「死の床で遺産相続の話が聞こえるより、自分ひとりで好きな酒でも飲んで、音楽でもかけて死んだほうがよっぽどマシ」と語る下重氏

今年3月の刊行以来、50万部超のベストセラーとなっている下重暁子(しもじゅう・あきこ)氏の『家族という病』

“家族の絆”がもてはやされる一方で、家族がらみのトラブルが後を絶たない現代。「家族とは何か」という根本的な問いについて、改めてお話を伺った。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)(前編記事⇒ 「『家族という病』で著者が明かす 「安倍さんの狙いは家族を管理すること。私はまさにそれを書きたかった」

 ―家族や絆という言葉で愛国心や敵愾心を煽(あお)ってナショナリズムに訴えるほうが国にとって都合がいい。個を殺してみんなが同じ方向を向いて…って、戦争の道ですよね。だからこそ、今それを問うべきなんだろうと。

下重 そう。それが本書の奥の奥の意味ではあるんですけどね。今はまず親を演じ、子供を演じて人様から文句を言われないような家族、恥ずかしくない家族を演じるのに必死でしょ。しかも、葛藤があったら恥ずかしいくらいな。私は葛藤があるのが当然だと思うけど。

―結局、自分に自信がなかったり生き抜く力に欠けると、家族に依存してお互い愛情と勘違いした寄りかかり方をしている。

下重 それと、仲良く見せるために自分を押し殺してる。するとストレスたまりますよね。それがある時、爆発すると殺人事件とかになるわけ。手がつけられなくなる。

―ためこむ前にリリースしなきゃいけないし、学校で家族の絆は大事とかいってるよりも、早くひとり立ちしなきゃと教えたほうがいい。

下重 本当にそうだと思いますよ。私の友達の子供も、40歳くらいになって家にべったりでお母さんに食べさせてもらってね。でも友達はついに決意して、自分が定年になった年に放り出したんですって。そしたらしょうがなくアパート借りて仕事を見つけて、大したお金にはならないけど、自分で食べ始めた。今までできなかったのが、やってみたらそうなった。だから、可哀想とか情に流されちゃいけないよね。けじめってのが、どっかにあるでしょう。

―でも、それこそ昔は他の子供も叱ったり面倒を見たりする社会がありましたけど、今はうかつに人の子供をどうこうもできない(苦笑)。

下重 先生ですらどうもできないですからね。変な社会。友達ならば理解しようと思うから一生懸命、話するよね。だけど、親子はそんなことしなくてもわかってると思ってる。でも、本当はなーんにもわかってない。私の疑問はそこからですよ。父は生きてる間、何を考えてたのか? 母親はなんで私を溺愛したんだろうとか。一番わかんないのが家族。

―わかんなくても家族だからって、わかったつもりになって。

下重 お互いに許しあって、なあなあで暮らしている。世代が違うから考え方が違うに決まっています。ケンカしないほうがおかしい。兄弟姉妹など身近な競争相手で仲いいわけないじゃない。

子供がいないから、わかることもある

―結局、家族がいたからって最後に幸せに看取られるかもわからないし。さっきの相続じゃないですが火種も…。

下重 私は孤独死はちっとも悪いと思わないのよ。孤独の何が悪いって? どうせひとりで生まれてきて、ひとりで死ぬんだから。誰も面倒見てくれない人は可哀想…って、そんなことないよ。耳は最後まで生きてるっていうから、死の床で遺産相続の話が聞こえたりね。それより、自分ひとりで好きな酒でも飲んで、音楽でもかけて死んだほうがよっぽどマシ。

―もちろんそこで、ひとりで生きてきたわけじゃないんで、パートナーや新たな地縁が見送ってくれれば幸せかなとは思いますが。血縁である必要は全くないですね。

下重 それが男同士でも女同士でもいいし、今はどんどんそういうのも増えてますよね。いいじゃないですか。友達同士で一緒に住もうね、お墓に入ろうねってのは周りにいっぱいいますよ。ちっとも不思議じゃないし、変な家族に看取られるよりよっぽど幸せですよね。

―今はシェアハウス的なものも増えてますが、両極端な時代なのかも…。この本でもうひとつ共感が強かったのが、僕自身も48歳で子供がいないんですが、下重さんもいらっしゃらなくて。これを書けた背景にはそれも大きいのではと。

下重 子供がいたら、私は溺愛して救いようのない母親になったかもしれない。子供を持たないのは、自分自身と連れ合いとの決断ですけど母そっくりになるのが恐かった。いなくたっていいじゃない? 自分たちで稼いだものは自分たちで使って終わり。残ったものは寄付すると(笑)。

―そこで、批判のひとつとして、子供がいないからそういうことが言えるんだと。

下重 いっぱいあります。だけど、いないからわかるってこともあるの。私、子供と話すのが大好きだし、とても上手。なんでかっていうと、普通の大人はおばさんとか、お母さんとか役割で見るでしょ。自分は高いところにいて子供は下とか。でも私は子供だった時にどう思ったか、嬉しかったか、悲しかったか…そこにすぐ戻れるから、子供とも客観的につきあえるんですよ。

―でも、いまだに子供持ったほうがいいよとすごい言われるじゃないですか。いないことが罪悪のような(苦笑)。

下重 それは人のことだからほっときゃいいの。価値観はひとりひとり別々。自分に子供がいようといまいと、その子が可愛けりゃ可愛がってるし。うちの連れ合いなんかも、行きつけの美容院の孫で妖精みたいな小学生と交換日記してるのよ。いいでしょう? 私も小さい子と付き合うの大好きだし、そのほうがよっぽど楽しいよ。

孤独、寂しさをわかれば人を思いやる

―いろんなことが読めない時代に、今まで作られてきた家族の幻想じゃなく、新たなつながりを培っていかなきゃいけないですね。自分探しじゃなくて、そういう絆の探し方を。

下重 そうね。自分を本当の意味で大事にする人は、人も大事にする。自分がどういう時に寂しい、悲しいかをわかってる人。でも、そうじゃなく人のマネばかりするような人が多いでしょ、この頃は。余程、女性のほうが男性よりはっきりモノを言うようになってきてるかなと思いますけど。

連帯ってね、個のある人がそれぞれの意見を言い合って、お互いにいい方向を見つけていこうというもの。ひとりで強い意見を言って、一斉にそっちになびくのは連帯でもなんでもないんですよ。

―スポーツでも個がありつつ、お互いにぶつかりあえたら本当に強い集合体になりますよね。

下重 だから若い人たちでも、錦織圭選手とか素晴らしい人がいっぱい出てきてますよね。彼らはものすごい孤独だと思う。もう本当に個なんですよ。だから、孤独の「孤」の字は個性の「個」の字って私は言うんですけど、孤独を知らない人は個性的には絶対なれない。

―その上でひとりで生きてるわけじゃないというのは、当たり前のことですもんね。

下重 自分の孤独、寂しさをわかれば、人を思いやる気持ちも出てくる。人と自分は価値観が同じと思っていると、人を思いやれない。そこがすごく日本人は欠けてると思います。

―それがまさに家族そのものにあてはまると。…お話しし足りないぐらいですけど、そろそろお時間が。最後に、特に週プレ読者である男性に思うことなどあれば。

下重 男性が甘えん坊になってると思います。女のほうが生きにくい時代がずっと続いてきたでしょ。今だってはっきりいえば男社会。だからある面、女性は戦わないと生きていけない。

男は男社会がずっと続いてきた中で甘えて、なんとか生きられる。今はますます変に弱々しい男が誰かに頼って生きるみたいなね。個を知らない、つまり孤独を知らない男が増えてる気はします。もちろん、戦争はいやよ。そういうのじゃなくてね、男が力をなくしてるわよね。

(撮影/五十嵐和博)

●下重暁子(しもじゅう・あきこ)早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。女性トップアナウンサーとして活躍後、フリーとなる。民放キャスターを経たあと、文筆活動に入る。ジャンルはエッセイ、評論、ノンフィクション、小説と多岐にわたる。財団法人JKA(旧・日本自転車振興会)会長等を歴任。現在、日本ペンクラブ副会長、日本旅行作家協会会長。『鋼の女―最後の瞽女・小林ハル』(集英社文庫) 、『老いも死も、初めてだから面白い』(海竜社)、『自分に正直に生きる』 (大和書房文庫)など著書多数。

■『家族という病』 幻冬舎新書 842円日本人の多くが「一家団らん」という呪縛にとらわれているが、「家族」はそれほどすばらしいものなのか? 著者が自身の家族について赤裸々に語りながら、現代の家族のあり方に問題提起する。