風評被害を訴える勝田社長。手元には大量の迷惑メールのコピーが…

五輪エンブレムの盗作疑惑で渦中の人となった“サノケン”こと佐野研二郎氏ー―。

そのサノケンのデザイン事務所と会社名がほぼ同じだったばかりにバッシングにさらされている人物がいる。東大阪市でデザイン会社「Mr.DESIGN」を経営する勝田真規(かつた・まさき)さん(46歳)だ。

ちなみに、サノケンのデザイン事務所名は「MR_DESIGN」。「ピリオド」と「アンダーバー」の違いだけで、罵詈(ばり)雑言を浴びる羽目になったとはホント、とんだトバッチリというほかはない。

元々は害虫駆除の会社を知人と経営していたという勝田さん。

「ところが、製品のパッケージや宣伝ビラを見よう見真似でデザインしてみたところ、これが好評で売り上げも伸びたんです。すると、その評判を聞きつけた他社から『ウチの製品のデザインも考えてくれ』と依頼が舞い込むようになり、結局、2006年4月に正式にデザイン会社を設立することになったんです」

サノケンが今のデザイン会社を設立したのは08年のこと。つまり、勝田さんのほうが2年も早く「ミスターデザイン」と名乗っていたことになる。ただ、後にデザイン界の売れっ子のサノケンが同じ名前の事務所をオープンしたことを知っても特に悪い気はしていなかったという。

「佐野さんはミスタードーナツを見て、『ミスターデザイン』という事務所名を思いついたそうですね。私は困っている人を助けるヒーローのイメージと、ピクサー映画の『Mr.インクレディブル』という作品に触発されて今の会社名をひねり出したんです。ただ、相手はデザイン界のエース的存在。そんな有名なデザイナーと同じネーミングを自分が思いついたなんて、ちょっといい気分になったほどでした」

そんな鷹揚(おうよう)な人柄の勝田さんへのバッシングが始まったのは7月31日のことだった。

「この盗作野郎! おまえは日本の恥だ!」と、勝田さんをののしる文面のメールが届いたのだ。

会社が有名になってよかったじゃない?

「ピリオド」と「アンダーバー」の違いだけでいわれないバッシングを浴びる羽目に

だが、いくら考えても批判される心当たりがない。困惑していると、今度は8月5日に「世界に類を見ない盗作デザイナーへ」という題名のメールが。勝田さんがげっそりとした表情でこう言う。

「ここで初めて気づいたんです。佐野さんの会社名とうちの会社名が同じ読み方なので間違えられているんだと」

それ以降も苦情のメールや電話はやまなかった。例えば、こんな具合―。

「パクリ、逃げるな」「コピペの常習者だ」「勝田? いつから代表が佐野から勝田に変わったんだ? 答えろ!」

これでは仕事にならない。そこで9月3日、自社ホームページに「弊社と佐野氏のデザイン事務所はまったく別会社」との一文を掲載することに。さらに新聞社が「大阪のデザイン会社が佐野氏の事務所と間違えられて困っている」との記事を掲載してくれることになった。

これで誤解は解けるだろう―ー。そうホッとひと息ついていた勝田さんだったが、そうは問屋が卸してくれなかった。バッシングがやむどころか、さらにエスカレートしてしまったのだ。勝田さんが説明する。

「新聞記事がヤフーニュースに転載された9月4日昼以降、逆に苦情が増えてしまったんです。とにかく、昼から電話が鳴りっ放し。ホームページのアクセス数も一日平均100件ほどだったのに4万7千件を超えてしまった。電話に出てみると、『おまえは泥棒、泥棒、泥棒』と念仏のようにつぶやかれるわ、『佐野の関係者なんだろ? 同じ名前ということはそういうことだよな。国民の前で土下座しろ!』と怒鳴り散らされるわ、もう毎日がてんやわんやでした(泣)」

また、周囲からはこんな心ない声をかけられたこともあったという。

「会社が有名になってよかったじゃないかと言われるんです。でも、仕事は常に2、3ヵ月先の分まで受注している状態で、今さら有名になる必要なんてないんです。もし、このバッシング騒動でよいことがあったとしたら、『ニュースを見て知った』という見知らぬ人からホームページ作成の見積もり依頼が1件あったくらいのもの。それ以外に何もいいことなんてありません」

「普段は一日に100いくかどうか」(勝田氏)という会社HPのアクセス数が、9月4日にはなんと4万7348と400倍に!

無関係とわかっても苦情はエスカレート!

驚くのは、勝田さんが佐野氏と無関係とわかっているのに、なお苦情を持ち込む人々も少なくなかったということ。

「ホームページを読んだにもかかわらず、『は?(苦情は)当然だろ。同じ事務所名なんだから。名前を変えるか、国民の前で謝罪すべき。なんだ、その開き直りは。ふざけるのもいい加減にしろ!』と暴言を吐かれた時は、もう返す言葉もありませんでした」

もうひとつ、勝田さんの気力を萎(な)えさせることが。

「東京のTV局から『佐野さん、そろそろTVカメラの前で釈明しませんか? もう攻撃はしませんからフォローもしっかりさせていただきます』という取材依頼のメールが届いたんです。すぐに『同じ名前の別会社です。報道もされています。ちゃんと確認して連絡してください』と抗議したんですが、この時ばかりは『情報力のあるマスコミでさえ、まだ誤解をしている。これでは一般の人が苦情を言ってくるのは仕方のないこと』と絶望的な気持ちになったものです」

9月6日にはとうとう自宅の電話番号までネット上にさらされてしまう。ネットの悪意とはここまでどす黒いものなのか。この事態に勝田さんが佐野氏にこう呼びかける。

「佐野さんはホームページに電話番号を載せていないんです。なので、ネットで『ミスターデザイン 電話番号』と検索すると、うちの会社の番号が出てくる。これでは抗議電話は減らない。今のところ、こちらは会社名を変更するつもりはありません。

だからお願いですから佐野さん、自分の事務所の電話番号をホームページで公開していただけないでしょうか?」

果たして勝田さんの哀願がサノケンに届く日はやって来るのだろうか?

(取材・文・写真/ボールルーム)