鈴木宗男氏(右)と佐藤優氏が緊迫が続く中東情勢について議論する!

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

今回のテーマは、まず、緊迫が続く中東情勢、特にイランとサウジアラビアによる核拡散の危険性だ。

■中東ばかりか韓国にも核武装の可能性が?

鈴木 今日は佐藤さんに、日ロ関係、イラン問題、そして辺野古問題について分析をいただきたいと思います。では、佐藤さん、お願いします。

佐藤 まず日ロ関係の話では、悪化しつつある状況を、いかに現状でとどめるかが当面の課題になります。先生、このままいくと(北方領土へビザがなくても渡航できる)「ビザなし交流」が止まるかもしれないですね。

鈴木 そうですね。

佐藤 ロシア側がパスポートを持って査証(ビザ)を取ってこいと言い出す可能性は十分あります。とにかく、プーチンの年内訪日は相当難しくなってきていますが、首相官邸なり外務省がそれをどこまで読めてるかは、非常に難しいところです。それで、今日(4月16日)の朝日新聞1面に出ていた「イスラム国」の話ですが、実は「イスラム国」については、日本でちょっと話が大きくなりすぎている感じがします。そのせいで見落とされているのが、イエメンです。実は今、国際情勢のカギを握るのはイエメン情勢なんです。

アラビア半島の南方に、フーシ派というシーア派がいるんですが、彼らを今、後ろで支援してるのはイランです。イランのイスラム革命防衛隊が工作員や兵士を送り込んで、イエメン情勢を不安定にしている。これに対してアメリカは何も手を打っていないんですよ。

その結果、サウジアラビアが有志連合をつくって、空爆を始めてる。事実上、地上軍も入ってます。これに対してロシアは「サウジのやってることは非人道的だ」と人道干渉を始め、間接的にイランと連携するという構造ができている。ロシアは中東カードを使い、再び国際社会に乗り出そうとしているんです。

つまり、ロシアの関心が極東から中東に向かってるため、日ロ関係をぜひとも改善しないといけない機運が、ロシアの中で薄れていってる。

日本政府の議論は欧米から理解不能

そんななか、日本での安保法制化の議論を見ていると、これが箸にも棒にもかからない議論をやっている。ホルムズ海峡の有事の際に、掃海艇が派遣できるかを議論しているんだけれども、今の「イスラム国」は海軍を持ってない。「イスラム国」に機雷を仕掛ける能力はないわけです。となると、どこの国が仕掛けるのか? これはどう考えてもイランになります。

ちなみに、ホルムズ海峡の国際航路帯は中間線がない。あれはオマーンの領海を通ってるんです。つまり、オマーンの領海内にイランが機雷を敷設することは、国際法上、イランがオマーンに宣戦布告をすることになります。そこに掃海艇を派遣することは、国際法的に日本がオマーン側に加わって、イランに対して参戦することになります。要はイランと戦争をするかどうかという話を、今国会でやっているわけです。

ところが、アメリカは今、イランといかに手を握って「イスラム国」を封じ込めるかの話をしている。だから、日本の政府がやっている議論は、アメリカからもヨーロッパからも理解不能なんですよ。

そもそもイランがオマーンの領海内に機雷を仕掛けることは、想定し難い。フィリピン海軍と日本の海上自衛隊が戦闘状態に入る可能性くらい低い。これほど日本での議論はズレてるわけです。

それからもうひとつ。オバマ政権は本当にロシアが嫌いです。ですから、「イスラム国」との戦いにおいてロシアと提携する可能性を完全に排除しています。

そのアメリカは、「敵の敵は味方」理論でイランを味方につけようとしている。それが4月2日の深夜に決まった「イランの核問題の枠組みに関する合意」です。要するにイランの核開発を容認することなんですね。

アメリカは、イランが核を持ってもそれを抑止力として使うだろう、今のハメネイ最高指導者とロウハニ大統領の下では、前のアフマディネジャド大統領のときとは違う、イランが積極的に仕掛けていくことはない、と見てるんです。

イランの狙いはサウジの解体

しかし、ならば今のイエメンにおけるイランの行動をどう判断したらいいのか。核を持っていなくても、シリア、レバノン、それからイエメンにこれだけの拡張主義的な対応をイランはしている。そのイランに核のカードを持たせることは、サウジアラビアは許さない。

イランの狙いは何か。メッカとメディナをシーア派の支配の下に置くことです。それはサウジの解体につながる。これが究極目標。このメッカ、メディナを落とすためのイランの第1段階の攻撃が、イエメン情勢の不安定化なんです。

さらにこの次の段階でイランが核兵器を保有することになれば、パキスタンとサウジアラビアの間で秘密協定が作動するでしょう。すなわちパキスタンが持っている核弾頭のオーナーはサウジアラビアなので、イランが核を持ったら、パキスタン領内にある原爆の何発かをサウジの領内に移す。アメリカはそれをストップできません。もしそれをやるとアメリカとサウジの関係は断絶する。

そしていったんサウジが核兵器を持つと、カタールもアラブ首長国連邦もオマーンもパキスタンから核を買うし、エジプトは自力で核開発をするでしょう。それからヨルダンも自力で核開発できます。こうして核不拡散体制が崩壊するわけです。

その後どうなるか? 極東では韓国の核武装シナリオが出てきます。そうなった場合、独島問題とか歴史認識問題について韓国は、核カードを使いながら日本に要求してくるでしょう。

こういう連鎖が10年、へたするともう少し短いスパンで起こるかもしれない。

オバマ政権は、実態としてはイランに譲歩してる。これがイランに間違ったシグナルを送ることになり、イランがイエメンに手を出すことになった。その結果、「イスラム国」との戦いにイランが本格的に参戦するより先に、サウジに打撃を与えるためにイエメン攻撃が始まった。

この混乱状況のなかで日本がロシアに接近することは、相当の覚悟と戦略的な意図がないとできないわけです。

(撮影/五十嵐和博)

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、埼玉県出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

■「東京大地塾」とは?毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢等の分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は5月28日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ