先月、食品や医薬品などの認可を取り扱うFDA(アメリカ食品医薬品局)が、“女性用バイアグラ”と称される薬を承認する方向を定めた。

女性の性欲や性行動に作用する薬だというが、その実力はいかに? 専門家に聞いた!

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女性の減退した性欲を回復させる薬として“女性用バイアグラ”と呼ばれる「フリバンセリン」。この薬が6月4日のFDA(アメリカ食品医薬品局)諮問委員会で承認に向けて大きく動いた。

同薬はアメリカの製薬会社のスプラウト・ファーマシューティカルズ社が販売権利を持つが、すでに2度承認を却下されていた。期待される「性的欲求低下障害の緩和」という効能に対し、めまいや吐き気といった副作用のリスクのほうが高いと判断されたからだ。

しかし、女性団体によるロビー活動の効果などもあり、今回三度目の正直でついに承認を促す結論が出された。このニュースについて、産婦人科医でセックスセラピストの早乙女智子先生に聞いた。

―今回認可へ動いた“女性用バイアグラ”こと「フリバンセリン」ですが、一体どんな薬なんでしょうか?

早乙女 “女性用バイアグラ”と呼ばれていても、男性用のバイアグラとは性質がまったく違います。男性用バイアグラは海綿体への血流を良くし、ペニスの物理的な勃起を促すもの。

それに対し、今回のフリバンセリンは、ある種の抗うつ剤であり、性に対する消極的な気持ちを改善するための薬なんです。

―メンタルに作用する、ということですか?

早乙女 そうですね。性欲に関わる神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンを多く出すように脳内に働きかけ、セロトニンを下げます。セロトニンを抑えると性行動が活発になるからです。

媚薬効果を期待も間違い?

―認可されたら、どんな女性に処方されるのでしょう。

早乙女 この薬は特に、閉経が近い更年期女性の性的欲求の低下を改善するとされています。例えば、これまで性生活を楽しんできた熟年カップルが、奥さまの加齢とともにどうしても一緒に楽しめなくなってきた場合とか。

そもそもフリバンセリンはセックスをしたいのに楽しむ気分になれない人向けで、初めからする気がない人に効くわけではないんです。

―では、飲めば媚薬のように体がウズきだすというわけではない?

早乙女 それは間違い。例えば「女性が濡れる」ためには、メンタルの他に大脳を経由しない脊髄反射も必要なんです。つまり、挿入で与えられる局所刺激の快感もやはり必要なわけです。

セックスとは相手ありきの営みですから、薬を飲んでもつまらないセックスをしていたら感じません。

―「国が認めた媚薬」などと騒がれていますが、違うんですね。

早乙女 Hに興味がなかった人がこの薬を飲んで急にスケベなオーラが出てくるとか、そういうものではないですね。薬で性生活に前向きになれたとしても実践して感じるか感じないかはまた別問題です。

男性用バイアグラが身体反応を促すものであるのに対し、女性用は「気持ちを高めるもの」。このあたりは性に対する男女の態度の違いが見事に表れていて興味深いですね(笑)。

●早乙女智子(さおとめ・ともこ)日本産婦人科学会認定産婦人科専門医、日本性科学会認定セックスセラピスト、「性と健康を考える女性専門家の会」会長。監修書籍に『こころとカラダで感じ合う絶頂のセックス』(コスミック出版)がある

(取材・文/赤谷まりえ 村上隆保)