ラジオ日本「真夜中のハーリー&レイス」で様々なゲストと生放送トークバトルを繰り広げる清野茂樹アナウンサーがレクチャー

プロレスラーの長州力と天龍源一郎が「日本一滑舌の悪いLINEスタンプ」を発売するなど、このところ何かと耳にすることが多い“滑舌(かつぜつ)”というワード。

「聞き取りにくい」の意と思われるが、「かつぜつ」と打っても変換されなかったり、辞書に載っていないことも…。にわかに気になる「滑舌」の正体はなんなのか…ラジオやイベントでプロレスラーとの共演経験も豊富なアナウンサー、清野茂樹氏に聞いた。

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―昔は「滑舌」という言葉をこんなに聞かなかったですよね?

清野 そうですね。僕も1995年にアナウンス試験を受けた時に初めて知った言葉です。広辞苑で調べても載っていない。つまり、元々はアナウンス用語なんですね。発声には3つの基本があり、「大きな声を出す」「滑舌」「複式呼吸」です。滑舌は読んで字の如し、「舌の動きを滑らかにする」ということです。

―ということは、狭義では舌の動きということなんですか。

清野 そうだと思います。滑舌の悪い人は舌や口の筋肉が動いていないんです。実際に長州さんはあまり動いていない。舌をあまり動かさずに喋ると誰でも長州さんっぽくなりますよ。おそらく、長州さんは舌が短いんだと思います。舌の短い人は、特に「た行」が不利ですね。舌を上あごにに付けて離すことで音が出ますが、舌が短いと上顎に届かないから。

―なるほど…では、天龍さんはどうなんですか?

清野 厳密にいうと、滑舌が悪いわけではありません。しわがれ声というか、ハスキーなだけですね。今年、イベントでご一緒させていただきましたが、滑舌は悪くなかったですよ。―なんでああいう声になったんですかね?

清野 やっぱりプロレスラーは喉を攻められるからじゃないですか。他に有名どころでは、坂口征二さん、三沢光晴さん(故人)、金本浩二さんがハスキーですね。あとは星野勘太郎さん(故人)もすっごいハスキーでした。僕が実況デビューした時の解説が星野さんでしたが、結構聞き取りにくかったですね。星野さんの甥っ子さんに聞いたんですけど、電話がかかってきたけど何言ってるかわからなかったと。で、相槌が打てないでいると、「ちゃんと聞いてんのか!」と怒られたそうです(笑)。

前田日明が「滑舌、大丈夫やった?」と…

清野アナが使っていたアナウンス教本。「滑舌訓練」の文字が見える

―最も聞き取りにくいハスキーボイスといえば?

清野 現在、新日本プロレスでブレイク中の本間朋晃さんですね。「なんでこんな声になったんですか?」と聞いたら、ある試合でラリアットを食らった時に、相手の前腕部ではなく拳が喉を直撃してしまったらしいんですよ。「イッテー!」となって、その日は大丈夫だったんだけど、翌朝起きたらあの声になっていたらしいです。声帯が潰れちゃったんでしょうね。

―「ハスキー本間」は一夜にして誕生したんですね(笑)。

清野 本間さんが試合の解説をしたこともあって。ラジオだったら静かなスタジオだからいいんですけど、会場は歓声とかノイズがすごいじゃないですか。余計、聞き取りにくいですよね。ほとんどわかんなかったです(笑)。

―ちなみに、何を言ったかわからない場合はどう返すんですか?

清野 「なるほど!」と言って、話題を変えます(笑)。視聴者からも「わからない」というご意見が寄せられて、あれ以来、解説はされてないんじゃないですかね。

―プロレスラーの多くは滑舌が悪いんじゃなくて、ハスキーが多いということですね。

清野 そうなりますね。でも、「滑舌が悪い=口が動いていない」という意味では、長州さんの他は藤波辰爾(たつみ)さん、前田日明(あきら)さんですかね。前田さんはラジオにご出演いただいて、生放送後の第一声が「滑舌、大丈夫やった?」でしたから、ご自身でも気にされているのかも。

あとは、棚橋弘至さんですね。よくイベントの締めのひと言とか肝心なところで「噛んじゃった!」と自分でネタにされてますけど、棚橋さんも長州さんタイプで、舌がちょっと短いんだと思います。ご自身のお名前「たなはし」は「あ行」が続くので、ハッキリ口を動かさないといけないから、結構大変だと思います。その代わり、大きな声を出すことを心がけているとおっしゃってましたけど。

―長州さんは滑舌の悪さに加えて、「アレはアレだよな」とか名詞を省略するので、さらにわかりにくくなってますよね。

清野 ちゃんと文章になってないんですね。さらに「チンタ(故・橋本真也のこと)」とか「青山(かつての新日本プロレス事務所のこと)」とか、自分なりの用語を使うから、普通の人にはワケわからないですよね(笑)。その点、前田さんは言葉数が多いから割と理解しやすいですけど。

滑舌をよくするには?

滑舌改善のポイントは、とにかく口を大きく開けてハッキリしゃべること!

―では、清野さんがこれまで共演した中で「いい声」の人は?

清野 真壁刀義(とうぎ)さんはハッキリして聞き取りやすい。獣神サンダー・ライガーさんもいい声ですよね。レスラー以外では、アナウンサーとか声優とか絶えず舌や口の筋肉を使っている人は、年をとっても滑舌がいい。あと、ビックリしたのが伊藤政則さん!

―ハードロック評論家の…。『POWER ROCK TODAY』(bayfm)のパーソナリティですね。

清野 62歳の大ベテランなのに、すごいんですよ。声も大きいし、滑舌もいい。そして勢いがある。前に出てくる声なんです。僕も負けちゃいけないと必死で喋りました。落語では春風亭小朝さん、芸人ではますだおかだの岡田圭右さんもいい声でした。

―話を統括すると、一般的には「聞き取りにくい=滑舌が悪い」と十把ひとからげにされてますが、細かく分ければ「舌や口の筋肉が動いていない」「声質が聞き取りづらい」「しゃべりが文章になっていない」と、3つくらいに分類できそうですね。

清野 そうですね。今日は僕がアナウンサーになった頃に使っていた滑舌の教本を持ってきました。例えば、「ら行」は特に舌を使うのでこんな具合に練習します。「らりるれろ りるれろら るれろらり れろらりる ろらりるれ…」と繰り返しやる。「か行」の訓練としては、早口言葉みたいに「貨客船の旅客は旅客運賃が安い。規格価格か駆け引き価格か」とか。

―かきゃっせんのりょかっ…ちょっと難しいですね。僕も滑舌悪いんですけど、気にしている人向けにもっと簡単な改善方法はありますか?

清野 大前提として、とにかく口を大きく開けることですね。自分では開けていると思っていても、意外と開いてないものなんですよ。開き過ぎているくらいがちょうどいいとよく言われます。後は大きい声を出すこと。自然と口の動きも大きくなるし、伝わりやすくなります。結局、滑舌は筋肉の動きですから、筋トレと同じで日常的にハッキリ大きくしゃべることを心がけていればよくなりますよ!

●清野茂樹(きよの・しげき)1973年生まれ、兵庫県神戸市出身。青山学院大学卒業。96年、広島FMに入社してアナウンサーとなる。2006年にフリーに転向し、新日本プロレスなどの実況を担当する一方で、ラジオ日本のトーク番組「真夜中のハーリー&レイス」(毎週火曜深夜3時~4時)のパーソナリティとして活躍中。

(取材・文・撮影/週プレNEWS編集部)