大阪府知事、市長のダブル選挙が国政を動かすという古賀氏

安保法制以来、打倒安倍の動きが活発化している野党。一方、大阪では維新の会の分裂騒動が勃発。

内輪もめと見られるこの“維新バトル”だが、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、国政に大きな影響が出ると指摘する。

***維新の党を離党した橋下徹大阪市長らの新党「おおさか維新の会」と、松野頼久(よりひさ)代表ら維新の党執行部の間で激しいバトルが続いている。

当初、マスコミは10月20日に交付された政党助成金(第3回分。6億6619万円)の「分捕り合戦」などと面白おかしく報道していた。

確かに、橋下市長派のいわゆる「大阪系議員」たちの関心が、この助成金の分割にあることは明らかだ。しかし、維新の党執行部がその前提になる分党を拒否し、大阪系議員らを除籍処分にすると、除籍された大阪系議員は維新の党本部に保管していた口座の通帳、印鑑を不法占有する挙に出た。

維新の党本部は大阪市内にあり、おおさか維新が掌握している。そのため、松木謙公(けんこう)衆院議員らが通帳と印鑑を取り戻そうと党本部に駆けつけたが、大阪派に阻まれてしまった。

この助成金について、橋下市長は維新の党を解党した上で国庫に返上するとぶち上げた。そして除籍された大阪系議員たちは、法的根拠がまったくない「党大会」を勝手に開催して維新の党の「解党」を決定するという驚くべき行動に出た。

その後は互いに刑事告訴も辞さないと脅し合い、完全な泥仕合となっている。橋下市長の過激な言動もあり、外野で眺める分には面白いかもしれない。だが、この争いを単なる弱小野党の内輪もめと見るのは間違いである。

維新の党vs.おおさか維新に国政も注目するワケ

なぜなら、11月22日に予定されている大阪府知事、市長のW選挙によって決まる、維新の党とおおさか維新の“力関係”が今後の国政に大きな影響を与えるからだ。

憲法改正や安全保障政策などで橋下市長と安倍首相の考えは近い。当然、安倍政権は橋下新党がW選に勝利し、党勢を拡大することを望んでいる。新党がW選を制し、その後の参院選でも一定の当選者を出せば、憲法改正に前向きな次世代の党などとともに3分の2以上の勢力をつくり、憲法改正の発議をすることも可能になる。

共産党が提唱している国民連合政府のアイデアや野党再編の動きも牽制(けんせい)することができる。W選勝利で橋下新党が勢いづけば、維新の松野代表や江田元代表、民主党内で野党再編に意欲を見せる岡田代表らの存在感は小さくなる一方で、安倍首相や橋下市長の考えと近い前原、細野といった政治家の発言力が強まるはずだ。

そうなれば、維新・民主の野党再編話や共産党を含めた連合政府構想は一気に萎(しぼ)むことだろう。その意味することは、今の安倍一強の政治状況が維持されるということだ。

逆に橋下新党がW選で敗北すれば、維新の党のパワーが増し、民主党内を中心に維新と協力して反安倍の受け皿となる新しい野党勢力を再編しようという動きに弾みがつく。

共産党との連携も、これに反対する前原・細野氏らの力が弱まって実現の方向に近づく。大阪のW選の結果は、安倍一強が続く国政に大きな変化をもたらし得るのだ。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)