「一時的な話題性だけで騒がず、今後、彼がどういう過程を歩むのかを、じっくりと見守るべき」と語るセルジオ氏

ビックリしたね。48歳のゴン(中山雅史)がJ3昇格を目指すJFLのアスルクラロ沼津と選手契約を結び、約2年9ヵ月ぶりの現役復帰を果たした。

確かに、ゴンはコンサドーレ札幌退団時の会見(2012年12月)で「(現役に)未練たらたらです」と言い、最後まで「引退」という言葉は口にしなかった。でも、その後、何度か解説などの仕事を一緒にさせてもらったけど、まさか本当に復帰を目指してトレーニングを続けていたとは知らなかった。

メディアの前では、ふざけて笑いを振りまくキャラを演じているけど、普段の彼はシャイで口数も少ない。とにかくまじめな性格だ。札幌時代に手術した両ヒザは退団時、日常生活にも支障をきたすほど悪い状態だったと聞いている。それでも現役にこだわって、ここまでこぎ着けたということは、相当リハビリを頑張ったのだろう。頭が下がるよ。

もっとも、厳しいことを言えば、選手契約を結んだとはいえ、公式戦に出場を果たすまでは、本当の意味での現役復帰とは言えない。きっと本人もそう思っているはず。

ゴンは自分でも昔から「俺はヘタクソだから」と言っていて、実際、足元の技術は大したことがない。それでもあれだけ実績を残せたのは、ずば抜けた身体能力と強い気持ちを持っていたからこそ。

接触プレーを恐れず、ぎりぎりのクロスにも頭から突っ込んでいく。相手DFに何度削られても、平然とした顔で立ち上がり、再び立ち向かう。とにかく、ゴール前で泥くさく体を張り続ける。

1998年フランスW杯のジャマイカ戦で日本のW杯初得点を決めた後、相手選手との接触で脚を骨折しながらも試合終了まで走り続けたのは象徴的だ。今の日本代表でいえば岡崎が似ているかな。いずれにしても、僕がDFだったら、一番対戦したくないタイプの選手だ。

48歳での挑戦には敬意を表したいが…

ただ、そういうシンプルで激しいプレースタイルだからこそ、体にかかる負担も大きかったわけだし、ケガも多かった。そして、今後の試合出場へのハードルも高いと思う。

ただでさえ約3年のブランクのある48歳。ずっと現役生活を続けている1学年上のカズ(三浦知良)とは条件が違う。昔のような動きは望むべくもないし、技術でごまかせるタイプでもなく、さらに今後、ヒザが完璧な状態に戻るわけではない。ゴンの強い気持ちをもってしても、どうにもならない部分がある。実際、まだヒザの状態は安定せず、チーム練習には毎日参加できていないと聞く。

ネームバリューがあるので、ベンチに入らなくても観客動員は増え、テレビや新聞でもニュースとして取り上げられ、広告塔としての役割はすでに十分果たしているけど、J3昇格に向けての正念場を迎えているチームが、どこまで本気で戦力として考えているのかもよくわからない。

もちろん、そういったハードルの高さは本人が一番よくわかっているだろうし、48歳での挑戦にはただただ敬意を表したい。でも、やはり今の段階では「現役復帰おめでとう」とは言えない。メディアも一時的な話題性だけで騒いだり、持ち上げたりするのではなく、今後、彼がどういう過程を歩むのかを、じっくりと見守るべき。それが日本サッカーの功労者に対する礼儀というものじゃないかな。

(構成/渡辺達也)