「フラメンコギターの可能性は、声を大にして伝えたい」と語る沖仁

架空のバー「ホワイトレインボー」を舞台に、タモリと宮沢りえが様々なゲストを迎える人気番組『ヨルタモリ』(フジテレビ系)。

このバーの“常連客”で一躍、注目されているのが、沖仁(おき・じん)氏。本場スペインの世界的コンクールの国際部門で日本人として初めて優勝した、世界最高峰のフラメンコギタリストだ。

前編(「『ヨルタモリ』の常連客、フラメンコギタリスト・沖仁の意外な素顔」)に続き、後編ではフラメンコギターのディープな世界、そしてタモリほか共演者との秘話を語る!

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―2010年にスペインの大きなコンクールで日本人として初めて優勝した模様が『情熱大陸』(TBS系)で放送され、日本でも知名度を得ました。今ではジャンルを超えて錚々(そうそう)たるミュージシャンとコラボしていますが、フラメンコギターをもっと広めたいという思いで?

 自分が弾きたいというのが先ですが、もっと知って欲しいとも思います。フラメンコギターにはすごい可能性が眠っている。よく、あらゆる音楽は出尽くしたと言われるけど、フラメンコギターに関しては「まだ数%しか発掘されてないんですよ」と言いたいです。

―日本ではまだ馴染みが薄く、いかにも「フラメンコ!」っていうイメージですが…。

 スペインでも、フラメンコを弾くための民族楽器という枠に縛られている。だけど、僕はそんな小さいものじゃないと思ってます。だから、いろんなミュージシャンとコラボして「こんなジャンルの人と一緒にできるって誰が想像した?」とやってるつもりだから。フラメンコギターの可能性は声を大にして伝えたいですね。

―まさに『ヨルタモリ』を見ると、「フラメンコギターって、あらゆる音楽に合わせることができるんだ」と感じます。

 そう。伴奏楽器として、これほど歌に寄り添える楽器って他にないと思うんですよ。フラメンコの歌とギターの関係は、究極的には夫婦だったり親子だったり、ファミリーになる。その絡み合いの密接さは尋常じゃないくらい深い。

歌い手の息遣いから、間、癖…全部わかった上でやるので、ものすごいディープな世界なんです。僕はその心をわかっているつもりなので、『ヨルタモリ』でも歌い手にすごく寄り添うように弾いてます。

「玉置浩二さんはミラクルです」

歌い手と密接につながっているフラメンコが、『ヨルタモリ』でのセッションにも生きている

―タモリさんとの会話で印象に残っている言葉はあります?

 初めて飲んだ時に、タモリさんは「音楽が生まれる瞬間を視聴者に見せたかった」と僕に言ってくれました。それは、あの「ホワイトレインボー」でのゲストを含めたセッションのことですね。

リハーサルして、用意した譜面を見ながら「せーの」で始めるんじゃなくて、白紙の状態から何をやろうかお互いにわからないけど何かやってみようと。そこで音楽が生まれる、それが見せたかったんだと。

―完全にアドリブでやってるんですか? 宮沢りえさんが感動して涙を流した甲本ヒロトさんとの「リンダリンダ」も? 

 打ち合わせもリハもないですよ。僕が勝手に練習してきたものを聴いていただけますか?と弾き始めて、そこに甲本さんが乗ってきてくれた。リスキーだし、TVでは普通はやらないことですけど、キミならできる!ってタモリさんが信じてくれていると思ったんです。

―素晴らしいです!!

 こんなことができちゃうんだって、僕らもビックリしちゃうんですね。予想していなかったことが起きて、タモリさんは嬉しそうにニヤニヤしているっていう(笑)。

―まさに「音を楽しむ」と書いて音楽なんだと実感させるお話です。あと、沖さんは玉置浩二さんとも共演されていますね。玉置さんはどんな方でした?

 ミラクルですね。あらゆる意味で僕の想像を超えています。歌い手としても、お話する内容にしても僕の物差しでは計れない。現代の日本にああいう人がいるのは奇跡だなって思います。みんな良くも悪くもうまく収まるじゃないですか。ムダな摩擦や遠回りは避けるものですが、あんなに損ばっかりしているというか(笑)、リスクを恐れず心のままにやっている人は他に会ったことがない。本当にピュアで、歌の神様だと思います。

「もっともっと行けるんじゃないか」

―そして発売中の最新アルバム『エン・ビーボ~狂熱のライブ~』は、日本が誇るジャズ・ジャイアント、渡辺香津美さんとのギターデュオですね。

 香津美さんは20歳も上だし、憧れの人でした。僕が持っていないものを全部持っていると言ってもいいくらい。共演させてもらう度にこれで終わりかもしれないと思って、僕は必死で弾いてます。初めて共演した4年前は、やみくもに刀を振り回すように弾きまくっている感じでしたが、最近は香津美さんをもっと受け止めることができるようになってきたかなと。

すごく幸せな気持ちで弾く曲もあれば、ギターバトルの曲もある。香津美さんと弾く度に、新しい自分を発見できるし、すごく豊かな色彩を帯びてきて、もっともっと行けるんじゃないかと思います。

「ポップスを全然聴いてこなかったので、『ヨルタモリ』では苦労している」と、意外な事実を打ち明ける沖仁

●沖仁(おき・じん)1974年生まれ。14歳より独学でエレキギターを始める。高校卒業後、カナダで一年間クラシックギターを学ぶ。その後、スペインと日本を往復し20代を過ごす。2006年にメジャーデビュー。2010年、スペイン三大フラメンコギターコンクールのひとつ『第5回ムルシア“ニーニョ・リカルド”フラメンコ ギター国際コンクール』国際部門で日本人として初めて優勝。その模様がTBS系『情熱大陸』で紹介され、大きな反響を呼ぶ。2013年には、さまざまなジャンルのトップミュージシャンを迎えたコラボ・アルバム『Dialogo[ディアロゴ]~音の対話~』をリリース。ソロ活動を中心に、国内外のミュージシャンとの共演、プロデュース、楽曲提供等を精力的に行なっている

●『エン・ビーボ!~狂熱のライブ~』沖仁とジャズギタリスト渡辺香津美が熱き共演。全国4ヵ所7公演からのベストテイクを収録した2枚組ライ ブアルバム。ふたりのオリジナル曲のほか、スーパー・ギタートリオの演奏で有名な「地中海の舞踏~広い河」やチック・コリアの「スペイン」、ピアソラの 「リベルタンゴ」、日本古謡「さくら」をアレンジした「サクラ・ポル・ブレリア」、イギリス民謡「スカボロー・フェア」など全13曲収録

『沖仁 CONCERT TOUR 2015』11月20日(金)/大阪・サンケイホールブリーゼ/18:00開場、18:30開演11月25日(水)/東京・渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール/18:00開場、18:30開演『沖仁 con 渡辺香津美』2016年1月23日(土)/神奈川県立音楽堂/16:30開場、17:00開演詳しくは沖仁HPまで

(取材・文/中込勇気 撮影/ヤナガワゴーッ!)