今年の交流戦のMVPとなり、打率4割2分9厘、5本塁打と大活躍したソフトバンク柳田悠岐

柳田といえば、一度見たら忘れられないのが、上半身がねじ切れそうなほどの豪快なフルスイング。6月3日には、推定150mの特大ホームランを横浜スタジアムのスコアボードに叩き込み、液晶の一部を破壊して観客の度肝を抜いた。

その日本人離れした身体能力には、野球解説者の里崎智也氏も舌を巻く。

「あれだけフルスイングできる体の強さがあって、かつ走・攻・守がそろっている選手は過去にもいなかったんじゃないですか。どこにも属さない『柳田タイプ』ですよ(笑)」

その“マン振り”が代名詞でありながら「ホームランか三振か」ではないところが柳田のすごさ。今年はシーズン開幕からヒットを量産し、西武・秋山と3割8分前後のハイレベルな首位打者争いを繰り広げているのだ。高打率の秘密はどこにあるのだろうか?

「デビュー当時はいつでもフルスイングしていましたが、実は昨年くらいから相手ピッチャーやカウントによってバッティングを変えるようになりましたね。それは右足の上げ方を見ていればわかります。大きく上げている時は思い切り振って、逆にあまり上げていない時は意外とコンパクトに振っている。そのあたりは、彼の個性を生かしつつ伸ばした藤井康雄打撃コーチの力も大きいでしょうね」(里崎氏)

入団当初から王貞治会長も認めていたパワーに、状況に合わせたバッティングがプラスされたのだから、もう怖いものなしだ。さらにソフトバンク打線の層の厚さも柳田の好成績を後押ししているという。

「彼は3番を打っていますが、その後には内川、李大浩(イデホ)、松田といった強打者が控えている。しかも、一塁に歩かせたら盗塁される可能性も高い。必然的に勝負を避けられることは少なくなると思います」(里崎氏)

キャッチフレーズは「普通の一般人」?

現在、柳田の盗塁数はリーグ2位タイの14個。もう少しペースを上げられれば、2002年の松井稼頭央(かずお)(西武)以来となるトリプルスリー(3割、30本、30盗塁)も十分に射程圏だ。

スポーツライターの田尻耕太郎氏は、柳田の俊足にまつわる恐るべきエピソードを紹介してくれた。

「今年の春季キャンプで50mのタイムを計っていたんです。そうしたら、なんと5秒55という数字が出てしまって…。『世界記録だ!』と盛り上がっていましたよ」

ちなみに50mの世界公式記録は、カナダのドノバン・ベイリーが1996年に記録した5秒56。もちろん手動計測だし、距離も厳密ではないだろうが、それにしてもとんでもない話だ。もし柳田が陸上選手になっていたら日本人初の100m9秒台を達成していたかもしれない。

ここまで別次元だと、本人も「オレは超人だ」とか思っているのでは…。

「いや…6月14日に柳田選手を応援する『柳田デー』というイベントがあったんですが、そこで自分にキャッチフレーズをつけるという話の流れになったんです。そこで彼はなぜか『普通の一般人』と答えたんですよ(笑)。謙虚というか天然というか…」(田尻氏)

ウケ狙いかガチなのか、さっぱりわからない。プレーだけでなく思考も規格外のようだ。とにかく、これからも「普通の一般人」には想像もつかないような進化を見せてくれ!

*データはすべて7月2日現在

(取材・文/本誌野球班)

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