トヨタ「ミライ」 /価格723万6000円 (国の補助金は202万円) /1充填走行距離650km /車両重量1850kg /水素を燃料にして走る燃料電池車のミライ。一度の充電で走れる距離はガソリン車並み。補助金は202万円は大きい?

トヨタは昨年末、世界初の量産型燃料電池車「MIRAI(ミライ)」を発売した。

「燃料電池」(FC)は水素と(大気中の)酸素を化学反応させて電気を起こす。水素(H)と酸素(O)が反応しても出てくるのは「H2O=水」だけなので、FCは究極のクリーンエネルギーといわれている。つまり、燃料電池車(以下、FCV)はバッテリーの代わりに水素発電機を積んだ電気自動車(EV)なのである。

これでFCVとEVのガチンコバトルが幕を開けることになるが、両車のメリット、デメリットはどこにあるのか? エコカーの現状に詳しい自動車評論家ふたりに今後の展望まで聞いた! (前編記事→「欧米で施行される規制策は待ったなし! トヨタが"ミライ"をかけた覇権争いに突っ走る舞台裏」

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すでに日産の電気自動車(EV)リーフを2台乗り継ぎ、ミライも発表直後にオーダーしてもうすぐ納車予定という、自動車評論家の国沢光宏氏は"ミライの未来"についてこう語る。

「燃料電池車(FCV)の未来なんて誰にもわかりません。トヨタも、少なくとも20年くらいのスパンで考えているでしょう。今のEVが大学卒業生レベルだとすれば、FCVは生まれたての赤ん坊。赤ちゃんを大人と比べて『こんなにダメだ!』なんて批判はナンセンス。

私がミライを買ったのも高邁(こうまい)な思想のつもりはなく、ひとりのクルマ好きとして純粋に『世界初のFCVは買っとかなきゃ』という好奇心。同じ出費でクラウンを買うならミライのほうがはるかに面白いし、日本人として誇らしいでしょう」

そんな国沢氏は、EVとFCVそれぞれにメリットとデメリットがあると指摘する。

「FCVは基本的にEVですから、走りの良さもEVそのまま。現状のEVはエアコンを使うにもガンガン走るにも常にバッテリーの残量を気にしなくてはなりませんが、FCVはそういうストレスがなく思う存分に走れるEVなのが最大の魅力。

まだ気づいていない人も多いですが、EVはランニングコストも安いし、街には急速充電器も増えています。今のリーフはお世辞にもカッコいいといえません(笑)が、いいデザインのEVが出てくれば、FCVが成熟する前に、EV人気に火がつく可能性はあります」(国沢氏)

FCV不利?の予想も開発のカギ握る物質が!

日産「リーフ」 /価格273万8880円~354万5640円(国の補助金は最大27万円) /1充電走行距離228km /車両重量1430kg(S) /電気自動車のリーフ。最初のモデルから比べると販売価格は100万円ほどダウン! 航続距離もグンと延びた

三菱「i-MiEV(アイ・ミーブ)」 /価格283万8240円(X)、226万1520円(M)(国の補助金は最大71万円)/1充電走行距離180km(X)、120km(M) /車両重量1070kg(M) /電気自動車のアイ・ミーブ。EVの中では安く、補助金も魅力。バッテリー容量の違う2種のグレードから選べる

日本EVクラブ代表にして、近著『トヨタの危機』(宝島社)でトヨタのFCV戦略について疑念を呈した舘内端(たてうち・ただし)氏はこう話す。

「水素はどこかに埋蔵されているわけではなく、何かしらの方法で作り出さなければなりません。水素の作り方には、本命の水の電気分解の他、天然ガス改質、ガソリン改質、エタノール改質など様々な方法がありますが、いずれも大量の電力が必要なんです。

FCVは走行中にはCO2を一切出さないZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=排ガスゼロ自動車)ですが、水素を作るための電力まで含めると、現在の技術では実はガソリン車よりCO2排出が多い計算になる。

EVといえば、もうすぐ第2世代のリチウムイオン・バッテリーが出てきます。性能は現在の約1.5倍で、次期リーフは300㎞を超える航続距離になるとウワサされています。20年頃に向けて第3世代も準備されていて、リーフクラスの航続距離が500㎞から600㎞に達する可能性がある。

さらに、街の駐車場や高速パーキングエリアの一角に『非接触充電器』が敷かれるようになったら使い勝手はさらに向上する。少なくとも、差し迫ったCO2問題対応車として、より現実的なのはFCVよりEVと言わざるを得ません」

一方、水素を作り出す新しい技術の登場に前出の国沢氏は期待する。

「EVにも弱点があります。急速充電はともかく、現在の家庭用200Vでは1時間当たり3Aまでしか流せず、バッテリー容量が拡大しても自宅では充電に時間がかかりすぎるのです。FCVは水素をどう大量に作るかが最大のカギですが、最近では『褐炭』が注目されています」

褐炭とは、世界の石炭埋蔵量の約半分を占める低品位炭の一種。一般的な石炭より発熱量が低く、これまでは厄介者として利用されてこなかった。だが、褐炭には水素が多く含まれており、比較的安価かつ大量に水素を作り出せる可能性があるという。

「これまで誰も水素を作ろうと思わなかったから褐炭は見向きもされませんでした。でも、FCVが登場して『水素は儲(もう)かる』となれば、新しいアイデアや技術が出てくる可能性は十分にあるでしょう」(国沢氏)

現状では「EV優勢」と見る舘内氏もFCVを完全否定してはいない。

「EVも20年前はロクなものじゃありませんでした(笑)が、そこで全否定してしまっていたら、今のEVはないでしょう。今後、水素に関する大発明がないとは限りません。いずれにしても、FCV技術もEVのバッテリー技術も日本が世界トップであることは事実。でも、それを使いこなす思想や戦略で日本が欧米に負けてはいけない!」

5年後、東京オリンピック開催時の日本はEVがあふれかえっているのか、あるいは10年後、20年後にミライのようなFCVが主流となっているのか...。「ミライは神のみぞ知る?」である。

(取材・文/佐野弘宗 撮影/有高唯之)