「できるよ、ぶっちーなら」と岩渕真奈にキャプテンを目指せという澤穂希

15歳の代表入り以来、日本女子サッカー界を牽引する澤穂希。

準優勝したカナダ女子W杯を終え、次世代エースとしてこの先を進む岩渕真奈に澤が伝えたいこととは――。

W杯を振り返った前編に続き、仲のいいふたりが対談で互いの思いを語り尽くした。

■なでしこ=澤から、なでしこ=岩渕に

―新戦力が今のメンバーを追い抜くためには、どんなことが必要ですか?

 もっと貪(どん)欲にやっていいと思います。練習から試合同様に体を張るとか、練習から声を出さないと試合でも出せない。ひとりひとりの意識を変えていったらもっと強いチームになると感じました。

岩渕 心にズーンときました。

 これからはぶっちーが中心になってやらないといけないと思うよ。今は一番年下だけど、その中でも経験があるから。そういう経験を新しい選手に話したり、プレーで見せたりすることも絶対に必要だと思う。

岩渕 やらなきゃいけないですね。でも、やれるかな?

 できるよ! 絶対にできる。

岩渕 あと、ひとりで試合を決定づけられる仕事ができる選手がいたら、その選手は使われると思います。そうなりたいです。

 ここぞという場面で決められる勝負強さ。そういう素質は持っているし、もっと決められる選手になってほしいです。オーストラリア戦のああいうところで決められるのは勝負強さがあるんだと思うよ?

岩渕 でも、澤さんは前回大会のメキシコ戦でハットトリックですよね。私はこれまでに代表の総ゴール数が4点ですけど、澤さんは...。

 代表デビュー戦で4点決めました。

岩渕 落ち込むじゃないですか!(笑)。しかも、澤さんの代表での総得点は83点...。

 いけるよ! FWでしょ! 私、MFだよ?

岩渕 澤さんと戦いたくないですから!(笑)

海外進出のメリットは

―4年前と比べて海外に挑戦する選手が増えましたが、どんなことが変わりましたか?

 日本では味わえないスピードやパワーなどを日々のトレーニングから体験できるのはすごくいいことだと思います。その感覚に慣れると、国際試合でも対応できるようになる。あとは自立心が養われます。言語も学ばないと意思の疎通も図れないですし、生活していくのも大変ですから。人としてもいろんなことを学んで成長できます。

岩渕 海外ではやらなきゃいけないことが多いし、自分で言うのもおかしいですが、人としての成長がサッカーにつながっていると感じます。日本と海外のサッカーのどちらがいいかは比べられるものではないし、サッカーの質も違うけど、普段、外国の選手とやっていることで、慣れて気持ちに余裕が生まれました。

 ただ、環境が変わっても最後まで諦めないところや、ひたむきに頑張る姿勢は変わらず続けていってほしい。ぶっちーは2020年の東京オリンピックで中心としてやっているべき選手でしょう? 楽しみなんですよ。私も東京オリンピックの仕事をするのが今の夢だから、一緒に仕事をできたら、きっと毎日が楽しすぎちゃうな。

岩渕 いいですね! 常に澤さんの隣でご飯を食べます。

 紅白戦もたまに出る(笑)。

岩渕 落ち込まされそう~。

―最後に。澤選手から岩渕選手に、今後に向けてノルマを設定するとしたら?

 今、パッと思いつきました。絶対にぶっちーにしてほしいと思っていることがあります。...東京オリンピックのメンバーに選ばれて、10番をつけてキャプテンをやってほしい。どう?

岩渕 え、ちょっと待って、澤さん!?

 できるよ、ぶっちーなら。

澤からの"ノルマ"に弱気?な岩渕

岩渕 私、キャプテンというキャラじゃないですよね?

 今はね。でも、私もそういうキャラじゃなかったよ。大丈夫、コイントスと「ファイッ!」(円陣のかけ声)だけだから。

岩渕 でも、それは監督が決めることですし...。

 だから、それまでに自分を成長させて、チームをまとめられるようにしていけばいいんじゃない?

岩渕 ノルマが高すぎません?

 私が言ったことは当たるでしょ? 自国でオリンピックに出られる機会なんてないよ。そこで、「なでしこジャパン=岩渕」となるように自覚と責任を持ってやるだけだよ。17歳の時に海外でプレーしている今の自分は想像できなかったでしょう? ぶっちーは10代後半からワールドカップに出て、私以上にいろいろ経験しているんだから。気持ち次第だよ。

岩渕 ......やります。自覚と責任と、目標を持ってやっていきます!

 自分にあえてプレッシャーをかけるじゃないけど、そういう気持ちがあったほうがやれる。私は、ずっと夢を大きく持っていたから。17歳の頃はオリンピックやワールドカップに出るという目標だったけど、20代で経験を重ねていくうちに「世界一を獲りたい」という目標になった。みんな目先の目標が達成できなくて諦めることが多いけど、長いスパンで考えてやり続けないと結果は出ないと思う。

―10番でキャプテンとして活躍する岩渕選手を澤さんが見守る。イメージするだけでワクワクします。

 私はチームの応援団長として行きたいですね(笑)。

岩渕 楽しみ! 頑張ります。

(取材・文/松原 渓 撮影/熊谷 貫)

●澤 穂希(さわ・ほまれ) 1978年9月6日生まれ、東京都出身。身長165cm、体重54kg。ポジション:MF 15歳で女子日本代表入りして以来、常にその中心で22年間なでしこジャパンを牽引。国内外問わず数多くのタイトルを獲得し、日本女子サッカーの顔であり続ける。2011年ワールドカップドイツ大会ではMVPと得点王を獲得し、同年度、アジア人として初のFIFA女子最優秀選手賞を獲得。2015年女子ワールドカップカナダ大会では男女通じて世界初の6大会出場を成し遂げ、チームの準優勝を支えた。代表通算205試合出場、83得点(15年8月10日現在)

●岩渕真奈(いわぶち・まな) 1993年3月18日生まれ、東京都出身。身長155cm、体重53kg。ポジション:FW 14歳でなでしこリーグ初出場を果たし、代表では各年代代表に飛び級で選ばれるなど、将来を嘱望されてきた。2008年のFIFA U-17女子ワールドカップでは、チームはベスト8で敗退しながらゴールデンボール(MVP)を受賞。2013年にドイツに渡り、ホッフェンハイムの1部昇格、バイエルン・ミュンヘンのリーグ優勝などに貢献。2015年女子ワールドカップ準々決勝のオーストラリア戦では決勝ゴールを挙げる活躍を見せた。ワールドカップを終えた今、"ポスト澤"の呼び声高い次世代のエース候補。代表通算30試合出場、4得点(15年8月10日現在)