今年で44回目の開催となった東京モーターショーには、たくさんのファンが駆けつけた

今年で44回目となる東京モーターショー(以下、東モ)が11月8日まで開催された。

実際の市販車の世界初公開はほとんどなかったものの、入場者数は80万人台をキープ。一般公開に先立つ10月28日のプレスデー(報道関係専用日)での第一印象は決して良くはなかった。明らかに「海外メディアが激減している!」のだ。

これはリーマン・ショック後から表れていた兆候だが、ビッグサイト開催となって一般入場者数は回復しても、海外メディアの減少にさらに拍車がかかっている。アジア系メディアは増えているものの、それ以上に欧米メディアの減りっぷりがすごいのだ。

かつて東モは、アジア最大にして世界の5大モーターショーのひとつだった。欧米メーカーでも主力新型車の世界初公開の場として東モを選ぶことも少なくなかった。

しかし、今やアジア自動車市場の主役は完全に中国に奪われてしまった。昨年の中国新車販売数は2300万台以上。これは世界一であると同時に日本の4倍以上! しかも、現在は北京と上海でそれぞれ隔年(つまり、中国では毎年)でモーターショーが開催されているのも大きい。

実際、ドイツ車メーカーやプジョー、フォードやゼネラルモーターズ(GM)も重要な国際戦略を中国のモーターショーで発表するのが最近の恒例。

一方の東モは、そもそもGMやフォードといった米国メーカーは今や出展すらしておらず、海外の主要メーカーで今回、「世界初公開車」を持ち込んだのはメルセデスとBMW、ポルシェの3社だけ。そのうち市販車はBMWとポルシェのみ。言っちゃ悪いが、どちらも所詮、派生商品でしかない。

だが、東モを主要ニューモデルの世界初公開の場に選ばなくなったのは、何も海外メーカーだけではない。

今回の東モで市販車の最注目は、間違いなくトヨタの新型プリウスだろう。しかし、新型プリウスが世界初公開されたのは今年9月の米ラスベガス。その後に独フランクフルトショーでも公開されており、東モは世界で3番目となる。国内初公開となったホンダの新型NSXやシビック タイプRも、お披露目そのものはすでに米国と欧州で済ませているのだ。

「違いのわかる」マニアックな市場

確かに、コンセプトカーは多数公開された。特にスポーツカーは、「ロータリー復活!」を宣言するマツダRXビジョンに「86の弟分?」のトヨタS-FRが登場。また、あのヤマハも悲願の自社製スポーツカーコンセプトで花を添えた。しかし、いずれも具体的な発売計画が公表されているわけではない。

会場でひときわ注目を集めていたマツダ「RXビジョン」。ロータリー復活を宣言するスポーツコンセプト

つまり、今回の東モで世界初公開となったのは、ほとんど荒唐無稽(失礼!)なコンセプトカー(と日本専用のマイナーチェンジや追加モデル)だけ…というのが現実なのである。世界初公開の新型車は、せいぜいスズキ・イグニス(ただし、正確には参考出品)くらいか。

もっとも、日本の自動車メーカーそのものは、昨今の円安もあって、どこも業績絶好調だ。トヨタは例のフォルクスワーゲン(VW)ディーゼル不正問題もあって、今年も世界一になるのはほぼ確定。そのほかの日本メーカーも、ここ数年は過去最高益を連発している。

なのに、そのお膝元の東モは、もはやガラパゴス・モーターショーと化している。これでは海外メディアから「東モなんて、わざわざ取材に出向く価値なし!」と思われてしまうのも当然である。

だが、だからこそ、今の東モは面白い…ともいえる。日本メーカーは世界的に「まじめ」で通っている(?)が、実はその一方で、86/BRZ、フェアレディZ、GT-R、ロードスター、S660、コペン、レクサスRC、スバルWRX…と、世界でまれに見るスポーツカー天国でもある。今やスポーツカーは日本のお家芸なのだ。

日本の新車市場は縮小しているが、少量生産スポーツカーや超高性能車の販売台数では世界トップ5に入る消費国でもある。

つまり、日本は「違いのわかる」マニアックな市場であり、そう考えると、今回の東モで数少ない世界初公開物件がBMWのスポーツモデル、M4(の限定車)というのも納得できる。

コンセプトカーだろうがなんだろうが、これだけ面白いスポーツカーが大量に一挙公開されるモーターショーは世界で東モだけ。クルマオタクから見たら、こんなに面白いモーターショーはない。世界の目が届かない地元で、日本メーカーがドンチャン騒ぎしている…というのが、今の東モの本質なのだ。

(取材・文/佐野弘宗 撮影/岡倉禎志)