韓国で猛威を振るうMERS(マーズ/中東呼吸器症候群)コロナウイルス。

日本でも韓国からの流入が危惧されるが、それ以上に怖いのが韓国からMERS患者を“輸出”された中国での感染拡大なのだという――。

(前編記事⇒ 「MERSが本当に怖いのは中国への流入と大拡散! 当局は情報統制している?」

■うがいの奨励すら難しい中国の事情

中国独自の生活習慣も感染拡大を手助けしてしまいかねない。上海のある医療関係者はこう語る。

大皿から料理を取り分ける中国の食文化は危険。MERSは飛沫(ひまつ=ウイルスを含んだ唾液などの粒)感染するので、感染者と食事をともにすれば、ウイルスを取り込んでしまうリスクは非常に高い。

それと、今のところMERSは空気感染しないとされているが、韓国の病院ではエアコンフィルターに付着したウイルスが見つかった。もしこうしたウイルスが感染力を持つなら密閉空間で一気に広がる可能性もある。大気汚染が深刻な中国の都市部では、どの建物も窓を閉め切っており、その中にウイルスが漂っていたら目もあてられない

しかも、膨大な人口を抱える中国の都市部で感染者が出た場合、韓国の集落のように全体を封鎖することは不可能。感染予防策はマスクとうがいくらいしかないが、中国北部は慢性的な水不足が深刻で、うがいの奨励(しょうれい)すら現実的ではない…。

日本への流入は7月中旬の梅雨明け以降?

やはり、中国では早晩、MERSが流行し始めると考えておいたほうがいいかもしれない。となれば、最も心配な日本への流入はなんとか防ぎたいが、どうやらそれもかなり難しそうなのだ。

「現在、中国都市部の富裕層が行きたい国No.1は日本。しかも最近は、MERSを恐れて韓国への“ブランド品爆買い旅行”のキャンセルが激増しており、代わりに日本旅行を選択する人も多いといいます。

また、特に中東とのビジネスが盛んな上海から広東省にかけてのエリアは日本との商用の往来も多い。お金儲けに熱心な中国のビジネスマンが少しの発熱や咳(せき)で出張を取りやめたり仕事を休むとは思えません」(中国の医療事情に詳しいジャーナリスト・程健軍[チェン・ジェンジュン]氏)

そもそも、MERSには約2週間の潜伏期間がある。空港で検疫などの“水際対策”をどれだけ強化しても、感染者の往来を完全に防ぐことはできないと考えるべきだろう。

「2012年に発見されたばかりのMERSウイルスにはまだわからないことも多いのですが、乾燥を好むことはほぼ間違いないといわれます。となると、日本への流入や感染拡大の危険性が高まるのは、7月中旬の梅雨明け以降。最悪の場合、秋から冬にかけて本格的な拡大のピークを迎えるかもしれません

MERSには今のところワクチンも特効薬もなく、感染者が生き残れるかどうかは体力と体質、そして運次第だ。予防のためにできることも限られるが、体力を保っておくこと、微粒子を通さない「N95以上」のマスクを用意しておくこと、手洗い・うがいを欠かさないこと――せめてこの3点は意識しておきたい。

(取材・文/近兼拓史)