7月23日に告示された埼玉県知事選

7月23日に告示された埼玉県知事選。争点のひとつに現職候補の「セルフ条例破り」という問題もあり、本来なら大きな関心が寄せられるはずだが…。

しかし現場に足を踏み入れれば、現職・有力新人の両陣営に“ズンドコぶり”が目立つ選挙戦が繰り広げられていた。

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「勝手に自転車を止めちゃいけないとか、路上でたばこを吸うなとか、いろいろな条例あるでしょう? さらに皆さんが払っている県民税。これも県税条例(で定められたもの)です。『トップが条例破りしているのに、どうして俺が守らなきゃいけないんだ』との声も出てきて、これじゃ埼玉は行政が止まっちゃうよ!」

映画『硫黄島からの手紙』に登場する栗林忠道の孫であり、前総務相の新藤義孝氏は東川口駅前の街頭演説で声高にそう叫んだ。

今回の知事選は、現職候補である上田きよし氏(清司・維新支持、民主県連が「友情支援」)の他、石川英行氏(無所属)、たけだのぶひろ氏(武田信弘・同)、柴田やすひこ氏(泰彦・共産推薦)、そして新藤氏が選対本部長を務めるつかだ(塚田)桂祐氏(自民県連推薦)といった4人の新人が立候補した。

冒頭の新藤氏の言葉には、上田体制の中で成立したある条例に、当の上田氏本人が違反しているとの批判が込められている。

上田氏は知事として1期目の任期にあった2004年、「埼玉県知事の在任期間に関する条例」を成立させた。同条例の第2条には、知事職に関して「連続して3期を超えて在任しないよう努める」との規定がある。つまり今回、もし自身が当選すれば4期目に突入…それは自ら作った条例を反故(ほご)にしていることになるーー新藤氏はそんな上田氏の“セルフ条例破り”を批判し、街頭演説で口角泡を飛ばしていたわけだ。

実際、この現職による条例破りは、選挙の争点のひとつになっている。当の上田氏はこうした批判をどのように受け止めているのか? 本人を直撃すると、

「『条例破り』というのは正確な表現ではありません。努力目標ですから」

開口一番、こう反論。つまり、あくまで「努力目標」であり、自身の出馬は条例破りにあたらないという主張だ。

県民はどう感じている?

さらに、今回当選した場合、条例を改廃する意向はあるか、自身の次に知事となった者が多選したらどう感じるか、率直に聞いてみた。

「条例の改廃はまだ決めていません。後進が多選したら批判するか? そんなことはありませんよ。(条例を制定したのは)当時の私の思い上がりでした。現実に4選、5選された方もいる中で、そうした方々に大変失礼なことをしたと思っています。それは議会でも説明しました」

思い上がりか、開き直りかはさておき、苦しい弁明にも聞こえるが…。そもそも、どうして上田氏はこのような“矛盾”を犯してまで出馬したのだろうか。「後継者を擁立しようとしたものの、その人物に対して自身の支持団体が支援を確約してくれなかった」との報道もあるが、「まぁ、なんというか、上田さんとしても『苦渋の決断』だったと思いますよ…」(選対関係者)との同情の声も身内から。

本当は出たくないけど、出ざるを得なかった? なんとも後ろ向きな話である。

もっとも、こうした候補者選びの難航は有力対抗馬を推す自民党も同じ。当初、「天皇陛下の執刀医」として知られる天野篤(あまのあつし)氏を知事候補として擁立する方針だったが、天野氏はこれを固辞。告示が間近に迫った7月初旬になって、つかだ氏が立候補を表明、県連が推薦する流れとなった。

ギリギリまで候補者を擁立できなかったことから、自民系の首長ですら上田支持を明らかにする者がおり、さらに鳩山邦夫元総務相、平沢勝栄衆院議員といった自民所属の国会議員まで上田氏の応援に駆けつけている。これに対して、つかだ陣営は麻生太郎副首相、上川陽子法相など閣僚レベルの人物を応援に招き、対抗する。

現職候補、有力対抗馬とも迷走ぶりが浮き彫りとなっている埼玉県知事選。当の県民はどう感じているのか。大宮・浦和駅周辺で話を聞くと…、

「政治には関心がないし、投票にも行かない」(20代・女性)、「え、『条例破り』なんてあったんですか?」(20代・男性)といった声がほとんど。

さらに「誰に入れるか? つかださんですよ。だって、私の名前がツカモトだから。まぁ、『ツカ』つながりで」(50代・女性)と、争点となっている条例問題や政策とは無関係な“投票理由”を口にする有権者も。

埼玉県民にとって知事選は「興味がわかないもの」のようだ。実際、過去2回の埼玉県知事選の投票率は前々回が27.67%、前回は24.89%と全国平均(今年4月の統一地方選の41道府県議選の投票率は45.05%)と比べても著しく低い。ズンドコ選挙戦が繰り広げられる今回、有権者の反応を見る限り、さらに厳しい投票率が予想される。

投開票は来る8月9日。現職、あるいは4人の新人のいずれが当選するにしても、選挙後まで“ズンドコ”な政権運営となってしまわないよう、有権者による県政の監視を期待したい。

(取材・文・写真 藤麻迪)