ワールドカップへの意気込みを語る日本代表・岩渕真奈選手

ケガで出遅れていた期待のFW・岩渕真奈が一次リーグ3戦目のエクアドル戦で途中出場、ついにピッチに戻ってきた!

2008年のFIFA U-17女子ワールドカップ(以下、W杯)で、「まるでマラドーナのようだ!」と、わずか15歳で世界に衝撃を与えた日本人FWの逸材。

あれから7年、“10番の継承者”との呼び声もある、なでしこの若きアタッカーの「雪辱戦」ともいえる2度目のW杯が開幕。『週刊プレイボーイ』本誌では大会前にキャスター・山岸舞彩が彼女を直撃、今回の舞台に賭けるその思いを語ってもらった!

山岸 2013年にドイツ・ブンデスリーガのホッフェンハイムに移籍して、14-15年シーズンにはバイエルン・ミュンヘンに移籍、そしてリーグ優勝達成と…これ、すごいことですよね。すごいことなのに海外のことだからか詳細があまり日本に伝わってこないんです。ですから今日は、W杯を前に“なでしこの次期エース”のドイツでの武者修行の日々について詳しく聞かせてください!

岩渕 武者修行…あー、でもホッフェンハイムにいた最初の半年が一番大変な時期でした。ドイツのサッカーにも慣れないし、言葉も通じないし、しかも1部じゃなくて2部のリーグで戦っていましたし…。1年で1部に昇格できていろいろと助けてもらったので、ホッフェンハイムにはすごく感謝しています。

山岸 今は、ドイツ語でのコミュニケーションに問題ありませんか?

岩渕 サッカーをやる分には、なんとかという感じです。ホッフェンハイムではチームメイトがほぼドイツ人だったんですけど、今のバイエルンはわりと多国籍のチームで。ドイツ語が主流だけど英語が交じったり、イタリア語が交じったり…。

山岸 ドイツのサッカーというのも、最初慣れるのは大変だった?

岩渕 とにかくスピードが違います。それはパススピードも走るスピードもゴールに向かうスピードも、全部。…日本にいる時は「もうちょっとスピード上げたいから、みんなもっと速く来て」みたいな感じでチームメイトに言うことが多かったんですけど、ドイツではむしろ「止まって!」って感じで。縦への動きや意識が本当に多いです。あとは、選手の特徴がはっきりしている気がします。スピードがずば抜けていたり、キック力が段違いだったり。

山岸 体格差は感じます?

岩渕 今は慣れましたけど、11年のW杯(ドイツ大会)で海外の選手と戦った時や、最初にドイツに来た2年前は「ああ、もう無理だ」って。大きくなりたいなって、今以上に思ってましたね。でも、相手は相手で小さいとやりづらいみたいなんです。練習で肩をぶつけ合うフィジカルコンタクトの練習みたいなものもあるんですけど、小さいからイヤがられます。ちょこちょこと面倒くさいんでしょうね。そういうところには、常に活路を見いだしていかないとなって思います。

チームメイトにはかわいがられてます

山岸 プレー以外の部分の違いはありますか?

岩渕 サッカーをやる環境が整っています。特にバイエルンは男子が強豪だから、マネジメント的な部分が本当にしっかりしていますね。お昼ご飯も男子が使うレストランで栄養バランスのいいものを食べられます。練習時間も、日本では学生もいるし働いている選手もいるしで夕方から始まるのが普通で、家が遠い選手だと帰宅するのが夜中になるんですけど、こっちはみんなクラブハウスの近くに住んでいて。働いている選手もいますけど、朝練もありますし。

山岸 ドイツのサッカー、ひいては所属チームにはうまくフィットできました?

岩渕 そうですね、みんな、よく面倒見てくれるので。

山岸 妹的な存在?

岩渕 下から数えたほうが断然早いので、そうかも。かわいがってくれてるなって感じます(笑)。あと、ホッフェンハイムでは「自分が引っ張っていくぞ」という感じだったんですけど、バイエルンは各国の代表選手が集まっているので、毎日の練習から戦いですね。「味方同士なのにライバル」という感じは、日本にいた頃には得られなかったのですごく楽しいですよ。監督も自分の持ち味をわかってくれているので、とりあえず自分らしくやればいいかなって思っています。もちろん、そう言っていられるのも、今は試合で使ってもらえているからなんですけど…。

山岸 ポジションはトップ下での出場が多かったですよね。

岩渕 前の位置だったらある程度どこでもいいんですけど、やっぱりボールに一番関われるので一番好きですね。

山岸 優勝チームでの1年間、ケガで試合に出られない時期もありましたけど、振り返っていかがでしたか?

岩渕 アジリティ( 敏捷性【びんしょうせい】)やドリブルといった、もともと自分が得意にしていた部分ではある程度やれるなという手応えは感じました。

山岸 逆に足りなかった部分は?

岩渕 ゴールです。シーズンでたったの3点じゃ、オフェンスの選手としては厳しい。シュートにいく回数が少なすぎたんですよね。

山岸 何が原因ですか?

岩渕 ゴールキーパーがみんなうまいんです。単純にセービングが。「打っても入らなそうだな」と思ってシュートにいけなかったことが何度もありました。そこについては改善しないとダメですね。

U‐17の時は、ただのクソガキですよ

山岸 なんかこう、はたから見ていると順風満帆なサッカー人生を送っているように見えるんですけど、自分でもそう感じますか? U‐17のW杯でゴールデンボール(MVP)を獲って11年にW杯優勝、翌年オリンピックの銀メダル。それで今回、バイエルンでリーグ優勝して…。

岩渕 全然そんなことないですけど、とりあえずU‐17の15歳の時は、とにかく調子に乗ってましたね(笑)。ただのクソガキですよ。今、もしそんな若いコがいたら「ふざけんな」って思います。当時は注目されるのが嬉しかったし、楽しかったのでTVとかも喜んで出ていました。その後、U‐20、フル代表を経験して、U‐17は全然別物だったんだなって思い知ったんですけどね。もう「あの過去消したい!」くらいの気持ちです、今は。

だから、順風満帆なんてことないですよ。全然ダメです。ゴールデンボールを獲った時は確かにいい時だったけど、大会が終わって日テレ・ベレーザのトップチームに入ったら、チームで私が一番へたですっごく落ち込んだし、ついていくのに必死だったし。その底辺にいる時は本当にサッカーがつまらなかった。その当時は高校生だったんですけど、サッカーより普通の女のコしてたほうが楽しいなって感じでした。ケガもあって(前回の)W杯も行けないと思っていたし。

山岸 最終的には、前回のW杯では決勝のアメリカ戦を含む5試合に出場。その経験はやっぱり大きかったですか?

岩渕 とにかくすごかったですね。なでしこではどんな合宿でもいい経験をさせてもらっているんですけど、あの時は別格でした。私は全部途中出場だったのでベンチから見ている時間のほうが長かったですけど、すごいなぁって思って見ていました。あの(東日本)大震災があった年でしたし、自分たちも試合前に震災の映像を見たりしていたんですよ。そういう特別な力のようなものがあったのかなって今になってみると思いますね。

山岸 あの優勝には本当に日本中が勇気づけられましたよ。そういうスポーツの力のようなものは感じました?

岩渕 すごかったとは思います。でも、あんまり貢献できなかったんで「次こそは自分がやってやる!」という思いのほうが強いです。やっぱりサッカー選手って試合に出てなんぼだから、嬉しさよりも悔しさのほうが勝っていました。

10番、いつかつけられるならつけたい!

山岸 今回の大会には期するものがある、と。

岩渕 先発で試合に出たいですね。まずはそれが目標。4年前はついていくのに必死だったので。

山岸 世間はどうしても連覇を期待すると思うんですけど、前回大会でなでしこが確立した「組織力のサッカー」も年々研究されて、「日本対策」のようなものがされているのも感じます。

岩渕 追われる立場の難しさというのは皆さん感じていると思います。ただ、自分はなでしこのチームの中でもまだ追う立場なので、プレッシャーはあまりないです。

山岸 4年前のチームと今のチームの違いというのは感じていますか?

岩渕 実際のところメンバーもあまり変わっていないし、やろうとしているサッカー自体もそこまでは変わっていない。だからこそ、自分のような若い選手が「違い」を加えていかなければならないなって強く思います。それはすごく難しいことですけど。今のなでしこの中心メンバーは、08年北京オリンピックの頃から一緒にやっていて、連係も深めているわけで、そんな中に若い選手がぽーんと入れられるわけだから。でも、もうなでしこに呼ばれて4、5年たつし、そろそろやらなきゃいけない。自分が先陣を切るというか、若い世代の第1号になれるように。

山岸 楽しみにしています! では、最後の質問です。ずばり、W杯での目標ゴール数は?

岩渕 1点。とりあえず1点取りたいです。

山岸 謙虚(笑)。いずれ、なでしこの10番を背負う逸材といわれているわりには謙虚すぎないですか?

岩渕 本当にそんなこといわれているんですか…? でも10番、いつかつけられるならつけたいですね、やっぱり。岩渕真奈1993年3月18日生まれ、東京都出身。身長155cm。利き足:右 ポジション:FW、MF日テレ・メニーナを経て、トップチームの日テレ・ベレーザに。2008年のFIFA U-17女子ワールドカップでは、チームは準々決勝で敗退したにもかかわらずゴールデンボール(MVP)に選出される。11年女子ワールドカップ優勝、12年ロンドン五輪の銀メダル獲得に貢献。13年にドイツ・ホッフェンハイムに移籍。14年にはバイエルン・ミュンヘンに移籍し、リーグ優勝に貢献した

山岸舞彩1987年2月9日生まれ、東京都出身。『Jリーグタイム』(NHKBS1)、『サタデースポーツ』『サンデースポーツ』(NHK総合)のキャスターを経て、現在は『NEWS ZERO』(日本テレビ系)に、毎週月曜~木曜のレギュラーキャスターとして出演中

(撮影/松井英樹)