高2の16歳スプリンター、サニブラウン・アブデル・ハキームの勢いが止まらない。

6月の日本選手権では100m、200mともに2位に食い込む快挙で注目されたが、7月15日からコロンビアで開催された17歳以下の世界ユース選手権では、初日の100mで2位に0秒21差をつける10秒28の大会新で圧勝。

さらに4日後の200m決勝でも圧巻の走りで2冠を達成。向かい風0.4mで出した自己新の20秒34は、2003年にウサイン・ボルト(ジャマイカ)が出した大会記録を0秒06上回り、13年に桐生祥秀(きりゅうよしひで)が出していた20秒41の日本高校記録も更新するもの。その上、8月の世界陸上参加標準記録の20秒50を突破し、短距離個人種目史上、最年少出場も確実にした。

6月末の日本選手権時には「強いですね。まだ高校生ですよ」と驚いていた第一人者の高瀬慧(けい)(26歳)も、今度は「どこまで記録を伸ばすんですかね」と呆れるほどの逸材。

父親はガーナ人で、母親は短距離とハードルでインターハイ出場経験もある元選手。小3から陸上を始めたが「試合はすごく緊張するので、少し前まではいやいややっていたんです」と本人は言う。

中学時代は成長痛に悩まされたが、3年の全日本中学の100m3位、200m2位で頭角を現すと、昨年は高1ながらインターハイ200mで2位。10月の日本ジュニアでは、100mは3位だったが200mは優勝。その直後の国体少年B100mも10秒45の自己新で制したが、後半の大きな走りは今までの日本人にはなかったもの。本人は「まだ体力がないですから」と謙遜したが、これまでの常識では測れない将来性を感じさせた。

そんなハキームが覚醒したのは、東京五輪へ向けた日本陸連の育成プロジェクト「ダイヤモンドアスリート」に選出された今年、5月3日の静岡国際陸上だった。初のシニアとの200mで自己記録を0秒36更新する20秒73を出して日本選手権参加記録を突破。高瀬に次ぐ2位で、本人も「これならリオ五輪を狙えるのでは」と思ったという。

さらに1週間後のインターハイ東京都予選100mでは10秒30の自己新で日本選手権出場権獲得。完全に勢いに乗ったのだ。

試合にならないとスイッチが入らないタイプ

指導する城西大城西高の山村貴彦コーチが「試合にならないとスイッチが入らないタイプ。きつく言っても手を抜くし、まだ高校生だからノビノビやらせています」と言うように、まだまだ技術も精神も粗削り。

ハキーム自身、「150mまでは走れるがラスト50mが課題」と言うように、日本選手権の200mでも最後はバラバラな走りになっていた。100mでも「最初リードされるのはいつものことですから」と本人が認めるようにスタート技術もまだまだ。

だがそれは体力がついてくれば徐々に解消されるもの。事実、世界ユースの200m決勝では、前半から突っ込みながらもラスト50mの走りは日本選手権よりまとまり、急速な進化を見せている。

当然、7月30日に行なわれたインターハイ陸上競技100mでも注目されたが、残念ながら自己記録更新ならず2位。

だが、現時点の力から見てもリレーで必要な120mほどの加速走の力は日本でもトップレベル。200mとともにリレーでもアンカー候補として出場する可能性大の世界選手権は、ハキームの才能をさらに引き出す場になるに違いない。

(取材・文/折山淑美)