コスパの高さが人気を呼んでいる『いきなりステーキ』

ペッパーフードサービスが展開する立ち食いステーキチェーン『いきなりステーキ』の勢いが止まらない。

2013年12月に1号店(銀座4丁目店)をオープンして以降、東京都内を中心に週1、2店舗ペースでの出店を続け、店舗数はわずか2年足らずで64店舗に達した。

同じく外食業界で好調をキープする婚活応援酒場『相席屋』も高速出店を展開中だが(2014年3月に1号店をオープン後、1年半で約50店舗)、『いきなりステーキ』はそのペースをも上回る。

それもランチタイム時の各店舗には必ずといっていいほど行列ができており、「客層は老若男女。意外にも女性客が3割を占めています」(ペッパーフードサービス広報担当・原秀肇〈ひでとし〉氏)とのこと。男性のみならず、肉食系女子の胃袋もガッチリと掴み、いきなりステーキ単体で2015年上期(1月~6月)の売上高は、前年同期比788%増!を記録した(14年3億5860万円→15年31億8651万円)。

今後も「東京は出し尽くした感があるので(東京都内の店舗数は64店舗中、46店)、地方の主要都市やショッピングモールを中心に出店していく」(前出・原氏)方針で、その勢いは止まりそうにない。

『いきなりステーキ』は、なぜこんなに儲(もう)かっているのか?

「ひとつには、高級なイメージのあるステーキを立ち食いするという斬新なスタイルがウケている点が挙げられますが、それ以上に上質な肉を安く食べさせてくれるというコスパの高さが一般消費者に支持されている点です」(飲食業界誌・記者)

店内でグラム売りを採用する『いきなりステーキ』は、厚さ2cm以上あるリブロースが1g=6円(税別)、ヒレが9円、サーロインが7円。これが「通常店の半額程度」(前出・原氏)なのだという。本当だろうか?

例えば、同じくアメリカ産のアンガスビーフを使用するロイヤルホストの「サーロインステーキ」は240g・2480円(税別、以下同)で、1g換算では10.3円。半値とまではいかないが、1g・7円の『いきなりステーキ』では同じグラム数のサーロインを1680円で食べられる。確かに安い。

リブロースステーキも、すかいらーくグループ『ジョナサン』の「ビーフリブロースステーキ(米国産ビーフ)」が160g・1349円(1g=8.4円)と『いきなりステーキ』(1g・6円)の方が断然安い! では肉質はどうか?

「1千円以下の安いステーキを提供する店では、コストを安くするために成型肉を使用しているケースが多いんです。成型肉とは、骨の周りから削り取った端肉や内蔵肉を結着して作った肉塊に巨大な注射針で牛脂を注入した、人工的な霜降り肉のことなんですが…」(飲食業界誌記者)

『いきなりステーキ』の肉も成型肉?

「いいえ、正真正銘、生肉です。外食業界の平均的な原価率は30%程度ですが、『いきなりステーキ』の肉の原価率は70%超。これだけ上質な肉を1g=5円~の価格で提供するのは、他のチェーン店では真似できないところでしょう」(同)

“常に行列を作り続けなければならない”ジレンマ

実は、『いきなりステーキ』が上質な肉を安く提供できる理由は3つある。

「ひとつ目が、立ち食いというスタイルを構築した点。立ち食いそばと同様に客の滞在時間を短縮できるのが強みで、ランチ時は平均20分。10分程度で完食して店を出る客も少なくない。この高い回転率が集客数と売上げを伸ばしているのです。

また、店内のメニューは肉を除くと別売りのサラダとライスのみ。肉の付け合わせもコーンくらいと、扱う食材を徹底的に絞り込むことで調理工程を簡素化し、少ない従業員でも店を回せる仕組みを作っています。

さらに、“1g=5円”という価格表示に目が行きがちですが、実は、店内では『リブロースの注文は300g(1800円)から』『ヒレは200g(1800円)から』といった“ルール”を設け、これが客単価を引き上げています」(前出・飲食業界誌記者)

なるほど。“立ち食い”で客の回転を早め、“食材を絞る”ことで人件費を削減し、独自の“オーダールール”を設けて客単価アップにつなげるーーこうして、原価率7割超という肉の仕入れコストを打ち消すだけの儲けを生み出しているというわけだ。

だが、このビジネスモデルを成立させるためには、クリアし続けなければならないハードルがある。前出の原氏がこう打ち明ける。

「『いきなりステーキ』は20~30坪の狭い店がほとんどですが、各店舗で利益を出し続けるためには行列が不可欠。これをどんどん回転させていくことで利益を出す、と。それもちょっとした行列ではダメで、ランチタイムなどのピーク時には“常に行列ができている状況”を作っておかなければなりません

だが、前出の飲食業界誌記者はこう話す。

「1号店オープンから2年近く経過して需要が一巡した今、“立ち食いステーキ”という真新しさはすでに薄れ、店前に行列はできているものの、列の長さは徐々に短くなってきているのが現状です。人気に陰りが見え始めた焦りからか、運営会社(ペッパーフードサービス)の一瀬社長は社員に『いきなりステーキ』のメニューだけを食べさせて減量させる“肉ダイエット”を挑戦させたりと話題作りに必死です(苦笑)」

“常に行列を出し続けなければならない”というジレンマを抱えながら出店を加速させている『いきなりステーキ』。“短くなり始めた行列”は、凋落の兆しか…?

(取材・文/興山英雄)