来年1月から本格スタートとなるマイナンバー制度

番号の通知が迫る、マイナンバー制度ーー。

10月1日から住民票を持つ国民一人ひとりに12桁の番号が割り振られ、来年1月から本格スタートとなる。制度開始後は、行政手続きで住民票などの添付書類が不要になるなどいろんなことが便利になるのだが、ネガティブ要素として危惧される問題も多数指摘されている。(参考記事→「地方財政が破綻、中小企業は倒産ラッシュに!」

そこで、マイナンバーに潜むリスクをすでに実践されている韓国のケースから考えてみよう。

2010年に国連の世界電子政府ランキングで1位に輝くなど、マイナンバー制の先進国に数えられる韓国。名称は住民登録番号制度と呼ばれているが、この制度に詳しい韓国紙の在京特派員が言う。

「これがスタートしたのは1962年です。韓国は38度線を挟んで北朝鮮と対峙しているためスパイが越南する危険性がある。ただ、同民族で顔つきや言葉が一緒なので、ソウルなどの都会に紛れこまれると区別がつかない。そこで住人の本人確認をするために住民登録番号制度が導入されたのです。行政手続きを効率化するためというというよりは、スパイ摘発など保安上のニーズから始まったんですよ」

韓国では出生すると全住民に13ケタの識別番号が与えられ、戸籍や住所、学歴、徴兵歴、出入国記録、保険、年金情報などの情報が紐づけされる。

「そのため行政のペーパーレスが進みました。例えば、転入届けは自宅のパソコンから政府のサイトにアクセスして住民番号を入力し、新しい住所を書きこめばそれで終わりです。確定申告も必要ありません。

給与などの収入、医療費や教育費などの支出などが住民登録番号によって政府に管理され、納税額や還付額などが自動的に計算されるのです。病院の窓口で保険証を提示する必要もありません。住民登録番号があれば、それで受診できます」

また公的機関だけでなく不動産取引、自動車取得、クレジットカードや携帯電話の契約など民間の商取引などにも住民登録番号は広く利用されている。日本のマイナンバーと比べると利用範囲が広いのが特徴だ。

ただ、その分、リスクも高くなる。住民登録番号を盗まれ、他人が本人になりすましてクレジットカードで買い物するなどの被害も拡大するからだ。

その心配が現実になったのが2011年7月のハッキング事件だった。前出の特派員が続ける。

「中国人ハッカーがシステムに侵入し、韓国国民の7割にあたる3500万人分の個人情報が住民登録番号と一緒に盗まれたんです。その中には朴槿恵(クネ)大統領の番号も含まれていました」

なりすまし被害が続出!

この時、ハッカーが攻撃したのは政府のシステムではなく「Cyworld」という民間のSNSサイトだった。政府に比べ、民間のセキュリティが手薄だったためだ。こうして外部流失した住民登録番号はどのように悪用されたのか?

「韓国はネット上のオンラインゲームが盛んですが、プレイの際に住民登録番号の入力を求められることがしばしばです。そのオンラインゲームで何百時間もかけて取得したレアアイテムや呪文が盗まれ、オークションサイトで売られるという事件がありました。プレイヤーの住民番号を盗んだ何者かが本人になりすまし、勝手にレアアイテムを出品し、高額な値段で売りさばいてしまったんです」

その他にもスマートファンを遠隔操作で乗っ取り、そこから取得した住民登録番号を使ってネットショッピングされたり、貯まっていたポイントをごっそり盗まれるなどの被害も続発している。

また、こんな笑えない話も――。韓国ではパスポートにも住民登録番号の一部(後ろ7ケタ)が記載され、その番号から所持者の出生地がわかるようになっている。この7ケタの番号をめぐって、「韓国と中国の間で大騒動が起こった」と前出の特派員が苦笑する。

「北朝鮮から脱出してきた脱北者は京畿道の安城市にある生活適応教育院に収容され、韓国で新しい生活をスタートさせるための研修を受けます。そのため脱北者には一律、安城市を意味する『252』の入った住民登録番号が与えられました。

ところが、その情報を知った中国の入管当局がパスポートの下7ケタ番号に『252』がある韓国人旅行者を脱北者とカン違いして、入国を拒否するという騒ぎが起きてしまったんです。その数は2007~08年で延べ50万人に上ったほどでした」

慌てた韓国政府は「住民登録番号は一生不変」というルールを曲げ、安城市を示す「252」を脱北者には一度だけ変えることを許可することで、この騒ぎを収拾したのだとか。

日本のマイナンバーは今のところ、社会保障、税、災害対応の3分野でしか運用しないと定められている。だが、前出の特派員はこう警告する。

「国民が黙っていると、政府はどんどんマイナンバーの適用範囲を拡大したがる。国民監視、コントロールに利用できるからです。事実、日本でもNHKの受信料や健康保険証などとマイナンバーを連動しようという動きが出ています。韓国はこの制度を広げすぎ、なりすまし被害などの副作用で苦しんでいる。日本は適用範囲をくれぐれも広げすぎないことです」

それを監視し、チェックする我々の側の目も必要となってくる。

『週刊プレイボーイ』41号では、さらに詳細に日本を揺るがすマイナンバーの“マジで怖い話”を一挙紹介、お読みいただきたい!