気合だーっ! 道場で吠えるアニマル浜口さんの元気の秘訣は?

GWはとっくに終わって夏も近づいてきているのに、連休ボケがいまだに抜けず仕事にちっとも身が入らない…。そんな記者の様子がバレたのか、編集長が「おまえ、最近気合が入っていないな」とチクリ。

誰か私に気合をください…あ、気合といえばあの人がいるじゃないかーー! ということで、東京・浅草のアニマル浜口さんのご自宅を訪ねてみた。なぜ、浜口さんは24時間365日、気合フル充電でいられるのか?

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そもそも、あまりにも有名となった「気合だー!」のルーツってなんなのか? それは意外と古く、1980年代の中頃だという。浜口さんが神妙な顔で語り始めた。

「人間っていうものは、そんなに大したことはない。だけど、腹を決めた時、そいつは恐ろしく強くなる。『苦悩を突き抜け歓喜に至れ』っていうベートーヴェンの言葉がありますけどね、僕は国際プロレスから新日本プロレスに殴り込みに行った時に、この四角いリングでどう生き抜くか、脳髄を絞った。わかりますかな?」

所属していた国際プロレスが崩壊して、浜口さんはラッシャー木村(故人)、寺西勇とともに「国際はぐれ軍団」として新日本プロレスに移籍。アントニオ猪木との「1対3」ハンディキャップマッチという屈辱的な試合を組まれるなど、正統派レスラーだった国際時代とは打って変わって、新日本では生き抜くために反則攻撃もした。国際対新日本のぶつかり合いは、興奮した超満員のファンが暴動寸前、会場は異常な雰囲気に包まれていた。

「そんな時に始まったのが長州力選手とのタッグです。長州選手もこのまま猪木さんや藤波(辰爾)選手の下では終わらないよっていうのがあって、意気投合して合体した。殻を破って宇宙まで飛んでいこうと!

その頃ですね、僕は『息上げ』というものをやるようになったんです。試合場に入ったらダッシュしたり縄跳びやったり、腕立てをやったりする。その時に『ウワーッ!』とか大声出して叫ぶわけです。てめぇ、殺せるものなら殺してみろ!という感じで、恐怖心や雑念・邪念を取るというかね。こうやって試合前にスイッチオンに持っていくわけですよ」

叫ぶことによってテンションを高めると同時に、肝がすわって冷静沈着さを保てるのだという。プロレスラーにとって感情を露(あらわ)にすることも大事な要素だ。やがて、リング上でも「気合だー!」「燃えろ!」などと叫び出し、それらは浜口さんの代名詞になっていった。

「気合」だけでは息が詰まる

その「気合だー!」がお茶の間に広く浸透したのは、娘の京子選手がアテネオリンピック(2004年)に出場した時だ。

「アテネに向かう成田空港でね、京子の顔が真っ青なわけですよ、オリンピックの重圧で。そこで僕は『気合の10連発』をやった。目を覚まさせるというかね、頭から水をぶっかけるようなもんです。ハッタリじゃなくて、あの時はああやらざるを得なかった」

「気合だー!」の他に、浜口さんには「ワッハッハ、ワッハッハ!」と大声をあげて笑うパフォーマンス(?)もある。それが生まれたきっかけは、やはりアテネ五輪。京子選手は準決勝で破れ、悲願の五輪金はならなかった。だが、浜口さんはすぐに頭を切り替えたのか、会場で早くも「北京だ!」と叫んだのだという。

「言った瞬間に、しまった!と思った。また京子にプレッシャーをかけてしまうじゃないかと。その後に開発したのが『笑いの呼吸法』でした。『気合』を入れ続けていると、息が詰まってしまう。この詰まった息を通すのが『笑い』なんです」

「こうやるんです」と言って、浜口さんはおもむろに立ち上がると姿勢を正し「ウ~ワッハッハ!」と実演し始めた。歌う時の腹式呼吸のように、腹の空気が大きく開けた口から笑い声となって解放される。突然の大声に記者は呆気にとられながらも、こんなにも裏表のない、熱い人はなかなかいないと魅了された。

ここで、浜口ファミリーの絆を感じさせるエピソードをひとつ。06年、中国・広州で行なわれた世界選手権の決勝で、京子選手は相手のバッティング(頭突き)を受けて顔面を4ヵ所骨折する重傷を負い、銀メダルに終わった。

「手術では鼻に鉄の棒をグワーッと入れられてね、男でもギブアップしますよ。もうかわいそうでかわいそうで、腹立って僕は女房と一緒に『バカヤロー! コノヤロー!』って、家の中で毎晩一升酒飲んで叫びましたよ。京子が言いたくても言えないことを親が代弁するわけです。そしたら一ヵ月経って京子が『お父さん、もうわかったから』って。

そこで僕は気づいた。人間てのはね、このままじっとしていても前に進まない。一切合財を溶かし込むような大きな度量・器量がないと大事は成さず。俺の腹は溶鉱炉だコノヤロー! なんでも持ってこい!と目ん玉ひんむいて、誰に言うわけでもなく言うわけだ。

ここなんです、大事なのは! 人間も動物なんだ。動物は吠える。人間は吠えることを忘れて人格者になったらダメだね。吠える時は下品な言葉のほうがいいんです。そうするとすっきりして元気が出てくる。堪忍袋の緒が切れたっていうけど、緒は緩めのほうがいいんです。わかりますかな? ワ~ハッハッハ!!」

浜口式脳トレは、「身体から脳を変える」

「気合」で集中し、「笑い」で解放する。「気合と笑いのコラボレーション」は艱難辛苦(かんなんしんく)を味わった末に編み出した浜口さんの人生哲学なのである。

「息上げをやり始めた頃、集中力を養う方法も考えました。1から10まで早口で数えるんです。『123456789、10、123456789、10』…(発音は)アバウトでいいんです、速く言って息を切らす。または適当な言葉でもいい。『できるできるできるできる、あ~はいはいはいあ~はいはいはい、できるできるできるできる、きあいだ! きあいだ!』…大切なのはリズムで、集中して無心になる。脳が目覚めますよ。

僕はたとえば、テレビ局行くでしょ。楽屋でゴムを引っ張る運動、スクワットと声出しを計30分やるんです。息が上がって筋肉が張って男性ホルモンが出ていいんですよ。それでその後に『二度とない人生一切の困難を乗り越え、さー!でっかい夢掴んで気合だっ!気合だっ!気合だっ!』とやる。収録では最初からスイッチオンです。僕はこういうことを直感でやっているんです」

経験に基づき直感で編み出した浜口さんの自己流脳トレだというが、なんだか説得力を感じる。そこで、TVコメンテーターとしてもおなじみの脳科学者・中野信子氏に聞いてみた。中野先生、浜口さんの脳トレを脳科学的に解説してもらえますか。

「強いポーズを取る時、人間の体内ではふたつの物質の濃度に変化が起きます。そのうちのひとつはテストステロン。やる気や攻撃性を高める男性ホルモンです。強いポーズを取ることによって、この“やる気のホルモン”の値が上昇します。もうひとつはコルチゾール。これは“ストレスホルモン”とも呼ばれ、心理的な負担のバロメータになるものです。強いポーズを取ると、この値が下がるのです。

では、弱いポーズではどうなるのでしょうか。この時、強いポーズとは正反対の現象が起きます。やる気のホルモンは減少し、ストレスホルモンは増加してしまいます」

なるほど、脳科学的にも正しかったわけですね。

「普段の生活では、脳がすべてを制御しているように感じられるかもしれません。でも、身体の状態をまず変えることで、脳の状態を変えるというコントロール方法もあるのです。アニマル浜口さんは経験的にこの現象を巧みに使いこなし、独自に『息上げ』という方法論として確立されています。ご自身の身体の声にきちんと耳を傾けることのできる、素直な心の方なのだろうと思います。

脳の最適化の第一歩はまず身体のコントロールから。アニマル浜口さんの姿から、改めて学ばせていただいた思いです」

…と、中野先生も絶賛していらっしゃいます! さて、そんな浜口さんの次の目標は?

「もちろん、リオですよ! 応援頼みますよ! ワッハッハッハッ!!」

普通の人が浜口さんのようなスーパーポジティブな人間になるのは簡単ではないが、たとえば会社に行く気になれない朝に浜口式脳トレを実践してみれば、今日という1日が変わるかも!?

(取材・文/中込勇気 写真/アニマル浜口氏提供)