1億7千万円ある借金に反して、底抜けの笑顔のかつみさん(左)とさゆりさん

「22年前に1億7千万円の借金をして、毎年返しているんですが、今も1億7千万円のまま。途中、どんだけ膨らんだんだと(苦笑)」

今年7月、都内のイベントでそう告白したのは「ボヨヨーン」でおなじみの夫婦漫才師、かつみ・(実際の表記はハート)さゆりさゆり(46歳)。

順調にいけば70歳で完済予定だといい、「うちの人生はそこから。長生きしないと(笑)」と、深刻な懐事情を漫才のネタのように明るく笑い飛ばし、会場をドヨめかせた。

22年間、返済してもなぜ借金は減らないのか? 巨額の借金を抱えながら、どうしてそんなにポジティブなのか? 本人たちを直撃した。

●22年間、毎年1千万円返済も…

―率直に伺いますが、22間払い続けているのに、借金の額が全然減らないのは、どうしてですか?

かつみ(以下、 いやー、普通に本業だけしてたら、今頃は相当減ってたはずなんです。ただ、当時は若かったんで漫才1回のギャラが5千円。これで返そうにも焼け石に水なんで、副業で一発当てたろうといろいろやったんですが、それがことごとくコケて、借金がどんどん膨らんでいったんです(笑)。

―そもそも、どうやって1億7千万円もの借金を?

 簡潔に言うと、バブルの波に乗って25歳くらいの時に株やらマンションやらの売買などで3億円儲けたんです。それで、「よし、30歳までにこの3億円を10億円に増やそう!」と、株の信用取引に手を出したところ、バブル崩壊もあって4億7千万円の赤字に。差し引き1億7千万円の損失です。そこから22年間、毎年1千万円は返してますから、少なくとも2億2千万円は返しているはずなんですが。

さゆり(以下、 なのに全然、減らない。もう、どうなってんねんって言いたくなりますよね(笑)。

―どうなってるんですか(笑)。

 オオクワガタが儲かるとか、猫のブリーダー、ラーメン店やらんかと、いろいろな人から声がかかるんですよ。一度、ベランダで飼えるミニキリンが流行ると誘われたんで調べたんですが、さすがにいませんでした(笑)。

―借金は最高でどのくらいまでいったんですか?

 たぶん2億5千万円ぐらいですね。

 そう考えると、今はそこから8千万円くらい減ってるんで、かつてないほどいい感じに返済してますね(笑)。

 これは今経営している「ボヨヨンスイーツ」が好調なのもあるんですが、ありがたいことに吉本の単価も上がってきてましてね。僕ももう吉本30年目。サラリーマンならベテラン社員ですから。

 桃栗3年、柿8年、吉本興業30年です(笑)

600万円分のオオクワガタ全滅事件

現在経営している「ボヨヨヨンスイーツガーデン」にて。連日満席の盛況ぶり

―これまで自己破産して楽になろうと思ったことは?

 僕は一応、20代で3億円稼いだ実績があるんで、「1億、2億なら一瞬で稼げる」という思いがあるんです。野球でいうと初回に3点(3億)取ったけど、その裏に5点(5億)取られて2点ビハインド。2点ぐらいやったらすぐに返せる、という感じですね

 でも実際は三振ばかりで、27回(27年)終了した今でも点差がそのまま。

 僕は常にフルスイングなんで三振も多いですけど、打つ球はもう、だいぶ絞れてきてますから(笑)。ここまではたまたま相手のフォークボールにタイミングが合わなかっただけ。ストレートがきてたら、絶対に仕留めてるはずなんですが。

 かつみさんは、フルスイングで三振した後も、ものすごい素敵な笑顔でベンチに返ってくるんですよ。

 今思えば、コツコツとバントでランナー送ってれば3点ぐらい簡単に取れてたかも(笑)。

―かつみさんが借金を抱えたのは結婚前。さゆりさんはなぜこんな多額な借金を抱えたかつみさんと結婚しようと思ったんですか?

 かつみさんは常々、「自分のつくった借金やから、死ぬまでに絶対、全部返す」と言ってはりました。私、そんなんが好きなんです。そういうの聞くと「男らし~い!」って思ってしまって(笑)。いや、自分でもわかってるんですよ、私、間違ってるって(笑)

―それにしても、いろいろな副業されてるんですね。

 オオクワガタはね、バブルの頃、比較的簡単に作れた70㎜クラスでも、雄雌のペアが1万円で売れたんです。普通、クワガタはワンペアが1年で50個卵を産むんで25ペアできる。その25ペアが毎年、50個ずつ卵を産むと、4年目に1万5625ペアになる。ワンペア1万円ですから計1億5625万円。これを思いついた時、「俺はなんて天才なんや」と思いました。でも順調に600ペアに増えた頃、さゆりちゃんが…。

 かつみさんが大事にしていたオオクワガタに小さな虫がたくさんついてたんで、これはいけないと思って虫除けにバルサンをたいたところ…全滅してしまって。後で気づいたんです、オオクワガタも虫やったと(笑)。

 その次が100円ショップですね。僕はまだ、日本ではやる前から目をつけてて、大阪に「ピコピコどん」って店をオープンしたんです。それでうちのオカンを無理やり説得して店番にしたら、なんと開店の日に150万円もの売り上げがあって!

 レジの打ち間違えで、本当は2万円だったんですけど。

 さらに発注ミス連発で70個注文したはずのポリバケツがなんと700個届いて(笑)。あっという間に店内がポリバケツだらけになって、お客も店に入れない始末で。

 結局、3ヵ月で600万円の借金を抱えて閉店です。

借金完済後の展望は!?

 その次のラーメン店は自信あったんですよ。僕ら、TV番組のレポーターでラーメン店に取材に行くでしょ。そうすると視聴率がドンと上がるんから、これは絶対イケると思ってたんですが…。

 店長がうちのお兄ちゃんだったんですが、人がいいというのか、どんどんバイトを雇うので人件費がとんでもないことになって…。

 売り上げの68%が人件費、38%が材料費と、これだけで大赤字です。バイトも対人恐怖症の大学生に、掛け算のできない高校生。声のちっちゃい声優もおった。なんでそんなん雇うねんて(苦笑)。

 パスポート持ってない謎の東洋人もおってね(笑)。それでかつみさんが「何人かアルバイトを減らしてほしい」って言うたら、うちのお兄ちゃんが「かつみさん、こいつらには生活があるんですよ」って。そしたらかつみさんが「その前に、僕にも生活があるわ」って(笑)

 店長が「この店はこの子らにとって楽園なんです」って言うから、「僕には地獄です」と言い返しました(笑)。

 これ全部、実話です。

―最後のほうはラーメン店でメロンパンも売ってましたよね? スゴいコラボです。

 ラーメン店の売り上げがどんどん下がってきて、なんかテコ入れを、と思いついたのがメロンパン。これも当時、TVですごい視聴率を取ってたんですよ。

 かつみさんが「また俺、ええこと思いついた」ってニヤッと笑った時のこと、今でも覚えてます(笑)。

 メロンパンはおいしかったんですけど、ラーメンのにおいと混ざるとすごい悪臭でね。あそこまでとは予想できず、店も8ヵ月で閉店しました。

―そんなおふたりですが、現在はスイーツとフードが食べ放題という「ボヨヨンスイーツ」を12年にオープンさせ、3年たった今も連日大盛況だとか。一体、何があったんですか?

 知りたいですか(笑)。実は、僕らはプロデュースだけで、経営は全部、専門の人に任せてるんですよ。

 仕入れの時は値段交渉するというのを初めて知りました(笑)。

 場所は大阪ミナミの道頓堀で、ビルの下にはあの「くいだおれ太郎ちゃん」もいる。僕はね、あの横にいつか「ボヨヨンさゆりちゃん人形」を置きたいんです。これを大阪名物にするのが僕のひそかな野望なんです(笑)。

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まだまだ続く、かつみ・さゆりさんのすべらない借金話とその明るい理由に迫った後編は明日配信予定!

かつみさゆり かつみ、63年生まれ、52歳。さゆり、69年生まれ、46 歳。95年に結婚し、00 年より「太平かつみ・尾崎小百合」の名前で夫婦漫才を始める。02年より「かつみ・さゆり」に

(取材/ボールルーム 撮影/塩川真悟)