7月16日、集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案(以下、安保法案)が衆院を通過した。

この後は参院での審議となるが、もしそこで否決されたとしても、あるいは採決がされないまま60日を越えたとしても、再び衆院に戻されて3分の2以上が賛成すれば結局、法案は成立する。

これですべては安倍政権の狙い通り…かと思いきや、来年の7月に予定されている参院選に向け、意外にも公明党が揺れているという。自民党の大物OBであるA氏が証言する。

「公明党は元々、集団的自衛権の行使容認には消極的だった。支持母体である創価学会は世界平和を志向する団体だし、池田大作名誉会長がノーベル平和賞を受賞するべきだと信じている。今回の安保法案に賛成することで、ノーベル平和賞は確実に遠のくのではないかと心配している創価学会員も多いと聞いているよ。

公明党の山口代表は、自民党との連立維持という党益と創価学会からの突き上げとの板挟みに苦しんでいるように見えるね。来年に改選を迎える参院議員たちの間で選挙への不安が蔓延(まんえん)し始めれば、安保法案の採決に党議拘束をかけず自主投票とする可能性も考えられる」

自主投票になると、どんな影響が?

「公明党議員としても“戦争法案”とも呼ばれている安保法案には賛成したくはないというのが本音。でも与党議員であるという特権や優越感は捨てたくないから自民との連立関係も大切にしたいというジレンマを抱えている。

そこで自主投票となれば、おそらく反対票を投じるのではなく棄権すると思う。つまり賛成も反対もしないというわけだね」(A氏)

結局は自分たちの議席が重要?

参院の定数は242議席なので、過半数は122議席以上。現在、自民党の議席数は113議席で公明党は20議席。公明党が棄権に回ると過半数割れになるのか?

「いや、棄権になると分母となる総数も差し引かれる。公明党の20議席が棄権すれば総数が222議席となり、過半数は112議席以上となる。つまり自民党単独でもギリギリ可決はできる。

しかし、選挙が怖いのは自民党議員だって同じ。今の雰囲気だと来夏の参院選では自民党は議席を減らすだろうね。つまり、誰かが落選するわけだ。それが自分になるのは誰だってイヤだよ。

だから参院では与党が採決自体を避ける可能性も十分にある。審議をダラダラと行ない、野党が賛成してくれないからという理由で採決を行なわない方向に持っていく。そして60日ルールで衆院に戻して、自分たちのダメージを最小限にして来年の選挙に臨もうとするんじゃないかな。身内だからあんまり厳しいことを言いたくはないけど、姑息だよね」

日本の将来について真正面から議論をするよりも、結局は自分たちの議席が重要ということか。国民はこうした状況を指をくわえて見ているしかないのだろうか。

(取材・文/菅沼 慶)