シーズン開幕前の評判とは打って変わり、苦戦の続く広島カープ。そんなカープにエールを送るべく、週プレNEWSは赤ヘル軍団を初優勝に導いた古葉竹識(たけし)監督へインタビューを敢行。「広島カープ初優勝までの軌跡」を中心に語られた前編に続き、後編では現在も伝説の試合として語り継がれる「江夏の21球」そして現チームの期待の選手」について聞いてみた。

【インタビュー前編→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/05/12/47783/

―他に当時の「赤ヘル」名シーンといえば、1979年の近鉄との日本シリーズ。「江夏の21球」はあまりにも有名です!

古葉 すばらしい経験だったね、忘れもしない。3勝3敗で迎えた第7戦。カープが4対3と1点リードしていた9回裏。先頭バッター(羽田)がヒットで一塁に出て、すかさず盗塁をしてきたんだけど、キャッチャーが暴投して三塁まで行かれてしまった。

―監督として何を考えていましたか?

古葉 江夏は必ず抑えてくれると信じていた。このタイミングで、マウンドへ伝令に行ってもらってね。「丁寧にコースを狙った結果、満塁にしても構わない。あとは、江夏に任せる」と伝えた。江夏だからこんな言葉を掛けられたんだ。

その後、実際にノーアウト満塁になったんだけど、そこで、僕はふたりのピッチャー(北別府と池谷)をブルペンに行かせたんだ。そしたら、江夏の様子がおかしくなってね。サードの衣笠がマウンドに駆け寄ったら、「サチ(衣笠)、俺がマウンドにいよるのに、ふたりもブルペン行かせよった。もう投げる気がせん!」って怒ってたらしいんだよ(笑)。

―そこで怒れる江夏さんもすごいですね。

古葉 いや、気持ちはわかるよ。江夏には、シーズンを通して抑えで活躍してきた絶対的な自信があったんだ。それで衣笠が「ここで代えるバカがいるかよ。なんか先のことを考えてるんだよ」と言ったんだけど、それでも江夏は納得しなかったみたいで、衣笠が「これでチームを辞めるというなら、オレも辞めてほかの球団いくよ」ってなだめたらしいんだ(笑)。

―ちなみに、なぜブルペンに行かせたんですか?

古葉 もし同点になって、表の攻撃になったら、江夏のところで代打を出すつもりだったんだよ。その後の代えのピッチャーにブルペンへ行かせた。江夏のことは信頼していたけど、監督としては当然の務めを果たしたんだ。

―なるほど。そして、運命のシーンへ行くんですね。

古葉 三塁ランナーの動きが怪しかったんだ、誰が見てもね(笑)。だから、ベンチにいたメンバーに「お前たちは、三塁ランナーだけ見ててくれ。とにかくスタートしたら、『はずせー、来たぞー!!』と江夏に向かって叫べ」って。僕自身も相手監督(西本)のサインの感じとかしぐさを見てた。監督も怪しかったし、絶対スクイズが来ると確信していたよ。

―実際、ランナーがスタートしスクイズの構えを見せました。

古葉 控え選手たちは、ベンチから飛び出るくらいに「走ったー! はずせー!」と叫んだんだ。それで江夏は、このときカーブで外したからさらにすごい。

―それは、なぜすごいんですか?

古葉 普通、外すときはストレートだろ。たとえ、カーブの握りだったとしてもストレートに握りを戻すよ。でも、それだとバッター(石渡)にファールにされる可能性がある。あれは、曲がったから空振りになったんだ。

―ランナー(代走の藤瀬)はほとんどホームベースの前まで来ていてタッチアウト。バッターも三振にしとめました。

古葉 その後も二塁三塁だったわけだけど、きっちり連続三振を取って日本一になったんだ。本当にすごい経験だったよ。

”気になる選手”は、やっぱり守備職人のあの人!

―鳥肌が立ちますね!  ところで、今の広島カープで古葉監督時代も使いたい選手っていますか?

古葉 セカンドの菊池だね! 彼の守備は本当にすごいな。セ・パ両方でも一番じゃないか。一番驚いたプレーは、三塁にランナーがいるときに、バッターがセンター前に抜けそうな当たりを打ったんだ。それを取った時点ですごかったんだが、彼は一塁に投げるのではなく、ランナーが飛び出していた三塁に投げてアウトにした。一瞬の判断能力もすばらしいね。

―最後に、ちょっと元気のない今の広島カープにひと言お願いします。

古葉 僕はカープ創設5~6年目で入団したんだけど、その前の先輩選手たちはいろんなところへ行って、「カープを支援してください」と頭を下げて大変だったんだ。球場に樽(たる)があって、ファンからカンパももらっていたしね。

そういう時代を考えると、今は“カープ女子”なんて方々もいるみたいだし感慨無量だよね。ファンの皆さんと頭を下げて回ってくれた先輩選手あっての今なんだ。今シーズンは特別ファンに期待されてるだろ。皆さんを裏切るようなことだけはしないでほしいなあ。

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「今年のカープの戦力なら、必ず優勝できる」

“球団創設以来初の優勝”、“広島カープで日本一”を経験したただひとりの監督、古葉竹識はこう断言する。75年の初優勝時のように、オールスター明けには一気に首位へ!?

●古葉竹識(こば・たけし)

1936年生まれ、熊本県出身。58年に広島カープへ入団。75年に監督就任。赤ヘル旋風を巻き起こし、球団初優勝を飾る。85年まで監督を務め、優勝4回、日本一3回を誇った。99年には野球殿堂入り。2008年からは、東京国際大学硬式野球部の監督として活躍中

(取材・文/週プレNEWS編集部)