国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。

***メコン川が国土を南北に貫く、ASEAN唯一の内陸国ラオス。中国の経済進出が著しいこの国を訪れ、その実態を肌で感じてきました。

近年、中国は成長著しい東南アジア諸国へ積極的に進出していますが、中でも「親中」の度合いが高いと思われるのがラオス人民民主共和国です。

先日、7年ぶりにラオスを訪れました。世界遺産の古都ルアンパバーンに流れるメコン川のほとりで、地ビールのビアラオを飲みながら夕日を眺め、思索にふけるのは至福の時間です。現地の人々の笑顔やホスピタリティは素晴らしく、7年前には「この国は発展という魔物に侵されていない」と心底感じたことを覚えています。

今もメコン川の夕日の美しさは変わっていませんでしたが、前回と大きく変わったのが中国人観光客の多さと勢いです。あちこちに中国語表記の看板があり、中華街らしき場所もある。そこで中国人観光客は、インスタントコーヒーやオーストラリアワインを“爆買い”していました。

また、今回あるレストランで食事をした際、おつりをごまかされ、10ドルほどぼったくられました。もちろん今もラオス人の多くがホスピタリティにあふれ、素朴で誠実なことに変わりはないでしょうが、多くの観光客が訪れ、外貨を落とすようになると、悪知恵を働かせる現地人も一部には出てきてしまうのでしょう。ブータンやミャンマーでも同じことを感じましたが、これは新興国が発展していく過程では避けられない現象であり、ラオスもまた例外ではないということかもしれません。

そんなルアンパバーン以上に「中国」の存在を色濃く感じたのが首都のビエンチャンです。街は住宅やホテル、オフィス、道路などの建設ラッシュ。その工事の多くを中国の業者が請け負っており、至る所で中国語の看板や表示があふれ返っていました。

ラオスと国境を接する中国・雲南(うんなん)省の建設業者に聞いた話では、現在ビエンチャンだけで約10万人の中国人が滞在しているそうです。ラオスの人口が約651万人、ビエンチャンの人口が約77万人ということを考えれば、割合としてはかなりのもの。彼らの流入に付随して、レストラン、ホテル、スーパー、マッサージ店なども中国系が急増していました。

では、ラオスの人々がそんな中国の進出をどう思っているのか。違和感を持つこともなく、ラオス社会の物質的発展への貢献を割と自然に歓迎しているような雰囲気をぼくは感じました。

親中のラオスに日本は…

中国最大手の銀行である中国工商銀行のビエンチャン支店は、街の中心にまるで城のようにそびえ立ち、そこで働くラオス人たちは中国語が堪能でした。蘇州(そしゅう)大学で5年間学んだという若い女性行員によれば、同行は中国企業のラオス進出も支援しており、また最近は人民元で貯蓄をするラオス人も多いとのことでした。

考えてみれば、中国とラオスはともに社会主義国家であり、ベトナムやフィリピンなど南シナ海沿岸諸国のように、領土問題をはじめとする政治的な緊張も抱えていません。この点も、ぼくがラオスを東南アジア随一の「親中国」と感じた理由かもしれません。

中国の存在感を眺めながら、ぼくは街中で呆然(ぼうぜん)と立ちつくし、危機感を抱きました。それは、ラオスのような新興国への投資に対する日本企業の立ち遅れです。少子化により内需が縮小していく趨勢(すうせい)が避けられない中、新たな市場を積極的に開拓しなければいけないはずなのに「嫌われたくない、いい人でいたい」という思いが強いのか、目立つのはODAによる経済援助ばかり。ビジネスにおける中国のハングリーさ、悪く言えば強引さの前に、あちこちで後塵(こうじん)を拝してしまっています。

ラオスの発展と、そこでの中国の勢いや貪欲さを目の当たりにしても、国際社会における日本の未来を不安に思わない理由があるというなら、逆に教えて!!

●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェロー、ジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員を経て、この夏から再び北京へ。最新刊『中国民主化研究 紅い皇帝・習近平が2021年に描く夢』(ダイヤモンド社)が発売中。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」も活動中!