自身の評伝を長州力はどう読んだのか?

プロレスラー長州力60余年の人生に迫った『真説・長州力 1951-2015』(田崎健太著、集英社インターナショナル)が刊行された。

藤波辰爾、佐山聡(初代タイガーマスク)、アニマル浜口、大仁田厚ら多数の大物レスラーや関係者を取材、長州力という時代の革命児を取り巻く昭和~平成のプロレス戦国絵巻ともいえる496ページのヘビー級ノンフィクションだ。

何よりも、長州本人がこれまで語らなかった胸の内を初めて明かした、最初で最後の自伝ともいえるーー。ここでその一部を紹介するとともに、発刊を控えた本人を直撃した!

***

長州力こと本名・吉田光雄は1951年、山口県に生まれた。在日朝鮮人二世の彼は幼少期、出自に対する差別を経験したという。

「小学校四、五年生になるとちょっと元気がいいからトラブっちゃうと、やっぱりお前は朝鮮人だからとか言われる。そういう言葉を言われると、体から力が抜けていくのが分かった」(『真説・長州力』より、以下同)

とはいえ、野球や柔道で抜群の運動能力を発揮し、ケンカをすれば敵なし、ヤンチャな少年時代を過ごしたようだ。高校では特待生としてレスリング部に入り、国体優勝を果たした。

専修大学に進学すると一年生から重量級の有力選手として活躍、二年生で全日本学生選手権を制するなど無類の強さを発揮し、1972年のミュンヘン五輪出場を果たしている。ただし、国籍の問題で韓国代表としての出場だった。その時の思いをこう吐露する。

「支給されたもの(韓国代表のジャージやブレザー)はほとんどマーク(国旗)が入っているじゃないですか? 違和感はありました。ここまで来れたというのもあった。でも違和感はありましたね」(同)

73年、新日本プロレスに入門。82年には人気レスラーの藤波辰爾に「俺はお前の噛ませ犬じゃないぞ!」と下克上の狼煙(のろし)を上げ大ブレイク。以降、プロレス界の「ど真ん中」を走り続けてきた。

この本のクライマックスは、長州の“黒歴史”とされるWJプロレスの顛末(てんまつ)だろう。2002年当時、総合格闘技ブームに押され、プロレス人気は冷え切っていた。そんな中で、WJは巨額の設立資金を投じ、屋形船を貸しきって設立パーティーを行なうなど、時代にそぐわない「金満団体」と揶揄(やゆ)された。

旗揚げ後まもなく様々なトラブルが続出、選手へのファイトマネー未払いも発生し、約1年で崩壊した。

これまで多くの関係者がWJの真相について書籍や雑誌で明かしてきた。その中には長州個人を批判するものもあったが、それに対して本人はまったく反論をしてこなかった。本書ではその苦しかった時代を赤裸々に告白しているのだ。

「こういう本を出すのはこれが最後だろうな」

また最後では、師匠であるアントニオ猪木への思いを語っている。

「プロレスは筋書きがあるとかみんな書いている。でも、あの人はシュートです。なんのシュートというのかは…あの人のリングの中でのパフォーマンスはシュートです。だから凄い」(同)

そして、ある試合中に猪木から言われたという衝撃のひと言を打ち明けている…。

長州自身は、この本をどのように読んだのだろうか? 本人を直撃した。

―読まれてみて、いかがでしたか?

長州 ああ、今までも結構(自分についての)本が出ているけど、今回は田崎先生の取材力に驚きましたね。自分でも覚えていないようなところまで入っていって、今までにないような切り口で書いているし。何十年も前の同級生までどうやってたどり着いたのか知らないけど、ビックリした。ああ、こういうことも確かにあったなぁ、と思い出すこともありますよね。

―WJについてなど、ここまで本心をさらけ出しているのは驚きました。

長州 さらけ出しているっていうほどのことはないけれども…うん。幼少の頃と現在のことが非常によく書けていると思います。ただ、その間のプロレスの出来事がちょっと長いかなっていう感じはした。まあ、それは自分が当事者だからこう思うのかもわからないけれども。

―特に読んでほしいという部分はありますか?

長州 いや、何を言ってどう書こうが、それを伝えて(読者に)理解してほしいっていうようなものは…結局、人間みんな、誰のことだってわかりゃしないんだから。好きなように感じていただければ。まあ、こういう本を出すのはこれが最後だろうな。でもホント、過去を遡(さかのぼ)っていろいろ思い出させてくれた本ではあります。

―では、読者にメッセージをお願いします!

長州 「もうこれ以上話すことはない」っていう本になりました。時間があったら手にとって読んでみてください。

「強い」「恐い」といったイメージとは裏腹、本来の吉田光雄は「端っこ」を好む、慎ましい男である…と本書には記されている。端っこの男がいかにプロレス界の「ど真ん中」を駆け抜けたのか? 人間・長州力に肉薄した重厚なノンフィクションだ。

(取材・文・撮影/週プレNEWS編集部)

■『真説・長州力 1951-2015』(集英社インターナショナル 1900円+税 発売中)