海老名・ツタヤ図書館の内観。館内にはスタバも併設し、オシャレな空間が広がるが…１０月１日、神奈川県海老名市の海老名市立中央図書館が、カルチュア・コンビニエンス・クラブ（ＣＣＣ）が運営する通称〝ツタヤ図書館〟としてリニューアルオープンした。２０１３年に開館した武雄市図書館（佐賀県武雄市）に続き、全国で２館目となる。
だが、「エビナは大丈夫か？ 今日はそれを確かめに来ました」と話すのは、オープン直後に来館した近所の主婦。彼女が心配しているのは、武雄図書館で露呈した、ＣＣＣのお粗末な選書（本のセレクト）である。
武雄市民とはまったく無縁な『埼玉ラーメンマップ』、古すぎる実用本『Ｗｉｎｄоｗｓ９８／９５に強くなる』など、利用価値の低い中古本がＣＣＣの関連会社が運営する中古本サイト『ネットオフ』から大量購入されていたことが発覚、多くのメディアがこれを報じた。
そして、ここ海老名市でも、同じ問題が発生ーー。
９月１７日、市議会で質疑に立った飯田英榮（ひでしげ）市議がＣＣＣの選書リストを公表したのだ。飯田氏がこう話す。
「武雄図書館のニュースを見て心配になり、リストの提出を海老名市教育委員会に求めました。届いたリストを見てあぜんとしましたね。リストにある全８３４３冊のうち、料理の本が４１２６冊と約４９％も占めていました。一方で、文学、社会科学、海老名の郷土資料など、公共図書館の蔵書にふさわしい本は皆無。このバランスは明らかにおかしいです」
そのグルメ本の中にも図書館に置く本として、どうなのかと思うものがズラリ。例えば、『「スピードサラダおろし」つき １日分の野菜がラクラクレシピ』はぶ厚い本だがメインは付録（おろし金）。活字は三十数ページ分しかない。
現役司書が「こんな選書はありえない」
ＣＣＣの選書リストに含まれていた付録（おろし金）メインのレシピ本
「他にもサラダスライサーやフライパン、ドレッシングボトル、クレープの型など付録がメインの書籍がたくさん。料理以外でも１日３分、回すだけで代謝が上がるという『なわなしなわとび』がついた２３ページしかないエクササイズ本、ミニーちゃんの文具３点がついたムックもありました」（飯田氏）
武雄図書館の選書でも問題視された“古すぎる本”も多数リストアップ。例えば、１０年発売の『パンシェルジュ検定２級公式テキスト』、０９年発売の『はじめての３次元ＣＡＤ』…。
休刊した雑誌も多い。
「０９年休刊のサブカル誌『ＳＴＵＤＩＯ ＶＯＩＣＥ（スタジオ・ボイス）』の９１年から００年に発行されたうちの７冊、０３年休刊の女性ファッション誌『Ｏｌｉｖｅ（オリーブ）』の９２年から９８年に発行された１１冊がバラバラに…」（飯田氏）
さらに飯田氏を驚かせたのが、『アイミクロンメガネクロス 富嶽三十六景』。一体、どんな本なのか。
「ただのメガネ拭きです。パッケージに葛飾北斎の浮世絵がデザインされたやつ！ 同シリーズで『東海道五十三次』など２０件のメガネ拭きがリスト入りしてました」
他市の市立図書館で働くベテラン司書がこう話す。
「通常の公立図書館では『見計らい』といって、図書館向けの書籍販売会社に持ってきてもらった本を見ながら選書会議を行ない、納本する本を決めます。また、選書は必ず性別や世代、思想、趣味が異なる複数の職員で行なうもの。ですから、メガネ拭きなんてリストに入りようがないんです」
飯田氏の追及により、武雄図書館と同様の“疑惑の選書”が明らかになったのが９月１７日。海老名市立中央図書館を所管する教育委員会は「選書リストはあくまで予定のもの。これから一冊一冊、再選書をかけます」と答弁した。だが、その時点でオープンまで２週間しかなかった。
ツタヤ図書館館長が懺悔するも…
さぁ、ここからが大変！ 教育委員会のメンバーは、ＣＣＣの選書リストを叩き台に怪しいタイトルの本をはじき、発注をかけ、届いた本を一冊一冊確認するというツラい作業を強いられた。
図書館オープンの前日、本誌記者は海老名市役所５階にある教育委員会を訪れた。担当者が疲れた表情でこう話す。
「ＣＣＣさんが作成した購入予定リスト（全８３４３冊）の再選書作業がほぼ終了し、７１６１冊まで絞り込みました。再選書に当たっては、『中古本の購入はしない』『ＣＣＣさんの関連会社（のネットオフ）からは買わない』ことを徹底、ゴホッ。教育長、教育部部長、事務方の職員も加わり、購入予定リストをチェック後、ゴホッ、図書館に納品された本を一冊一冊確認し、問題のありそうな本を省きました。ゴホッ、ゴホッ」
体調、悪そうですね？
「本の納品が始まったのが、９月２５日金曜日。そこから休日返上で朝早くから深夜まで連日、約７千冊分の確認作業を強いられましてね」
オープン日に館内の図書館の蔵書検索機で確認したところ、メガネクロス、付録メインの本、古すぎる資格本などはしっかりはじかれていた。海老名市立中央図書館の運営に携わる幹部がこう話す。
「武雄市図書館の問題が発覚していなければ、ウチも同じ目に遭うところでした。オープン直前までドタバタでしたが、ギリギリのところで不適正な本を排除できて本当によかった…」
海老名市立中央図書館の館長を務めるのは、ＣＣＣ社員で武雄市図書館の初代館長を務めた高橋聡氏。オープン前日の記者会見で、彼が発したひと言が印象的だった。
「言い訳になりますが、武雄市のときは（初めての図書館運営だったため）私たちは“ド素人”でした」
ところが、開館後もやはり問題発覚…（参考記事→「大騒動のツタヤ図書館は海老名でも恥の上塗り！」）。今回のドタバタ劇を見る限り、ＣＣＣはまだ“ド素人”のようだ。次こそ“プロ”になれる？
（取材・文／興山英雄）