噴火に地震に、日本列島が揺れまくっている。今、日本を巨大地震が襲ったらどうなるのか? 

というのも、阪神・淡路大震災は1月、東日本大震災は3月と寒い季節の災害だったからだ。暑さは被災者にどんな影響を与えるのか? その時、何を用意していたら生き延びられるのかーー。

■1月の阪神大震災でも遺体の腐乱は問題に

本誌は昨年9月にも首都圏直下型M8級地震をテーマとする特集記事(37号)を掲載した。それは一昨年12月に政府・中央防災会議が報告した首都圏直下型地震の被害想定をもとに、東京でいかに生き延びるかをシミュレーションする内容だった。(記事⇒「避難所には入れない! 首都圏直下型地震発生から2週間を生き延びる“サバイバルBOX”」

中央防災会議が新たな警戒対象として挙げるのは、地震調査委員会の発表内容と同じく、(1)東京直下型(M7.3)と、(2)相模湾・房総南沖震源の関東大地震型(M8.2)の2タイプだ。

それぞれ建物の倒壊と火災による推定死者数は、(1)が2万3千人、(2)が7万人。だが、これらの震源でM7~8級の大地震が起きれば、犠牲者は2万3千人では済まないという意見も多い。昨年の特集でも防災学者の河田惠昭氏(関西大学教授)は、東京直下型の死者数は5万人以上と見積もっている。

では、この首都圏巨大地震が今、真夏に起きたらどうなるか? 真っ先に思い浮かぶのは、犠牲者の「遺体」が傷みやすくなることだ。これは生き残った人間にも深刻な悪影響を及ぼしかねない。

災害救助法では、安置所に運ばれた遺体は速やかに警察が身元確認と検視を済ませ、10日以内に埋火葬を終了せよと規定している。しかし、国内外で数多くの災害現場を取材してきた防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏は、

「遺体の多くが損傷し本人確認も難しい混乱状況では、災害救助法の期間設定で処理作業が進むことはまずあり得ません。阪神・淡路大震災の取材現場では、遺体を納めたひつぎを積み重ねてトラック輸送しようとしたら遺族に猛反発され、運搬効率が大きく低下しました。

関東大震災では腸チフス、赤痢、ジフテリアが発生

また、阪神地区で被災を免れた火葬場の数は限られていたので、遺体をヘリで奈良など他県へピストン移送して火葬していました。阪神・淡路大震災の犠牲者は後の関連死を除けば約5千人でしたが、1月でも最後は遺体の腐敗進行との時間勝負になったのです」

と言う。この阪神・淡路大震災の教訓から、大規模災害で大勢の犠牲者が出た場合には事前協定を結んだ周辺自治体の火葬場に分散する「広域火葬」が行なわれるようになった。

ところが、犠牲者数が阪神・淡路大震災の約4倍に達した東日本大震災では、その広域火葬もうまく機能しなかった。火葬には一遺体で最低1時間を要するため、とても10日以内の処理は間に合わず、結局は厚生労働省も緊急措置として「仮土葬」を許可した。報道されない震災秘話として、その腐乱しきった土葬遺体を後日に掘り返し、あらためて火葬する凄絶(せいぜつ)な作業が続いたのだ。

■関東大震災では腸チフス、赤痢、ジフテリアが発生

「3月の東日本大震災でも、そんな有り様だったので、巨大地震が真夏の首都圏を襲えば想像を絶する事態になります。壊滅した23区内各所には数百万単位の生存者と無数の遺体が取り残される可能性がありますが、首都だからといって自衛隊の手厚い救出活動と大量輸送力に期待するのは無理です」(渡辺氏)

というのも、自衛隊の災害出動の目的は被災地の遺体捜索や生存者の救助・救援だけではないからだ。皇居、官公庁、大使館、通信・交通網の中枢が集まる都内では、自衛隊は「治安維持活動」にも多くの人員が回される。その上、都心は瓦礫(がれき)で交通事情が悪くなるため、搬出の遅れた多くの遺体は夏の日差しで急速に腐敗が進んでいく。

「そこから先に何が起き始めるかは92年前の9月1日に起きた関東大震災を振り返れば想像がつきます。その当時も火葬場では処理しきれず、腐乱死体の山が衛生状態を悪化させて多くの伝染病が流行したのです」(渡辺氏)

課題が多数残る自治体の防災対策

作家・吉村昭が緻密な取材で記した『関東大震災』(文藝春秋)によると、関東大震災で伝染した病原菌は腸チフス、パラチフス、赤痢、ジフテリア、天然痘、猩紅(しょうこう)熱などで約1万4300人が発病し、2千人近くが死亡したという。

関東大震災では死者・行方不明者は約10万5千人に達し、特に下町の荒川地域での焼死・水死者が多かった。犠牲者を多数出した江戸川区は他の自治体には例のない『江戸川区遺体取扱・収容所開設運営マニュアル』を今年3月に作成している。

これは東京湾北部震源のM7.3、震度6弱~7の直下型大地震(冬18時発生)の被害状況をシミュレーションしたもので、想定死者は600人。遺体収容施設の一覧、間取り、遺族対応法、広域火葬の手順、業務ごとの担当職員名などが驚くほど細かく記載されている。その作成担当部署の同区防災危機管理課に取材すると、

「ご遺体の取り扱いには収容袋、ひつぎ、ドライアイスなどの備品が必要になりますが、それらをストックしたり、有事に効率的に調達する手段、衛生上の注意点などについては現在も検討作業を進めている最中です」

と、まだいくつもの課題が残っていることがわかった。防災に本腰で取り組む江戸川区でもまだ積み残した課題があるのだから他の区はもっと遅れているだろう。

東日本大震災では体液漏れ防止機能付きの収容袋は被災自治体にはなく警察、自衛隊、消防、米軍、医療機関などが提供した。しかし犠牲者2万体分には遠く及ばす防水シートや毛布も応急使用された。あれから4年。遺体収容袋を扱う製造販売会社「フジックス」によると、

「震災直後は一時的に需要が増えましたが、その後は全国の自治体が人口に応じた必要枚数を分散して入札購入する状態が続いています。しかし、おそらく何万人単位の犠牲者をいちどきに収容できるほどの枚数はまだ普及していないと思います」

備えは十分、とはいえない現状で箱根山の噴火まで確認された。杞憂(きゆう)であるうちはいいのだが…。

■週刊プレイボーイ27号(6月29日発売)「『猛暑下の被災で絶対に必要になるモノ』リスト」より(本誌ではさらに、真夏の被災で生き残るために最低限必要なサバイバルグッズも紹介!)