ドラクエ、FFシリーズのレジェンド、堀井雄二氏(左)と坂口博信氏(右)がタッグを組んだ作品『クロノトリガー』の制作秘話とは?

『ドラクエ』の生みの親、堀井雄二氏と『FF』の生みの親、坂口博信氏によるレジェンド対談が十数年ぶりに実現!

前編では、スーファミ時代の両タイトルのお話をしていただいたが、後半ではおふたりの最新のお仕事について、そしてふたりがタッグを組んだ超名作RPG『クロノ・トリガー』のトークをお送りします!【記事前編→ http://wpb.shueisha.co.jp/2015/05/02/47221/

―坂口さんは今まさに170万ダウンロードを突破(15年3月20日現在)している『テラバトル』というスマホゲームを手がけてらっしゃいますよね。この作品には『FF』シリーズの音楽を担当した植松伸夫さん、パッケージイラストなどを担当された天野喜孝さんもゲスト参加されていて、ファミコン、スーファミ時代の『FF』ファンにはたまらない大御所集合といった感じです!

坂口 天野さんのイラストは150万ダウンロードを突破したらゲームに登場させるという公約になっていたんですよね。スーファミ時代までのグラフィックだと、天野さんの繊細に描かれた絵を表現するのは至難の業(わざ)というか、完全再現は不可能じゃないですか。

けど、スマホなら天野さんの絵をそのまま使えますからね。スーファミ時代に叶わなかった悲願が今、ようやく叶った気分(笑)。

堀井 『テラバトル』は200万ダウンロード突破したら、次はコンシューマー版(ゲーム専用機版)を発売するって聞きましたよ。

坂口 そうですね、そうぶち上げちゃってますね(笑)。期待していてください。でもスマホのゲームって、ディスプレーの性能や音質は抜群にいいんですけど、意外とCPUとかのスペックが高くないのでいろいろ制限があるんですよ。

それにメインの制作スタッフも10人ぐらいだったりするんで、作っている感覚はファミコンやスーファミ時代にすごく近いんです。だからなんとなく懐かしみながら作ってますよ。

―一方、堀井さんの『ドラクエ』は「X」のバージョン3にあたる『ドラゴンクエストX いにしえの竜の伝承 オンライン』が4月30日に発売を控えています。「X」で初挑戦となったオンラインゲームはいかがでしたか?

堀井 ひとつの遊びの方向性として、ネットでつながった人たちと同じ世界で冒険するというのは、すごく作り込みがいがありましたよ。運営開始してから3年ほどたちますが、まだ世界が広がるっていうのもすごいことですしね。

あと来年は『ドラクエ』30周年なんで、ファンの皆さんの期待を裏切らない、でもびっくりさせられる発表もできると思います。坂口さんのゲームはもちろん、僕のほうにも期待してもらえれば(笑)。

■テラバトルhttps://youtu.be/mo0Pka2Z8ao

■ドラゴンクエストX いにしえの竜の伝承 オンラインhttps://youtu.be/iFPjfT3VIs8

伝説の『クロノ・トリガー』合宿

―そんな今でもよきライバル関係のおふたりが、スーファミ時代に奇跡の共作を果たした伝説のゲームもありましたよね。堀井さんと坂口さん、そしてキャラデザインには鳥山明さんも加わった『クロノ・トリガー』は不朽の名作!

坂口 『クロノ』は今でも相当人気がありますからね。海外でも人気ですし。

堀井 けどね、あれは本当にきつかった(笑)。なんせ『DQVI』の開発スケジュールとバッチリかぶってたんで、しばらく同時進行したりして。

坂口 『ドラクエ』方式を参照して、主人公は喋らせないことにしたんですよね。

堀井 体験型の『ドラクエ』と、ドラマを見せる『FF』をかけ合わせた感覚だったよね。ゲーム画面は当時のスクウェアさんっぽさが前面に出たグラフィックで、でもプレイした感覚はどこか『ドラクエ』っぽいという。そして『クロノ・トリガー』といえば、忘れもしない、六本木の全日空ホテル(現ANAインターコンチネンタルホテル東京)で最初に行なわれた合宿(笑)。

―まさかの『クロノ・トリガー』合宿ですか!?

堀井 そうそう。豪華だったな~(笑)。エニックスでも合宿とかやったことあったけど、あんな高級ホテルには泊まらないし、食事のお皿も自分で下げるような合宿所だったから「さすがスクウェア、お金あるな!」って心の中で叫んでましたよ(笑)。

坂口 いやいや、あの時は大御所の堀井さんをお迎えするっていうんで、特別にということでかなりムチャしたんです(笑)。いつもならもっともっとグレードが低いところで合宿でしたから。

堀井 本当に?(笑)。でも、あの合宿で最後のボスをどうしようかってことをすぐに決めたよね。惑星に寄生しているっていう設定とか。

坂口 堀井さんはラスボスへのこだわりが強いですよね。

堀井 うん。ほら、ラスボスが何を目的にしているかによって主人公たちの行動が決まってくるわけだから。最初に決めるし、すごく重要なポイントだと思ってる。

『クロノ・トリガー』(1995年)は多彩なシステムを搭載。ゲームの進行度によるマルチエンディングもそのひとつだが、中には言葉を発さなかった主人公・クロノがラストで会話するレアシーンも!?

スクウェアとエニックス、まさかの合併

第二の四天王の罠から主人公たちを救うため、自らを石化するパロムとポロム。『ファイナルファンタジーIV』(1991年)の映画のような涙腺を刺激する演出は、後のシリーズにも受け継がれている

―ふたりが組んでゲームを出すというのは、当時すごく衝撃的でした。勝手にバチバチに敵対していると思っていたので(笑)。

堀井 でも、それを言うならさ、スクウェアとエニックスの合併(03年)のほうがよっぽどびっくりしたよ(笑)。少年マンガではライバル同士が仲間になる展開は王道だけど、まさか現実社会で、しかも自分のすぐ身近で起こるなんてさ(笑)。

坂口  仲間になるどころかライバル同士の結婚みたいなものですから。いや、『DQV』で主人公が結婚して驚いてましたけど、まさか『ドラクエ』と『FF』の会社が結婚するなんて想像もしてませんでした(笑)。マンガなら面白くて熱い展開ですけど、現実に起こるとただただ驚愕しちゃいますね。不思議な感覚でし た。

堀井 あんなに驚くこと、人生でもそうないね(笑)。

―では最後に、おふたりにとっての“ゲームとは何か?”を教えていただけますか。

坂口 僕の場合、それこそゲームで物語を紡げるということは、すごく素晴らしいことだと思っていて。スーファミ時代はかわいらしくデフォルメされたドット絵のキャラたちがちょこまか動いているだけだったのに、その物語で感動したというユーザーさんの声をいただけたのは本当にいい経験でしたよ。

特に、スーファミで初めて出した『FFIV』でパロムとポロム(魔道士の少年と少女)が自ら石化して主人公たちを助けるというシーンを入れたんですが、そこで涙しましたって感想をたくさんいただいて、やってきてよかったなって。あれは忘れられないですね。

堀井 あのシーンはいいよねぇ。僕はいつでもプレイしてくれた人たちに驚きを与えたいという気持ちでゲームを作ってます。『DQV』では丁寧に結婚相手を選ぶということでプレイヤーがびっくりするだろうなと考えていたし、『DQVI』では“自分探し”をテーマにして夢と現実を入れ替えちゃうって仕掛けを用意したし。

坂口 それと、ゲームっていうのは開発者でさえ思い通りにならないっていうのが醍醐味なんじゃないかな。例えば、生みの親である堀井さんがプレイしたからって、メタルスライムへの攻撃が当たるようになるわけじゃないし、はぐれメタルにはすぐ逃げられるだろうし(笑)。

堀井 それは言えるね。僕も自分で作っておきながら、自分のゲームは結構やり込むタイプだから。自身で作ったものに熱中できるっていうのは、他のエンターテインメントではなかなかできない体験かもしれないよ。

坂口 敵を倒して宝箱を落とすかどうかも、コンピューターがランダムに決めることだから確率は平等なはずなんですけどね。でも自分だけ狙いのお宝がずっと手に入らなかったりすると、ゲームの中にある種の人格を感じたりしますよね。

堀井 僕にだけ意地悪しやがって、とか(笑)。ゲームならではの楽しみ方だね。

―ありがとうございます! ゲーム史に残る対談、感動しました!!

堀井雄二フリーライターとして活躍後、PCゲームにハマり、開発した『ドラゴンクエスト』が大ヒット。シリーズ最新作『ドラゴンクエストヒーローズ 闇竜と世界樹の城』が好評発売中。61歳

坂口博信スクウェアで『ファイナルファンタジー』シリーズを立ち上げ、「XI」まで携わる。2004年、ミストウォーカーを設立。現在手がけているスマホゲーム『テラバトル』は好評配信中。52歳

(取材/昌谷大介 牛嶋 健 武松佑季 千葉雄樹 東 賢志(A4studio)撮影/下城英悟)