国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。

***現代の国際社会において唯一無二の存在である「アメリカ」とは何か? 3年間、その中に身を置き、肌で感じたことを書き残したいと思います。

私事で恐縮ですが、皆さんにご報告があります。3年間のアメリカ生活を終え、再び中国・北京へ戻ることになりました。

2012年8月、ぼくは活動の拠点を中国からアメリカに移しました。以来、ボストンのハーバード大学で2年間、ワシントンのジョンスホプキンス大学で1年間の研究生活を過ごし、アメリカ特有のアカデミアや政治を体感してきました。

アメリカはもともと憧れの国でした。中学3年生の時にオーストラリアに行って海外に興味を持ち、高校生になると、将来はアメリカに留学して国連職員になりたいと考えていました。しかし大学進学を現実的に考えた際、実力的にも経済的にもアメリカ行きはかなわなかった。中国行きを決めたのは、言い方は悪いですが“消去法”のようなものでした。

北京大学在学中に図らずも自分の置かれた環境がめまぐるしく変化し、言論市場での発信を続けながら約10年の月日が流れましたが、それでも常にアメリカを意識していました。当時の立場に固執して中国に居続けていたら、自己完結できぬまま中途半端な人生を過ごしていたでしょう。

結果的に、中国経由アメリカ行きという順序は“戦略的”だったといえます。先人の方々を含め、多くの日本人は日本から直接アメリカを目指しますが、ぼくは中国で経験を積んでから渡米しました。ゆえに、アメリカの中国問題研究者や対中政策関係者から予想以上の関心を持たれました。

誤解を恐れずに言うならば、アメリカで新たに得た知識は特にありません。中国内部事情に関する議論では、誰にも負けなかったと自負しています。逆に言えば、アメリカで学べる知識は、その気になれば世界中どこでも学べるということ。では、アメリカでぼくが得たものとは何か――「経験」がすべてだったのです。

最大の収穫物とは

アメリカには真の自由がありました。あらゆる枠組みを超え、人種を問わず世界中から優秀な人材が集まるのはなぜかといえば、それを受け入れ、吸収する土壌があるから。最近では「アメリカの時代は終わった」という声もありますが、多くの人々がアメリカという国家・社会に憧れ、実際に海を渡るというサイクルがある以上、まだまだ“アメリカの世紀”は続くとぼくは感じました。

一方の中国共産党は自分たちに都合のいい情報・知識・人材しか採り入れようとしません。経済力や軍事力では、中国がアメリカを凌駕(りょうが)する日が来るかもしれません。アメリカより便利な国、楽しい国は他にもある。しかし、アメリカを超える潜在的魅力を持つ国家は、今後も当分の間は現れないでしょう。

個人的には、アメリカで初めて「生活」というものを知りました。日本での高校時代は勉強と部活に明け暮れ、中国では政策や言論の世界に自ら足を踏み入れて戦いの日々を送る中で、生活という感覚と概念は希薄でした。

しかしアメリカでは、どんな優秀な研究者や企業家も家庭や家族を最優先に考えます。ぼくも散歩をし、買い物をし、食事を作り、時には物思いにふけり、「自分なんかいなくても世界は回る」という“無用性”を初めて心から実感できた気がします。

そして最大の収穫は「日米中」という枠組みを自分の中に確立できたことです。研究対象、活動拠点、発信言語…3ヵ国を股にかけることで、より大きなダイナミズムを生むと実感しています。

ぼくの今後については次号で説明しますが、3年間、人生の約10分の1を過ごしたアメリカとは長い目で付き合っていきたい。「日本」「中国」「日中関係」を俯瞰(ふかん)する上で、アメリカ以上に戦略的に重要な“フィルター”があるというなら、逆に教えて!!

●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェロー、ジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員を経て、この夏から再び北京へ。最新刊『中国民主化研究 紅い皇帝・習近平が2021年に描く夢』(ダイヤモンド社)が発売中。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」も活動中!