日本航空(JAL)、全日空(ANA)の大手2社に対し、カジュアルなサービスと格安運賃という独自路線で“第三極”としての存在感を示していたスカイマーク

しかし昨年夏、同社の行く手に暗雲が立ち込める。

「きっかけは、世界最大の旅客機エアバスA380の導入でした。スカイマークは同機種を6機発注しましたが、アベノミクスによる円安で価格が当初見込みより1.5倍に上昇。支払いが滞り、エアバス側から全機解約を通告されました。同時に、円安は10機のA330のドル建てリース料高騰にも直結。手持ち資金が枯渇したスカイマークにはA380のキャンセルによる違約金も重くのしかかり、今年1月、民事再生法の適用を申請することとなったのです」(航空・旅行アナリストの鳥海高太朗[とりうみ・こうたろう]氏)

これを受け、まず日本の投資グループのインテグラル、A330のリース元であるアメリカのイントレピッド、そしてANAホールディングスが支援を表明した。だが…。

「イントレピッドは支援する見返りとして、ANAにA330のリース引き取りを期待してました。しかしANA側はそれを拒否。それを不服としたイントレピッドは当初の再建案から外れます。そこでスカイマークは5月末にインテグラルとANAの支援を受ける『スカイマーク案』をまとめました。

すると、イントレピッドはこれに対抗、日本国内にアライアンスパートナー(コードシェアやマイレージプログラムの乗り入れを相互に行なう航空会社)を持たないデルタ航空を引き入れる『イントレピッド案』を組み上げたのです」(業界関係者)

鳥海氏によると、この両案には以下の特徴があるという。

「スカイマーク案では、スカイマークはANAから整備を含むサポートが受けられます。ANAもコードシェアなどで路線網の拡充が図れ、利便性が増すでしょう。一方のイントレピッド案は、デルタ航空がグンと使いやすくなるはず。デルタは成田をアジアのハブ空港としているので、スカイマークが就航する地方空港から海外の目的地まで、コードシェアでチケットを通しで買えるようになりますから」

こうして両陣営は、それぞれの案への賛同者を増やすべく、8月5日の債権者集会に向けて、ギリギリまで激しい多数派工作を繰り広げるーー。

ANAを補完する立場に追いやられる?

「当初は『両案否決』という見方が支配的でした。なぜなら、可決には『債権者の過半数』と『債権額の過半数』の双方が必要だったからです。債権者は大口小口を合わせ197で、その多くが日本企業。一方、債権額はイントレピッド、エアバス、ロールス・ロイスなど外資系企業上位4社で全体の約96%。そのため債権者での議決ではスカイマーク案が、債権額の議決ではイントレピッド案がそれぞれ推されると思われていたのです」(鳥海氏)

ところが5日、採択されたのはスカイマーク案だった。

「ANAの粘り強い交渉の末、エアバス、ロールス・ロイスの取り込みに成功し、イントレピッド以外の大口債権者の大半の票、債権額にして約60%を得ることができたからです」(鳥海氏)

ただ、今後の再生の道にはいくつもの課題がある。

「ANAの支援を受けたスカイマークが、低価格運賃などが魅力である“第三極”のままでいられるかどうか。予約システムもANAのものを使い、事実上の傘下となったエア・ドゥやスターフライヤーのようにコードシェアを通じ、ANAを路線や便数で補完する立場に追いやられる不安がある。

またANAとはサービスのレベルが異なるため、ANA便名で搭乗した乗客から不満の声が上がるかもしれません。さらに特定の区間では、独占禁止法との絡みでコードシェアについて公正取引委員会の判断を仰ぐ必要がある、という指摘も出ています」(前出・業界関係者)

新生スカイマークには頑張って欲しいものだが、今後の動向に注目だ。

(取材・文/植村祐介)

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