海自が保有する艦艇は137隻。一方、中国海軍の艦艇は合計891隻と、数の上では多勢に無勢。ただし米軍も含めたネットワーク化は海自の大きな武器だ(撮影/世良光弘)

南シナ海の緊張が高まっている。中国が「領海」と主張する海域内に、米軍が艦隊を派遣したのだ。

米艦隊が派遣されたのは10月26日のこと。南シナ海に中国が造成した“人工島”から12海里内(つまり、中国が「領海」と主張している海域)に艦隊を派遣することで、中国の領有権主張に真っ向から挑戦、「ここは中国の『領海』ではなく、航行が自由な海域である」と示す狙いがある。

周辺諸国の反対を無視し、南沙諸島の岩礁を埋め立てて“人工島”を建設するなど、南シナ海における中国のプレゼンスは近年、とみに強大化している。もはや周辺諸国の軍事力だけでは、中国に対応できなくなってしまっているのが現状だ。軍事評論家の菊池征男氏が解説する。

「中国海軍は、南シナ海を含む台湾海峡の西南海域を担当する南海艦隊だけで駆逐艦9隻、フリゲート艦19隻、ミサイル艇8隻、潜水艦27隻を保有。さらに、いざとなれば東海艦隊・北海艦隊からも駆逐艦17隻、フリゲート艦28隻、ミサイル艇14隻、潜水艦40隻が増援に入ります。

それに対し、ベトナム、マレーシアなど南シナ海周辺諸国の海軍は、すべて合わせてもフリゲート艦32隻、潜水艦8隻のみ。つまり、有事の際には日米頼みというのが実情です」

もちろん、日本の海上自衛隊も中国海軍の物量には真正面から対抗できない。結局、今回のように米軍に頼るしかないのか…。

しかし、日米海軍が通信面で連携すれば、作戦の初動は海自だけで対応することも可能だ。

米海軍の「目」を共有できることが強み

その最大の理由は、海自艦隊の旗艦となるいずも型/ひゅうが型ヘリ搭載護衛艦(いわゆるヘリ空母)の存在。近年就役した最新鋭艦で、米軍の監視システム(衛星)ともリンクしたネットワーク通信を搭載しており、その作戦能力の高さは世界有数との声もあるほどだ。

ジャーナリストの古是三春(ふるぜみつはる)氏が指摘する。

「米中が激しく対立する南シナ海では、米軍がセンサーによる対潜警戒網を構築。すでに海南島の海軍基地に出入りする中国海軍艦艇は、潜水艦を含めて音紋データから固有名称をある程度割り出せるようです。

海自艦隊は、こうした情報面で米軍のサポートを受けることができる。単独で数ヵ月にわたる作戦を展開するのは無理としても、中国海軍の初動に対してはかなり対等に渡り合えると思います。そして、米艦隊が到着すれば、すぐに問題なく共同行動できる。米海軍と海自は多くの共同演習を実施しており、世界的に見ても最も深い練度の同盟関係といっていいでしょう」

世界最強の米海軍の「目」を共有できるネットワークが、海自の最大の強みであり、頼みの綱となるようだ。

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(取材・文/世良光弘&本誌軍事班)

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