。記者もチャレンジしてみたところ、まったく歯が立たず…

ナマの芸能人に間近で入社を祝ってもらう経験もなかなか得難いが、入社式でハワイに行けるなんて、なんとも太っ腹の会社だ。

それにしても、なぜハワイなのだろう。

アベノミクス効果もあるのか日本経済も回復基調にあり、企業の業績も上向き始めているとされるが、就職戦線も学生優位の“売り手市場”傾向にあるらしい。そのため採用担当者はいい人材を確保しようと、あの手この手で学生の注目を集めようとしているが、“ハワイ入社式”もそれを狙った単なる話題作り?

その真意を谷杉氏に聞いてみた。

ハワイで入社式…その本当の心は?

「売り手市場とか買い手市場とか、そういうこととは関係ありません。弊社は4年前から海外への店舗展開を始めましたが、それと同時に新卒採用もスタートしました」

つまり、さらなる海外事業の強化を図るためバイタリティのある若者を採用しなければと考えたことがきっかけだという。ちなみに、トリドールの2016年度の採用予定者は前年比80%増の70名。

「なぜハワイか?と言いますと、実は弊社が海外進出の第一歩を踏み出した地だからです。社会人としての第一歩を踏み出す新入社員の方にもハワイで海外の空気を知ってもらいたい」

しかも、そのハワイのワイキキ店は、丸亀製麺を始めとする同社が運営する国内852店舗、海外11の国と地域で展開する102店舗の中でトップの売り上げを誇るとか。

「昼も夜も店の外に行列のできるワイキキ店を、ぜひ自分の目で見て欲しいと思っています。そして、そこで何かを感じとっていただけたらいいのではないかと思っています」

なるほど、話題性とは別に確かな理由があったわけだ。

それにしても、なんと素敵な! こんな会社ならワイキキビーチの白い砂の上で新入社員70名、社長以下経営陣に人事担当者を合わせて一体何人になるかわからないが、全員が水着姿で入社式を行なうなんて提案もも可能なんじゃないか!? 一瞬、そんなチャーミングな光景を想像してまったほど…。

さて、説明会に参加していた学生にも今回のサプライズについて聞いてみた。

「世界に店舗展開する中、ケニアのナイロビへの出店を追いかけたTVのドキュメンタリー番組を観ました。そこで若手社員の方が力を発揮されていたので、すごく魅力的に思っていました。それに入社式がハワイとなるとモチベーションは高まりますね」(野村祐介さん・22歳・東洋大学)

「昨年1年間、ロシアに留学してたんですが、モスクワとペテルブルクで丸亀製麺の店舗を見て、自分もトリドールで働きたいと思って来ました。やはり海外志向が強いんですね。ハワイの入社式にはビックリしました」(匿名希望の男子学生)

このハワイ入社式、採用担当者は「狙ってはいない」と言うものの、話題性と学生へのインパクトは十分。この先、これを超えるサプライズな入社式をする会社は出てくるのか。就職戦線ならぬ“入社式戦線”からも目が離せない。

(取材・文/頓所直人 撮影/利根川幸秀)