最短記録を更新した田中恒成への期待は膨らむ!

ボクシング界からまたひとり、超新星が飛び出した。

5月30日、国内最速のプロ5戦目でWBO世界ミニマム級王座に就いたのは、弱冠19歳の田中恒成(こうせい・畑中ジム)。

名古屋の中京大学に在籍する現役大学生でもある田中は、アマチュア時代からその素質を高く評価され、“中京の怪物”のニックネームで将来を嘱望(しょくぼう)されてきた。5戦目での戴冠(たいかん)は、現WBO世界スーパーフライ級王者・井上尚弥(なおや・22歳・大橋)の6戦目を抜く新記録だ。

メキシコの強打者、フリアン・イエドラスと空位の王座を争った田中は、電光石火のワンツー、アッパーでタフなメキシカンをたびたびダウン寸前に追い込み、文句なしの判定勝利を飾った。うるさ型のファンはKOを逃したことを不満に思うかもしれないが、初の大舞台で5倍以上のキャリアを持つ相手に完勝してみせたのは見事のひと言。

さて、そんな若き王者にはこの後、いくつものビッグマッチが期待されている。最も有力なのは、現IBF同級王者である高山勝成(32歳)との統一戦だ。そもそも今回の試合は、高山が保持していたWBO王座を返上したことで組まれた決定戦。

高山サイドにしてみれば、田中の挑戦を避けたと見るファンがいるのは面白くないだろうし、田中陣営にとってもチャンスを恵んでもらったようなムードは不本意なはず。そうした状況を理解してか、高山は早い時期から「(田中が)世界を獲ったら、ぜひ統一戦を」と呼びかけていた。

これに対し、田中が所属する畑中ジムの畑中清詞(きよし)会長も「うちはもちろん構わない」と応え、現在、名古屋市内の私立高校に通う高山との対戦話に「高校生vs大学生の構図は話題性もあるのでは?」とそろばんをはじく。

何より田中本人も「やれるなら是非やりたい。最近、大晦日(おおみそか)にボクシングが盛り上がっているのを見て、自分も参加したいという意識が強くなってきました」と強者との対戦に前向きだ。

勢いに乗る田中からすれば、ベテラン高山を食って新旧交代を印象づける絶好の機会。しかし、スタミナ旺盛な高山攻略はひと筋縄ではいくまい。

田中恒成に見る夢は膨らんでいく!

今回のイエドラス戦では、過剰な減量の影響なのか、中盤に失速するシーンも見せた。そのため一部に「高山有利」の声も上がるが、対戦が決まれば、高山の手数と田中のスピードが交錯する小気味いい試合となるはずだ。

ただ、その一方で田中陣営は減量苦を考慮し、近い将来の階級アップも示唆(しさ)している。そうなれば、高山戦以外にも様々な可能性が見えてくる。1階級上のライトフライ級にはWBA王者の田口良一(28歳・ワタナベ)がいるし、そのまた上のフライ級には3階級制覇に成功したWBA王者の井岡一翔(かずと・26歳・井岡)がいる。

現在、9人もの世界王者を抱える日本ボクシング界では、世界のベルトを巻いてからがスタート、といった風潮が強くなっている。並み居る世界王者の中で自らの商品価値を高めていくには、ライバル王者を倒してアピールするのが一番。

田中が階級を上げながら強敵を退ければ、いつしか軽量級の絶対王者として君臨する元祖怪物、ローマン・ゴンサレス(27歳・ニカラグア)との対戦も…と夢も膨らむ。新王者の動向に要注目だ。

(取材・文/友清 哲)