「オチを創作することはできないが、時に現実が想像を軽々と超えていくのが実話怪談の醍醐味」と語る、紙舞氏(右)と黒史郎氏(左)

「あなたが体験した怖い話を教えてください」と日頃よりフィールドワークを続け、舞台や紙面で「実話怪談」を披露している気鋭の怪談師・紙舞(かみまい)氏と怪談作家・黒史郎(くろ・しろう)

創作怪談とは一線を画す「実話怪談」は一体どのようにして生まれるのか? 創作にはない実話ならではの醍醐味(だいごみ)とは…。

■幽霊かどうか、よりも大事なこと

―おふたりが「実話怪談」を手がけるようになったきっかけを教えてください。

 僕は大学が心理学部だったんですが、卒論のテーマが「呪い」だったんです。それで学内でアンケート調査をとったところ、いわゆる怖い話や不思議な体験話が思った以上にたくさん出てきたんです。こんなに反応があるものか、面白いなと思ったんです。

 卒論が「呪い」ってスゴいですね(笑)。僕は子供の頃から妖怪や都市伝説の類いの話が好きで、そういう話をひたすら集めていたんです。たまに女子高生に「怖い話を知らないですか?」なんて声をかけたりして(笑)。

 怪しいですね(笑)。そこから実話怪談に行き着いたんですか?

 それで10年くらい前にホームページを作り始めたんです。作ってしばらくすると、「こんな怖い体験をしました」とコンタクトを取ってくる人がいたり、あとは周囲に不思議な体験をした人が結構いたおかげで、いつの間にか実話怪談を書くようになったんです。

―おふたりはそもそも実話怪談を、どのように定義づけされているのでしょうか。実話というだけに、創作ではないんですよね?

 基本、そうですね。ただし、解釈はやられている方それぞれだと思います。

 僕の場合、例えばふたり以上が別々に同じ体験をしているとか、怪異現象の物的証拠があるような、その人の勘違いでは済まないような話であれば自信を持って実話怪談だと推すことができるかなと思います。

ただ、人間はお化けを見たり、不思議な体験をする存在だと僕は思ってますから、たとえ物的証拠がなくとも、その人が体験したことであれば、それは実話怪談でいいと思ってます。僕自身、見たことはないですけど、幽霊はいると思ってますし。

 僕も基本的には同じですね。例えばAという村で「鬼火」と思われているものが、調べてみたら実は隣のB村の「雨乞いのかがり火」だったなんてことはよくあるんです。A村の人はそれを知らないから本気で怪異現象だと思っているんですが、それでもいいんです。

ある人が見たものが本当に幽霊なのかどうかよりも、その人が怖い思いをしたことと、自分が不思議な体験をしたと信じていることのほうが大事だと思います。

実話怪談はこうして生まれる

―実際におふたりは怪談をどのように集めているのでしょうか。

 僕は親類や友人のつてをたどって話を聞くことが多いですね。体験談を文章で送ってくれる人もいるんですが、できるだけ本人に会って話を聞きたいですし、必要とあらば、実際に舞台となった場所に足を運ぶこともあります。

 僕も同じで、どこに行っても「なんか怖い話あります?」って聞いてますね。不思議な体験をしているのに、それを話したがらない人って結構いるんですよ。話すと「自分が変な人だと思われるんじゃないか…」と思うみたいで。その点、僕は怪異体験を舞台の上で喜々として話しているので「この人なら聞いてもらえる」と安心してもらえるのかもしれません。

 魂の救済ですね(笑)。

 いやいや、そんな大したものじゃないですよ。でもやっぱり実際にお会いすると、文章ではわからない、その人の心の機微とか、その人がどの部分を一番怖がっているのかが見えてきますね。話の舞台となった場所を訪ねて住民の方に話を聞くと話が広がったり、思わぬ方向に転がったりしますからね。 実際、会って話すことによって、その話の信憑(しんぴょう)性みたいなものもなんとなくわかってきますよね。

 確かにそうですね。たまに「あぁ、これは信憑性薄いなぁ」という残念なことも、ままあります(苦笑)。

―実際に取材に出かけていったのに空振り、ということも多いですか?

 多いどころか、この仕事をしている限りは宿命だと思ってます(笑)。

 お年寄りから怖い怪談を聞かされていたはずが、気づいたら戦争の話になっていたり(笑)。

 遠くまで話を聞きに行ったのに今日は空振りだったなぁ…とガッカリしながらタクシーに乗ったら、その運転手さんが一番イイ話を持っていたなんてこともあります。とにかく空振りしても心が折れないように根気よく集めていくしかないですね。

現実が想像を軽々と超えていく

―現代の実話怪談のひとつのトレンドとして、はっきりとしたオチがないものや理由がよくわからない話も多いといわれます。そのあたり読者や観客の反応はいかがですか。

 怪談にも時代性やトレンドがありますし、怖い話には理由がないといけない時代もあったんだと思います。田舎のおじいさん世代に話を聞くと、大抵タヌキに化かされたなんてオチがつくことは多いですし。

 幽霊が出る場所は決まって一家惨殺があった、とかですよね。でも、実話怪談では落語のようなキレイなオチがつくもののほうがむしろ少ないと思います。たまに、ライブ後にお客さんに「なぜそうなったのかを説明してほしい。あれではスッキリしない」と言われることがあるんです。その気持ちもわかるんですが、僕としては理由がわからないその中ぶらりんな状況が面白いし、それを楽しんでほしいなとも思うんです。

 小説やゲームでも最近、本当に怖いものってなかなか幽霊が出てこないですよね(笑)。実話怪談も幽霊そのものよりもその経緯が怖かったり、幽霊を見た後にその人たちがどうなったのかに怖さがある話も増えてきています。それにストーリーに続きがあるものもありますし。

 その先の話を知りたいんだけど、まさに今、渦中(かちゅう)でこの先どう転んでいくんだろうって話もありますよね?

 ええ。現在進行形の怪異を聞くとその後どうなるのか気になって仕方がない。間違っても本人に「期待しているよ」とは言えませんが(笑)。

 わかります(笑)。オチを勝手に創作するわけにはいかないので、期待してずっと待ち続けるしかないんですよね。結果、何も起こらないなんてことはザラですし、逆に現実が想像を軽々と超えていくことも。

 実際に起きていることのほうがスゴかったりしますからね。スゴすぎて話自体をボツにせざるを得ないこともある。でも、そのあたりの思い通りにいかない感じが、もどかしくもありながらも実話怪談の醍醐味といえるかもしれません。

●発売中の『週刊プレイボーイ』31号では、そんな実話怪談10編に加え、作家・岩井志麻子の書き下ろし短編「濡れる怪談」まで一挙掲載!

(取材・構成/山川 徹 撮影/下城英悟)

●紙舞(かみまい)東京・四谷に実在する実話怪談蒐集集団「怪談社」所属の怪談師。怪談を語るために生まれてきた声の持ち主で、その語りは聞いている者を恐怖に落とす

●黒史郎(くろ・しろう)1974年生まれ。98年頃からサイト『幻想住人録666』でオリジナル小説を公開。また、収集資料を基に、雑誌・テレビ番組などへの原案協力も手がける。2007年、『夜は一緒に散歩しよ』で第1回『幽』怪談文学賞長篇部門大賞を受賞

■週刊プレイボーイ31号(7月21日発売)「総力特集13P 実話怪談 2015夏」より