チームの攻撃の軸となる選手にどこまで守備の役割を求めるべきか。サッカーでは昔から議論の絶えないテーマだ。

かつて攻守の“分業”が当たり前だった時代には、守備をさぼっても許される選手は多くいた。例えば、マラドーナ。彼はほとんど守備をしなかった。周囲も彼に守備での働きを求めなかった。ブラジル代表でもペレ、ジーコ、ロマーリオ、ロナウド、ロナウジーニョなど歴代エースの大半がそう。また20年ほど前、草創期のJリーグでプレーしたストイコビッチなどもそういうタイプだった。

今でいえば、メッシがその典型。特にアルゼンチン代表でプレーする時の彼は驚くほど守備をしない。チームが守勢に回っても、中盤でふらふらと歩いて体力を温存している。それでも個人としてもチームとしても機能するのだから面白いよね。

ただし、今のサッカーは“全員守備”が主流。そういう選手はかなり少なくなった。最前線にいるFWも“最初のDF”として相手にプレスをかけ、それに連動する形で後ろの選手が守る。また、攻め込んでいてもボールを奪われた瞬間に守備に切り替え、相手の攻撃を遅らせ、時にはボールを奪い返してショートカウンターを仕掛ける。チームのエースといえども、そのように守備的な役割を多く求められるケースが珍しくない。

そんな中、先日、Jリーグでちょっとした議論が起きた。G大阪の絶対的なエースである宇佐美が、守備面での働きが不十分だとして懲罰的に途中交代させられたのだ。試合後、宇佐美は「まだまだ、あそこからだったので…」と不満をこぼし、一方、長谷川監督は「後ろ(DF)を助けようという気持ちが欲しかった」と苦言を呈した。

起用する以上、守備は期待すべきじゃない

どちらの言い分もわかる。難しい問題だ。監督の指示は絶対。でも、その一方で選手の個性、特長をどう生かすのかを考えるのも監督の仕事。一概にどちらが悪いとはいえない。

ただ、いくら今のサッカーの主流が全員守備とはいえ、個人的には宇佐美を起用する以上、守備での働きはあまり期待すべきじゃないと思う。彼は同じ日本代表FWで、守備での貢献度も高い岡崎とは違う。誰が見ても守備が苦手だ。そんな選手に守備ばかり求めたら攻撃面でも持ち味を発揮できなくなる。マイナスのほうが大きいよ。同じことは香川にも言えるね。昨年、メディアやファンの間で「なぜ、日本代表に宇佐美を呼ばない」という声が盛り上がったのも彼が“守備もできるから”ではなく、“得点を取れるから”だったはず。

もちろん、宇佐美はメッシほどのスーパースターじゃない。だから、本人もそれを自覚し、自分のプレーエリアの中ではボールを追いかけ、相手のパスコースを限定させるなど最低限の仕事はしなければいけない。その後もスタメン起用されているのを見ると、長谷川監督の采配にもそんなメッセージが込められていたのだろう。

いずれにしても、今回の一件によって「守備をしない」「監督の言うことを聞かない」というネガティブなイメージを残したのは確か。それを忘れさせるには、やはり圧倒的な結果を残すしかない。Jリーグの得点王を取ってG大阪を優勝に導くような活躍をすれば、誰も守備のことなんて言わなくなる。宇佐美には、是非この壁を乗り越えてほしいね。

(構成/渡辺達也)