モノマネに司会、役者etc.と大活躍する声優界の第一人者・山寺宏一さん

あの国民的バラエティ番組のスピリットを引き継ぎ“友達の輪”を!とスタートした『語っていいとも!』

前回のさとう宗幸さんからご紹介いただいた第12回ゲストは、声優の山寺宏一さん。

モノマネに司会、役者etc.と大活躍する声優界の第一人者だが、前回は「イイ声って言われたこと、本当に1回もないです!」と意外すぎるお話も。超多忙な中、2時間にわたって、語り尽くしていただいた今回は…。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)

―ずっとモノマネをやりたいという思いは持たれて、大学では落研に。それで上京して俳優養成所に行かれて、声優は潰(つぶ)しがきかないと言われる中、表面的にはずっとトントン拍子のような…。生活ができねぇみたいな下積みとかは?

山寺 いや、下積みなんてないですよ。当然、月謝払わないといけないし、バイトしてましたけど。事務所にそのまま入って、さすがに最初の3年ぐらいはちょっとまだ食べるのにはあれだったんですけど、毎年のようにギャラがアップしていって。それこそトントン拍子で、全然なんにも。

―そう言えちゃうのもスゴいのでは(笑)。

山寺 そうですね。ただ、パチンコで全部なくすとかね、無駄遣いをいっぱいするんで親にまた送ってもらうとか勝手に苦労してたので(笑)。本当に食べ物もなくて、送ってもらった米と塩だけとか何回もありましたけど。バイトすれば、いくらでも稼げる時代ですし、すごくイイ鰻屋さんでバイトしてたので(笑)。

―じゃあ、意外と放蕩(とう)してたというか、遊びで散財してたわけですね。

山寺 ほぼパチンコですけどね。飲み屋にもそんなに使ってないと思うんですけど(笑)。その鰻屋さんの店長にいろいろ連れてってもらってました。

その人もすごい苦労してる人なんですけど、カワイがってくれて。バイト1号で歳も少ししか違わなかったんですよ。大丈夫、俺が出すからって、六本木や歌舞伎町、青山のフレンチとかいろいろ連れてってもらって。本当にその人は一番の恩人ですから、僕の中での。

―仕事の苦労はまだ知らず、青春を楽しんでる時期ですかね。

山寺 今と違って声優ってそれほど多くないんですよ、養成所も。だから、すぐチャンスあったんですよね、そのおかげだと思います。今デビューしたらわからないです。本当に危なかったなって。時期がよかったと。だからよく聞かれるんですけど、貧乏エピソードは山ほどあるけど、たいした苦労はしてないっていうのが正解ですね。

―それでも鼻が高くならずに常に謙虚でいられたのは、先ほどおっしゃったようにTVの場でもバラエティとかもっとすごい人がいるんだ、まだまだイケてないんだって思い知らされることが多かったからですか?

山寺 顔を出す仕事をするようになってからはそうですね。時々なってたとは思うんですけど。あと僕ね、後輩をカワイがるよりも先輩にカワイがられるほうが得意だったみたいで。本当は下もカワイがらなきゃいけないんですけど、すごいカワイがってくださる先輩がいて、よく飲みに連れてってもらいました。

―確かに年下の僕が失礼なんですけども、自分が先輩だったらすごくカワイがりそうです(笑)。

山寺 ありがとうございます(笑)。

「もうボロボロ泣いて、すみませんって…」

―なんかイイ立ち位置というか、おいしいキャラですね(笑)。

山寺 でもね、1回すごい忙しくて、当時のマネージャーが山寺のスケジュールを真っ黒にしたいって、アニメのレギュラー10本以上入れて埋まったんです。主役とか全然ないんですけど、よくて5番手とか脇の脇とかいろんな役がごちゃっとあった時に、もう本当に身体しんどくて。

声の調子もすぐ悪くして、他の仕事や舞台もやってるのに、なんでこんな役でウワーーとか叫ぶのばっかりやんなくちゃいけないんだって、現場入ってそういう態度とってたんですよ。

そしたら、この間、お亡くなりになったジャイアンのたてかべ(和也)さん、あの方は役者をやりながらマネージャーもやってて、他の事務所なのにデビューから可愛がってくれてたんですけど。僕のその態度見て「山寺、そう言うな、忙しくていいじゃないか、頑張れ」って。「じゃあ飲みに行こうよ、な、元気出せ」と。

―文字で伝えられないのが残念ですが、生でモノマネしていただいてます(笑)。

山寺 それで飲み屋行ったら、他の先輩方も飲んでて。そこでもそんな態度で飲んでたんですよ。そしたらひとり、ちょっと上のスゴい仲良い先輩が「てめえ、ふざけんな、この野郎! おめえだけが忙しいんじゃねんだ、なんだその態度!」って、初めてその人に、いつも優しいのに怒鳴られたんです。もうボロボロ泣いて、すみません、すみませんって。その人も後で覚えてないって言うんですけど(笑)。

―昭和な熱いやりとりが…。でも普段優しい、激さない人にやられるとズキッとしますね。

山寺 本当に業界で一番面白い人なんです。いやあ、効きますよ。だって思い当たるし、たぶん自分が一番売れてるみたいに調子に乗ってたんでしょうね。それは忘れないです。飯田橋の飲み屋で(笑)。

そしたらまた、たてかべさんが「あいつは、おまえのことを思って…」って言って、わかってます、わかってますって。それ以来、1回もなかったかはわからないですけど、こんなに忙しいのにって態度に出すのはね…。いつもやっぱりどんな時でも機嫌良くしてる人の方がカッコいいって思って、なるべくはそうしようと思った日でしたね。今でもマネージャーと家族にはものすごい愚痴ったりしますけど(笑)。

―そういうエピソードもあって自分の肥やしにしつつ実績を積み重ねられたんですね。ちなみに、僕的にはそれこそ子供の頃、夢中だった『宇宙戦艦ヤマト』なんか富山敬さんの古代進を受け継いで。しかもデスラー総統までやられたという。

山寺 あはは、節操がないっていうね(笑)。

―いや、そんな人、いませんっていうか、これからもないでしょうけど(笑)。

山寺 いいんですかね。僕もファンだったし、自分が客だったらふざけんなって思うかもしれませんけど。でも他の誰かがやるんだったら、大好きだった僕がやってもいいだろうって思って。なるべく違和感ないように頑張ったんですけど。

富山敬さんにも本当によく励ましていただいたりとか、大好きな先輩で。本当にあの方くらい穏やかな人はいないっていう、すっごい物腰の柔らかい優しい人なんですよ。芝居は確実で、本当に達者ですごい方を目の当たりにしましたね。

「本当に難しいんですよ、吹き替えは」

―ちなみに、これは嬉しい、この役きた!とか感激だったのは?

山寺 そういう引き継いだ役では、嬉しいのを通り越してプレッシャーがあって。銭形警部も子供の頃から『ルパン三世』を観てて、納谷悟郎さんとも共演させていただいたことがありますけど、あの方も本当に業界では神のような人で。みんな話しかけるのも怖いくらいすごい方で、嬉しいを通り越しちゃうんですよ。そんなの僕ができるわけがないと。

だからどっちかっていうと嬉しいのはジム・キャリーとかエディ・マーフィーのように、自分が映画で観ていてとか、こういうスターが今いますっていうので、特にそのふたりをやれた時っていうのは、おお、すごい!と思って。

ジム・キャリーなんか、いろんな声を使って巧みに変身してやるっていうのを、モノマネを得意としてる僕としては、発揮できる役に巡り会いたいと思ってたんで。それとロビン・ウィリアムス、特に『アラジン』のジーニーというのもありますね。キワモノが多いんですよ(笑)、他の人がやりそうもない。

―そこ全部やられてるって、本当にすごいですよ。で、ブラピの超美形も(笑)。

山寺 ああいう声の人は意外にできる人いっぱいいるんです。あとはどれだけブラピの芝居に近づけられるかっていう問題なんですけど。声質的にいえばね、貝山さんもイケますよ。渋いとこ、ジョージ・クルーニーとかもイケるんじゃないですか。

―恐縮です。勉強させていただきます(笑)。

山寺 でも本当に難しいんですよ、吹き替えは。アニメも難しいけど、洋画のその俳優さんのニュアンスを日本語で再現するなんて、元々無理なことをやってるから。

―だから意訳じゃないですけど、以前はね、自分の味にするっていうところで、広川太一郎さんとか個性的な吹き替えが評価されたりもしましたよね。

山寺 そうですね。少なくなりましたけどね、昔はそういう方がたくさんいて。でも本人達は「そんな変えてない、必要だから変えてるんだ」ってね。ちゃんとやる時はやるって、皆さん仰ってたみたいですけどね、広川さんにしろ。

―ああいうアレンジって、自分でやってるうちにこのキャラクターだったら合うんじゃないかとか、ふっと降りてきたりするんですかね?

山寺 いや、僕らの世代はあんまりそういうことはないので…字幕版と吹き替え版の整合性っていうのもあるし。それだけ実力があって、もうどんどん変えてくれていいよ、なんて言われるぐらいの声優だったらいいと思うんですけど。まず今はいないですしね。

僕もそんなこと言われるわけないし、自分でアドリブで変えるんだったら、翻訳の方とかディレクターが必死に考えて出してきた答えを超えられるならどうぞやってみなさいって話ですよね。そんな自信は滅多にないし、たまに、もうどんどんやっていいよって言われたらやりますけども。基本的に今は厳しいってこともあるけど、やっぱり昔みたいに力がまだそこまでじゃないんでしょうね。

「僕が全く同じにやっても面白くはない」

―山寺さんほどになっても、ジム・キャリーをもうちょっと遊んでやってみるかというのは躊躇(ためら)われる?

山寺 うーん、僕にそこまでの才能がっていうか…どっちかっていうと、いただいたものの中でどう表現するかの幅とかを持ってる自信はあるんですけど。きめ細かく似せていくとかね。でもアドリブでさらに面白くするっていうのはねぇ。

いろんな先輩いらっしゃいますけど、一番アドリブ王って言われてるのは、どう考えても広川さんだと思うんです。あの方はアドリブのように思えるセリフも実はものすごく考え抜かれていて、いくつもの候補を用意していたそうです。『モンティ・パイソン』もそうだったって聞くし…どっちが面白いんだっていう。周りの声優もそれをウケきるぐらいじゃないとね。

『いなかっぺ大将』の愛川欽也さんと野沢雅子さんもアドリブ合戦だったって伺いました。今はどうなんですかね、そこまでやれる人はいるのか、わかりませんけど。まず広川さんが言ったセリフを僕が全く同じにやっても全然面白くはないんですよね。

―芸風までは真似ても、アドリブは当人じゃないと…。

山寺 芸人もそうですよね。同じコント、漫才をやってもその場の雰囲気でハマれる時とハマれない時とね、場の空気と微妙な間なのか、それを観る人が必ず笑えるようにもってくって至難の業だと。すごいことだと僕は思いますけどね。

―そういうのを含めて、時代にも遊びがあったというか。今だったらそれこそ声優の学校で教わってとか型通りに真面目になりがちな。世代論もあるでしょうね。

山寺 そうですね、型にはめられたっていうのは、ずっと言われてるんでしょうけどね。それがこの業界にもあるのかどうかわかりませんけども。でもたぶん、それでイイ部分もあると思うんですよ。すごく緻密に脚本も作られてるんでわかりやすくなっていたり。口パクに合わせやすく、きめ細かい台本のおかげでイイこともたくさんね。

今の世代は、合わせるのは上手な声優が多いと思いますよ。良い悪いは別として、声優全体の分母も大きくなって、そこから絞られてキャスティングされてるから、そういう意味のレベルは上がってると思うし。個性的か、面白いかどうかっていうとまた別問題ですし、味があるかって言われると、同じような人が多いってのはあるかもしれないけど。それも別に声優が悪いんじゃなくて、使う側の問題ですよね。

「ネットの評判とかも見なきゃいいのにね」

―それを話し始めると声優論というか、いろんな話になってしまいますが…。ちょっと戻って、周りからの評価でこれは一番絶賛されたなっていうのは?

山寺 やっぱり『アラジン』のジーニーですかね。

―ほんとディズニー系はどれも評価高いようですね。ドナルドもものすごく向こうでも絶賛されたとか。

山寺 いや、一応そう言われてますけど。以前、ある方に「全然わかんなくてさぁ、あれ吹き替えする意味あるの、山ちゃん?」って言われてがっくりしたことあるんですよね(苦笑)。

昔、それ言われた時は僕だって知らなかったらしいんだけど、「すいません、それ私です」って。ドナルド始めたばっかりだったんで、今より下手だったんですけど「そんなこと言わないでください、頑張ってやってるんですから」って。「えー、ごめんね」って言われましたけど。今でも、わかんない、わかんないって(苦笑)。

―それは残念ですねぇ。僕はゲームの『キングダムハーツ』にハマってた時、かなりドナルドのマネしてました(笑)。あんな風に自分のものになっちゃたりすると、しめしめみたいな感じで嬉しいんじゃ?

山寺 でも結局、わかんないって言われるし(苦笑)。まあ、ジーニーぐらいは褒められるけど、あとは常に晒(さら)されるんですよ。ネットの評判とかも見なきゃいいのにね。

―見ちゃう系ですか(笑)。

山寺 みんなにおまえ見るなって言われて、人の評価をなるべく見ないようにしてるんですけど。どうしてもやっぱり気になるじゃないですか。絶対悪いこと書いてあるんですけど。でもすごく自信のある作品は見たくなるじゃないですか?

自分が落ち込んでる時とか評判見たいんですよね、褒めて欲しくて(笑)。で、見ると貶(けな)してあるんですよ。モノマネでMVP獲ったから、これ大絶賛かなって思って見ると、大したことねえのにとか書いてあったり、TV出るんじゃねーよ、おめえ、ってあって。打ちひしがれることがあるんでね(笑)。

だから、しめしめなんて思わないですよ! ちゃんと自分を戒(いまし)めてくれるものが常に存在してるんで。

―なるほどねえ。

山寺 でも本当はすごく褒めてほしいし、評価してほしくてしょうがないんですよ、本当に。もう褒められるの大好き! みんなそうですけど、人間誰しもそうですよね、褒めてほしくない人なんていないんですよ。

●この続きは次週、11月8日(日)12時に配信予定!

●山寺宏一(やまでらこういち)1961年6月17日生まれ、宮城県出身。声優、俳優、タレント、ナレーターとして活躍。大学卒業後、1984年に俳協養成所に入所。85年にSFロボッ トアニメ『メガゾーン23』で声優デビューを果たす。吹き替えでは数多の有名俳優の声を担当、「七色の声を持つ男」と呼ばれるほどで、日本で最もディズ ニーのキャラクターの声を演じていることでも有名。また、テレビ東京の朝の子供向け番組『おはスタ』のメイン司会者に1997年から抜擢され、今年で19 年目に突入。2000年には、山寺の吹き替えのファンだったという三谷幸喜に声をかけられ、俳優デビューを果たすなどマルチな活動で人気を誇る。現在は日本テレビで放送中のドラマ『エンジェル・ハート』にホーリー役で出演中。11月7~8日には、人気声優たちが舞台に立ち、無声映画のアテ レコを行なう『声優口演 Special』に出演!

(撮影/塔下智士)