俳優の榎木孝明氏(59歳)が30日間の断食(本人いわく「不食」)に成功したとして話題だ。

期間中は水分と塩分、糖分補給の飴しか口にしないという過酷な生活。だが、9㎏減量したものの特に体に異変はないどころか「集中力が増し、睡眠も深くなって腰痛も消えた」などの効果まで得られたという。にわかには信じ難い話だが、果たしてそんなことが本当にあり得るのか…栄養失調になったりしないのか?

そこで、医学的に断食療法を行なう公的施設、五色(ごしき)県民健康村健康道場(兵庫県洲本市)の道場長で医学博士の笹田信五先生に聞いた。まず、そもそも人間は30日間も断食できるものなのか?

「可能です。脂肪が10㎏あれば、それだけで1ヵ月間、何も食べなくても水分だけ取れば生きていけるだけのエネルギーを蓄(たくわ)えていることになりますから」

では、榎木氏の言う減量以外のプラス効果については?

「そのような効果が得られることも事実です。断食というのは減量だけでなく心身ともに非常に健やかになれる療法なんです」

まさか医学的お墨付きがあるとは! でも、なぜ食べないことが心と体にいいのか。

「生命維持システムが断食によってストレスのない状態に保たれ、身体、精神的にいい効果として表れます。私の道場の体験者も高血圧や糖尿病などの生活習慣病が改善するだけでなく、不快指数を調べる充実感テストでも良好な結果が出て、うつ病を克服したケースもありました。特に断食4日目以降に体の好調を感じる人が多い」

断食の期間はどのくらいがベストなのだろう。

「私の道場では5日半断食して、5日半お粥(かゆ)を食べて『復食』する11日間のプログラムを勧めていますね。一度に30日間もの長期間の断食を行なうよりも、期間は短くても回数をこなし、生活習慣を改善していくほうが効果は大きいです」

断食を行なう際の注意点

なるほど。では、実際に断食を行なう際の注意点は?

「当然、誰でもできるというわけではなくて、体の状態によっては深刻な事態になりかねない行為でもあります。肝硬変や狭心症など臓器や血管に疾患のある人が無理に行なえば、最悪、命を落とすことも考えられます。たとえ健康体でも医療施設できちんとした管理のもとで行なうことをオススメします」

確かに、榎木氏も期間中は病院で寝泊まりしていた。専門家の指導は不可欠なようだ。

「特に、最初の3日間は断食によりホルモン動態が大きく変化して脱水状態になる時期。汗を多量にかくと、体内塩分が不足して不整脈を発症する可能性があります。さらに、いくら健康体でも急に体に不調をきたすこともあるので毎日、体の状態を診察すべきでしょう」

ところで榎木氏は、断食明けでいきなりワインや豚肉などを口にしていたが…。

「『復食』には特に気を使ってほしい。三分粥、五分粥、全粥という過程を踏んで徐々に通常の食事に戻していくべきでしょう。30日間もの長期の断食を達成したことも含め、榎木さんのケースはかなり特殊です」

俺も一気に痩せられるかも、と安易にマネをしないほうがよさそうだ。

(取材・文/武松佑季[A4studio])