モノマネに司会、役者etc.と大活躍する声優界の第一人者・山寺宏一さんだが、謙虚すぎる性格?

あの国民的バラエティ番組のスピリットを引き継ぎ“友達の輪”を!とスタートした『語っていいとも!』。

前回のさとう宗幸さんからご紹介いただいた第12回ゲストは、声優の山寺宏一さん。

モノマネに司会、役者etc.と大活躍する声優界の第一人者だが、前回までは「イイ声って言われたこと、本当に1回もないです!」「ネットの評判とか打ちひしがれることがあるんです」と意外すぎるお話が続々!

超多忙な中、2時間にわたって、語り尽くしていただいた第3弾は…。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)

―そんなネットの書き込みに打ちひしがれつつも、一番これやっぱりオイシかったなっていう役とかは…?

山寺 やっぱりジーニーなんていろんな世代の人がすごい昔から、見てましたよって。あんな前のをいまだに言ってくれて。日本で一番ディズニーはキャラクターやらせてもらってますし。世界的にもたぶん多いほうだと思うので。

いろんなアニメとか洋画やってるおかげで、外国人の方にも、あまり日本のこと知らない誰かの知り合いと会った時に「何やってる人?」って聞かれて、これとあれとこれって言うと「おおー!」って(笑)。世界共通のキャラクターというか、ハリウッドスターもみんな知ってるじゃないですか。

―確かに、やられてる名前がジム・キャリーにブラピに…相手からすれば「アンビリーバヴォ~!」です(笑)。

山寺 あと、もちろん小さいコだと『アンパンマン』ですね。「おはスタ」だって長くやってるから見てましたって言われますよね。モノマネ番組は意外と年配の方がみんな見ていて、70代ぐらいの人までね。タクシーの運転手さんに言われたりとか。

―どれがって問題ではなく、どれもなんですね。それで事あるごとにすぐ誰のマネしてとかリクエストされたり(笑)?

山寺 そうですね。本当はやっちゃいけないってことになってるんで、やってないんですけど(苦笑)。『アンパンマン』なんかはね、子供の夢壊しちゃいけないですし。

―でもプロとして迂闊(うかつ)にはなかなかできないでしょうね。

山寺 この間もね、意外と子供はビックリするらしくて、「アンパンマンのチーズだよ、やってもらいなよー」とか言われて、やったら子供が「うわーっ」て泣き出して。そのあと顔を合わせるたびに逃げるんですよ、僕にだけ! ま、東北で「おはスタ」やってない地域だったから…。でも、うちの地元の宮城だったんですよ? しょうがないなって(苦笑)。

―ちなみに、僕も先輩達と女のコの店に飲み行って遊んでた時は、ウソの声優の設定にされて「ちびま●る子ちゃんの花輪君の声やってんだよ、あいつは」とか使われてました(笑)。

山寺 お、できるんですか、花輪君。意外と信用されたってことですよね?

―いや、勝手に(苦笑)。お酒が入るとノリでね、周りもそう思えてしまうという…。

山寺 以前はね、番組の打ち上げとかで男だけになるとスタッフ達とたまにそういうとこ行くじゃないですか。まだ顔もそんな出てない頃で、他のみんなには「俺が声優で××やってるとか絶対言うなよ」って言って。ところが、しばらくしてぱっと見ると僕がひとりでやってるっていうんです。「あんなに散々やるな、絶対バラすなって言ってたのにやってるじゃないですか」って。いや、話もたなくてね、結局ウケるんですよ、それやると(笑)。実際、何回かありました。

「そんなの緊張しないわけない!」

―それはリアルにわかります(笑)。ところで、僕も仕事柄、こうやっていろんな方にインタビューさせていただいて。演じられたエディ・マーフィーやロビン・ウィリアムスもありますし、『週刊プレイボーイ』で初めてやったのが(アーノルド)シュワルツェネッガーなんです。おおっ、向こうからターミネーターが歩いてくるよって(笑)。

山寺 最初そうですか! シュワルツェネッガーはスゴい。もう誰も怖くないですね(笑)。

―いや、なんでシュワちゃんと一緒に喋ってるんだろう?って(笑)。役得感はありますが、もちろん毎回怖々で。こうしてインタビューのたびに緊張してるんですけど、でもやっぱり普通にはあり得ないことを体験している喜びは日々あるんじゃないかと。

山寺 それはもう僕も御陰さまで、特に声優に関してはね、先輩方とはどなたとも大抵はお仕事させてもらって。例えば、野沢雅子さんなんか、僕、『ど根性ガエル』大好きで、『いなかっぺ大将』も大好きでという。好きなアニメを言うと全部、野沢さんだったりしたんで。

デビューして意外とすぐレギュラーで一緒にやらせてもらって。で、「山はいいね」なんて、すぐ言っていただいて。今も「私の弟」とか言ってもらったり。姉っていうには余りにも大先輩過ぎますよって(笑)。

そう思ったらドラマとか映画の世界もちょこっと行かせてもらって、最初に三谷(幸喜)さんの作品で初めてイイ役をいただいた時、ファーストシーンが役所広司さんとのツーショットで友達の役だったんです。もうなんていうか、どうなるんだろう俺?って。あの日本を代表する役所さんとふたりだけのシーンっていう、いきなりそこですか!って。

―今思うと、何よりも緊張した瞬間ですか?

山寺 そうですねえ。でも開き直ったのかな、いきなり掛け合いなんかやるのも初めてだったんで、とりあえずいってみるしかない。自分のセリフはもう入ってるはずだ!と思って、すっごい緊張したんですけど、お芝居始めたら、役所さんがあまりにも自然過ぎて。本当に俺の友達じゃねえかっていう感じでね。ああ、ただ受けて、覚えたこと言えばいいんだって思ったんですよ。

―役所さんが活かしてくれるというか、その場を作ってくれて…。

山寺 だと思います。スゴく会話してて楽しくなっちゃって。あと、一番緊張したのは「おはスタ」をもうやってた頃で、他の番組の司会っていうのもいくつかやってたんですけど、そこに(ビート)たけしさんと所(ジョージ)さんの番組が新番組になるから入ってくれって言われて。『たけし・所のWA風がきた!』っていう、たけしさんチームと所さんチームに分かれて、いろんなメイドインジャパンのものを紹介していくっていう番組で。おふたりが回答者なんですよ。進行は僕ひとり。そんなの緊張しないわけないじゃないですか!

―両睨(にら)み的な(笑)。

山寺 他の回答者は毎回変わって著名人で、お客さんいっぱいで、もう胃が痛くなって真っ直ぐ立てなくなったっていう。終わるたびに友達に教えてもらった鍼灸師に通って…。あっという間に終わりましたけどね。番組変わるんでって言ってたんですけど、タイトルは一緒で、僕のポジションに浅草キッドさんが入ってました(笑)。

「だから僕は無理だって言ったんです!」

―それはだいぶ凹んだででしょうね~。

山寺 凹んだけど、解放されたっていうか、これ以上続けるのは無理だって。僕のせいじゃないと思うようにして(笑)。でもすごく嬉しかったんですけどね、たけしさん、所さんと一緒にお仕事できるのは。

―皆さん、目指す憧れでしょうね。それこそ『笑っていいとも!』もなくなって、出られないショックとか悔しさがある人も今いるはずですけど。やはりひとつのステータスとして山寺さんも出演経験がおありですよね。

山寺 そうですね。1回、2回…テレフォンショッキングには出させていただいて。山寺宏一って、自分で前に置くネームプレートを家にずーっと飾ってましたから。TVの前に(笑)。友達が来たら、すげーだろ、俺、出たんだぞっって(笑)。

―わざわざ記念に持ち帰って(笑)。

山寺 でも「いいとも」では辛い目にあったこともあるんです。そういうところで戒(いまし)めにあうんですよ、僕は。…あのですね、女装して奇跡の一枚を撮って、さあ、この写真は誰でしょうって当てるコーナーあったじゃないですか。あのオファーがきたんですよ。

で、ちょっと待ってくださいと。僕は声優好きと子供にはちょっと知られてるかもしれないけど、「いいとも」のレギュラーの方には知られてないから、それ誰ですかって言われても困るので嫌ですって。一度断ったんです。そしたらもう一度話がきて、心配しなくても大丈夫ですからどうしても!って。

タモリさんは他でもご一緒してて、『タモリ倶楽部』にも3回ぐらい出させていただいたことがあったんで。もう僕を認識くださってるはずだし大丈夫とかいってね。結局、すっごい時間かけて、奇跡の一枚撮ったわけですよ。で、本番ではもう、ヒントが最終的に「おはスタ」にも出てる山ちゃんまでいっても名前が出ないっていう…。もういいですよ!って表に出ましたから(笑)。

―それもある意味、伝説というか。逆にネタとしてはオイシいです(笑)。

山寺 みんな、知らないんじゃん! だから僕は無理だって言ったんです!って、生放送で言ってね。僕、そういう人をゲストで見るとイタいなって思ってたんですよ。たまにいるじゃないですか? だからあれはコーナーだけど、ゲストとしてひとりで番組背負うってなると出たくないんですよね。…かといって、たくさんひな壇にいて、俺が俺がって喋る番組も苦手なんですけど。バラエティは難しいです。

―やっぱり、そもそもがシャイで奥ゆかしい性格ということで(笑)。でもモノマネだとキャラを作って、また自分が解放されて前に出て行けるとこもあるんですかね?

山寺 そうですね。舞台はずっとやってて、芝居はもちろん、ライブハウスでコントやモノマネというのも昔はやってました。だから元々扮装したりも好きでね。自分じゃないものになる、何か自分がちょっと変わって見えるっていうのはやっぱり好きだったので。

だけど、TVで顔をさらすことに自信はなかったので、髪の毛と眼鏡にインパクトがあったほうがいいっていうのは周りにも言われてたし。自分でもそう思ってまして。だからモジャ眼鏡って言われましたけど、それが個性になってたかなって。

昔、「おはスタ」の子供からの電話で、山ちゃんのどこ好き?って聞いたら「うーん、髪の毛と眼鏡」って言われたこともありましたね(苦笑)。

「モノマネは辛いですよ、本当にもう…」

―すっかりそれで認知されましたもんね。逆に変えるのが恐いとかもあったんでは(笑)。

山寺 いやいや、そんなには気にしてないですよ(笑)。今はもう誰にもモジャ眼鏡とか言われないから、別に好きにして似合ってればいいっていう感じだし。

―いやしかし、声優での役柄同様、本当に仕事の幅も広すぎて。時間がいくらあっても伺いきれないという(苦笑)。モノマネの話ももっとお聞きしたいんですけど…。

山寺 モノマネは辛いですよ、本当にもう(苦笑)。まあでもね、あそこ出るだけでも大変だと思うんですよね。

―もちろんプレッシャーは相当でしょうけど、子供の頃から好きだったという原点の部分で楽しんでやられているのかと。

山寺 いやあ、苦しんでますね。もう笑っちゃうくらい緊張して大変ですよ(苦笑)。楽屋で吐きそうになってる芸人もいっぱいいますけど、僕が本当に一番落ち着きないんじゃないですかね。どんだけ練習しても自分の実力が出せないっていう。変な話ですけど、いつも思うのはオリンピック選手ってスゴいなって。ここ一番でもってるか、もってないかっていう。芸人もそうでしょうし。

スポーツって長い時間戦ってるのもあるけど、例えば体操の一発勝負で何かをパンッと決めなきゃいけないとか。そんな時に何年も積んできた最高レベルのものを出すなんていうのはね…。僕は本当にコントロールできずに、でも逆に本番だけすごくいいパフォーマンスできる時もあるんですよ。本番の緊張で、出なかった声が出ることもあって。緊張感もいい風に使えばいいんだなって。

―1回でもスゴいとちりをしたら、今までのキャリアがパーになるんじゃないかという恐怖感も?

山寺 実際ありましたよ、「ものまねバトル」で。自分で考え抜いてアカペラで全部やるって、演奏もボーカルも一度にやって。で、知り合いに習ってずっと特訓して。でもそんなこと誰もやったことないんですよ。その先生ですら本当に大変だったものにチャレンジしたら、やっぱり本番の緊張でベース音が全然出なくなっちゃったんです。

低い音とか得意なはずなんですけど、人間、緊張すると高い声は出るけど、低い声は安定しないらしくて。もう何もできなくて。あの番組はやり直しがダメで基本的に収録は一発勝負なんですけど、進まないから、だんだんお客さんも可哀想になってきて、俺のことを。

そしたら研ナオコさんとヒロミさんが司会で、ふたりですごい励ましてくれて。研さんが俺を抱きしめて「山ちゃん、練習だと思って何回でも何時間かかってもいいから全然気にしないでやりな」って。それでなんとか最後までできたんですけど、出来は酷(ひど)かったですよ。もう終わったなと思いましたね。

―それはもう絶望的な気持ちに…。

山寺 もう呼ばれないと思ったし。みんなに迷惑かけて、こんなできもしないネタを持ってきてって思われただろうなって。その場で自分だけ辞退ってわけにもいかなかったし、やってしまったなと。こんな酷い人、今まで収録で見たことがなかったんで。いやあ、自分でハードル上げ過ぎたなって思いましたね。

「自分は努力が足んねーのかなって」

―そのレベルに比べようもないですが、締切で原稿が書けない、次の文章が出てこないって頭が真っ白になり…どんどん時間だけ経ってワケわかんなくパニくった経験はあります。

山寺 パニクりますよね。だから研ナオコさんのおかげだと思いますけど、その時は。最後開き直って、なんとか…。だから(その映像は)自分で1回も見てないですね、怖くて。そんなものをオンエアーで全国放送してしまった!って、見れない。いつもは終わって友人から「あれよかったね」「最高だったよ!」ってメールとかくるんですけど、そのネタについては誰もその後、1通もこなかったし(笑)。

―それこそ毎回毎回、求められるパフォーマンス以上のものを見せなきゃっていう、過酷な世界だなと。次から次へと新しい若手も追い上げてくるでしょうし。それもアスリートに通じるというか。

山寺 でも僕ね、周りは別にどうでもいいんですよ。自分が練習した通りできるかどうかだけで。もっと上手い人いるとか、対戦相手で緊張するとかはないんです。その人がよければ勝つのは当たり前だし、負けても全然ね。そりゃ多少は悔しいですけども、自分がちゃんとしたことができない、せっかく枠をもらって期待してもらってるのに練習したのが出せないっていう、心臓の弱さが悔しくて。

―なるほど。芸人さんでも、自分のポジションに若手が台頭して居場所がなくなるとか、そこで不安感を抱える人も少なくないでしょうけど。

山寺 それはね、声優の世界ではもちろんありますけど。やっぱり自分よりイイ人が出たら、その人が選ばれるのは当たり前ですから。もう本当に実力の世界だと思ってるんで。だからアスリートもスゴいと思うんですよ。

僕にとってはたかがじゃないんですけど、たかが1回の番組でここまで緊張してるってことは、あの人達はどんなプレッシャーの中、本当に血のにじむような練習をして本番に臨んでるんだろうって。自分は努力が足んねーのかなって思ってますけどね。

●この続きは次週、11月15日(日)12時に配信予定!

●山寺宏一(やまでらこういち)1961 年6月17日生まれ、宮城県出身。声優、俳優、タレント、ナレーターとして活躍。大学卒業後、1984年に俳協養成所に入所。85年にSFロボッ トアニメ『メガゾーン23』で声優デビューを果たす。吹き替えでは数多の有名俳優の声を担当、「七色の声を持つ男」と呼ばれるほどで、日本で最もディズ ニーのキャラクターの声を演じていることでも有名。また、テレビ東京の朝の子供向け番組『おはスタ』のメイン司会者に1997年から抜擢され、今年で19 年目に突入。2000年には、山寺の吹き替えのファンだったという三谷幸喜に声をかけられ、俳優デビューを果たすなどマルチな活動で人気を誇る。現在は日本テレビで放送中のドラマ『エンジェル・ハート』にホーリー役で出演中

(撮影/塔下智士)