松井章圭館長が考える、極真会館の使命とは?

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技化を目指し、4月、画期的な空手界の大同団結が成された。

いわゆる伝統派の空手団体を統括する全日本空手道連盟(JKF)と、大山倍達(ますたつ)が興したフルコンタクト系の世界最大団体、極真会館が手を握り合ったのだ。

歴史的大英断を下した極真会館の松井章圭(しょうけい)館長を独占インタビュー。今回の後編ではその進むべき未来を語る。

(前編記事→「衝撃の空手界大同団結で松井章圭館長を独占直撃!」)

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―館長が空手を始めたきっかけは、映画『地上最強のカラテ』だそうですね。90年代にはアンディ・フグやフランシスコ・フィリォがK-1で勝って、極真の強さを世間に印象付けた。それによって空手を始めた人もたくさんいますから、メディアの影響力はやっぱり大きかった?

松井 それは大きいですよね。私たちの時代でいうと、まさに一連の梶原一騎作品――『巨人の星』『あしたのジョー』『柔道一直線』『空手バカ一代』――これらの影響でそれぞれの競技を始めた人も多かったと思います。

近代空手が組織化されて50年の歴史でいえば、最初はいわゆる「空手ブーム」がありました。梶原作品の『虹を呼ぶ拳(けん)』というのが『空手バカ一代』の前にあって、そこにも大山倍達が登場するわけですけど、そういう劇画である程度知られていった。その後はK-1、PRIDEだとかイベントブームが業界を牽引しましたね。

―しかし、今は格闘技業界全体が下火になっていて、大きな影響力を持つ装置がないのでは?

松井 今は空手界を盛り上げているひとつにオリンピック競技化があるわけですが、これからは原点に返って、社会体育的な活動に邁進する時代だと思います。これからは、老若男女問わず人の育成に役立つという面が空手を推し進める力になるんじゃないかと思うんです。

―地道な草の根活動的な。

松井 以前のような派手さはないかもしれませんが、活動人員は確実に増えるだろうと思います。社会的なニーズが高くなれば、それに関わる人は増える。実際、我々の現役時代はほとんど青年一般男子の試合しかなかった。今は少年の試合はある、女子の試合はある、壮年の試合はある、型の試合はある…これだけ多様化しているわけです。

昔から言い続けていることですが、青少年育成をもっと組織の根幹にすえて、徳育的な側面も持たないといけない。そこに貢献しなければ、我々のような町道場の集合体は、社会にどのように貢献するのか?と。格闘家だけを育てるわけじゃないんですから。それは氷山の一角に過ぎない。門下生の多くは社会人になっていくわけです。我々はそこを見失ってはいけない。

逆に言うと、門下の裾野を広げることによって、ある意味、頂点が高くなるわけですから。昔は少なかった4歳から12歳の層がすごく厚くなっていますし、また女性も道着を着る人がすごく増えていますね。

真理は自分で見つけないといけない

「真理は自分で見つけないといけない」と、武道の本質を語る

―女性も増えている…だいぶイメージが変わったんですね。足に5キロの錘(おもり)を付けてサンドバッグ蹴るとか、裂けた拳に塩をすり込んでまた打ち込むとか、そういうムチャな稽古をしているイメージがいまだに残っているのですが(笑)。

松井 だいぶ以前には実際そういう人もいましたよね(笑)。今は昔とは違います。情報量が豊富だし、経験を積んだ指導者も多いし。いろんな意味で発展しています。

ただ、昔のほうが明らかに優ってたなというのは稽古の量ですね。下手したら今の選手達の2、3倍くらいの稽古はやっていたんじゃないですかね。正直、随分ムダもあったと思いますが、「ムダをムダと知ることはムダではない」という世界もあるわけです。

理屈じゃなく、まずはやらなきゃいけないという、なんにでも臨んでいこうという世界は、明らかに今よりも昔あったものです。格闘技には、一部にはその強さが必要なんです。それが勝負への執念だったり、動かなくなった体をさらに動かすような執念を生む。オーバーワークはよくないと言われるけど、若い時は一時期オーバーワークも必要なんですよ。

―意味がわからないことはしたくないという理屈っぽい若い人も増えていますが、武道の世界では師匠は弟子にいちいち説明しませんよね。

松井 例えばですね、昔の武道の道場では、志願してきた者に対して入門を許可するか否かという判断がまずあるわけです。本当にこの人は修行を積めるのか、志があるのか、それを見極めて入門を許す。その上で、最初は見て学ぶだけ、何も口添えをしない。そして、マネをしていく中で、ややもすると師匠はあえて「間違ったこと」を教えるんです。弟子からすれば教わった通りにやっているのに理由もなくピシャッと叩かれる。問いも出されずに「その痛みが問いだ!」みたいな(笑)。

打たれたほうは「これには何か理由がある」と、理由のないところにも理由を見出そうとする。不可抗力で起きたことでも自分に責を問う。そういう意識でいると、なんらかの答えが見えてきて、そこに真理が浮き出す。そこで初めて「これは間違っているんじゃないか」と気づき、自分の頭にも体にも問い質しながら正しいことを模索する。そして、いつも教えられた通りに動いて打たれていたのに、違った動きをしたら打たれなかった。そこでただひと言、「よし!」ってことになるわけですよ。

なるほど、言われた通りに素直に従ってやってきたけれども、それは間違っていたことだった。それに気づかせてくれたことが実は指導だったんだと。こういう指導もあるわけです。

―それに気がつかなかったら、ただの理不尽な仕打ちで終わっちゃいますもんね。

松井 そうなんです。他力本願で人に依存して何かを与えてもらえるもんだと思ってはいけないというか、真理は自分で見つけないといけない。こういうふうに、師匠と弟子の本当の信頼関係はできていくわけです。今こんな指導をしたら何を言われるかわかりませんけど(笑)。

担わなければならない使命

―いや、深いです! まさに武道ならではの「道」ですね。

松井 日本は精神文化の高い国ですから、方法論は別にしても、そういう部分を見直すことも必要だと思います。その一端を我々のような町道場が担わないといけない。子供たちはみんな素直ですしね。最初は下向いてもごもごしてた子がね、堂々と胸張って元気よく空手をやるようになりますし、挨拶もできなかった子が大声で挨拶するようになる。そういうことが何より大事でしょうね。

―さて、極真会館はJKFと大同団結を果たしたわけですが、極真会館自体も大山総裁が亡くなった後、20近くの団体に分裂しています。極真を名乗る団体すべての競技人口は世界中で増えているそうですが、今後は?

松井 全世界で100万人くらいですが、フルコンタクト団体の規模としては、人員でいえば、国際的にも国内的にも間違いなくうちが最大です。

とはいえ、うちから別れていった団体の門下生達もそれぞれ熱い思いで稽古に励んでいることでしょう。そういう思いを集約して、極真が団結できる日がくればベストだと思います。オリンピックがいい機会になってくれればいい。これから極真空手を志す子供たちのために是非、空手がオリンピック競技になって欲しいですね。

■松井章圭(まつい・しょうけい)1963年生まれ、東京都出身。13歳で極真空手に入門し、入門後約一年で初段取得。80年、第12回全日本大会に初出場し第4位入賞。85年、第17回全日本大会優勝。86年には、空手界最大の荒行といわれる「百人組手」を完遂し、87年の第4回全世界大会でついに優勝。94年、大山倍達総裁の生前の遺志に基づき館長に就任。現在、組織運営のかたわら世界各地を訪問し、技術指導、後輩の育成にあたる

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(取材・文/中込勇気 撮影/ヤナガワゴーッ!)