規制で店頭価格が上がって売れ行きが下がれば、酒税による税収も減って国も困るはずなのだが……

酒好きには到底受け入れられない酒税法改正案が、自民党から今国会での提出に向けて準備されている。

この改正案は、酒の不当な安売りを行なう業者に対し、業務改善命令や酒類販売業免許の取り消しといった処分をできるようにするもので、要するにスーパーやディスカウント店などが酒の大幅な値下げをできなくなる可能性があるというシロモノだ。

「酒類の不当廉売についての申し立てが多く、酒税の円滑な徴収が阻害されている恐れがある」という理由で、来年から施行できるよう年内中の成立を目指すという。

この動きに対し、全国の大手量販店が加盟する日本チェーンストア協会の広報担当者は戸惑いの声を漏らす。

「現在も不当廉売は独占禁止法により公正取引委員会がしっかり管轄しているので、多くの小売店が法の範囲内で消費者に喜んでもらえるように安く酒類を販売するという企業努力をしているんです。ですから、協会としてはやはり、なぜあらためて酒税法の改正をするのか正直、困惑しています」

改正案提出の“表向き”の理由は前述した通り。では、それ以外にどんな狙いがあるのだろうか? 酒税法に詳しい青山学院大学法学部の三木義一教授はこう話す。

「改正案は、中小の酒店が多く会員になっている『全国小売酒販政治連盟』(酒政連)が自民党の議員に対して献金や働きかけを行なって動き始めたと聞いています。そもそも、提出理由に挙げられる『酒税の円滑な徴収』ですが、酒税はメーカーや酒蔵が出荷量に対して決まった税率で国に納めているので小売店は本来、関係がない。スーパーなど量販店の安売りのせいで売り上げが減っていると考える町の酒店の思惑が、次回選挙の票集めに必死な議員を動かしたと考えられます」

改正案提出は“脅しのポーズ”か

そんな理由で安売りをなくされてはたまらない。

「もともと、酒類販売業免許は新しい酒販店をつくらないことで町の酒店の利益を守ってきた、いわば利権の巣窟。それが平成以降の規制緩和で酒類販売店が増え、町の酒店は経営を圧迫されてきました。酒政連はもう一度免許を締めつけ、安売りを規制すれば現状を変えられると考えているのでしょう」(三木氏)

ただし三木氏は、改正案が決議されても実際には機能しないだろうと指摘する。

「実は酒販免許制度自体、以前から合理性のない規制として問題視されていました。1992年に酒類販売業免許の取得拒否に関する裁判が最高裁で行なわれた際、多数意見は合憲でしたが、裁判長が酒販免許は憲法22条1項の『職業選択の自由』に反するという判断をしています。もし法改正が行なわれ、実際に量販店の免許を取り消したりすれば、既存の酒店を守るために免許制度を乱用したと考えることもできるので、その場合は間違いなく違憲と判断される可能性が高い」

そんなムダな法案をなぜ、わざわざ国会で審議する必要があるのだろう。

「町の酒店からすれば、この改正案提出に関する動きだけでも量販店に対しての牽制(けんせい)にはなりますよね。すべては“脅しのポーズ”というだけなのでは」(三木氏)

飲兵衛ライフに影響がないことを願うばかりだ。

(取材・文/牛嶋健[A4studio])