UFC女子バンタム級王者のロンダ・ラウジー。ハリウッド映画進出などジャンルを超えたスーパーウーマンに!(c)Zuffa,LLC

年末、フジテレビで放映される「RIZIN」でエメリヤーエンコ・ヒョードルが復活し、TBSの特番では魔裟斗が一夜限りの復帰をして山本“KID”徳郁と再戦するなど、にわかに格闘技が再び注目を集めているが、世界ではUFCがとどまるところを知らぬ大人気を誇っている。

そんなUFCの一番人気は、女子バンタム級王者の「ロンダ様」ことロンダ・ラウジーだ。柔道・北京五輪銅メダリストで、総合格闘技は12戦無敗の全試合完全決着勝利。“絶対王者”の名をほしいままにしている。

ロンダは11月15日にメルボルンで開催される「UFC193」で元ボクシング世界王者のホーリー・ホルムを相手に7度目の防衛戦を行なうが、“オージーボール”(オーストラリアンフットボール)の本拠地エティハド・スタジアムで行なわれるこの大会は、ロンダ人気で前売券は即完売! 7万人超の入場が予想され、UFC史上最多観客動員記録を打ち立てることが確実視されている。

「ロンダは今、総合格闘技の枠を超えた活躍をしています。その人気の凄さは、もはや社会現象と言っていい状況です」

こう語るのは、全米ボクシング記者協会の最優秀写真賞を4度受賞した“世界最高のボクシングカメラマン”福田直樹氏だ。ラスベガス在住の福田氏はボクシングだけでなくUFCの写真も撮り続けている。

「ロンダはハリウッド映画でも活躍していますし、TVのトーク番組にもしばしばゲスト出演しています。ファッション誌などでも表紙を飾ったと思えば、今度はなんと『リング』誌の表紙まで飾りますからね」(福田氏)

『リング』誌は93年の歴史を持つボクシング専門誌だが、2016年1月号の表紙がロンダなのである。ボクサーでなく総合格闘家が表紙を飾るのは史上初。ボクシングファンの間では賛否両論あるが、同誌のオーナーで6階級制覇を成し遂げたレジェンドボクサーでもあるオスカー・デ・ラ・ホーヤは「ロンダの表紙で『リング』誌はかつてないほど話題の的になってるんだ。大成功さ!」と顔をほころばせる。

さらに、デ・ラ・ホーヤは現在、ゴールデンボーイプロモーションズの代表として活躍しているが、「ロンダがボクシングの試合をする気になったら大歓迎するよ。ゴールデンボーイプロモーションズにぜひプロモートさせてほしい!」とラブコールを送っている。

「ロンダ人気の凄さというのは会場で撮影していても感じます」と前出の福田氏。現時点での最多動員(5万5724人)を記録した「UFC129」(2011年、カナダ)も撮影しており、「5万5724人の大歓声というのは物凄すぎて鳥肌が立つほどでした。でも、今度のメルボルン大会はそれを上回る7万人超だから、あの時以上の凄さになるでしょう。もう今後、これを超える大会は二度とないんじゃないですかね」

メイウェザーを負かし、タイソンも驚嘆

ロンダは気の強さも人気の理由で、先日引退したボクシング界のスーパースター、フロイド・メイウェザーとのツイッター上などでの舌戦も話題を呼んだ。メイウェザーは以前から「目の上のタンコブ」である総合格闘技の悪口を言い続けており、ロンダについても「ロンダなんて聞いたこともないね」と公言していた。これに対しロンダは「私の1秒あたりのギャラはメイウェザーより上よ!」とバッサリ。判定勝利の多いメイウェザーを皮肉ってみせた。

というのも、ロンダは“秒殺の女王”。得意の腕ひしぎ十字固めで、ほとんどの試合を1分以内で終わらせている。今年2月、「UFC184」のキャット・ジンガーノ戦では、わずか14秒で一本勝ち。ロンダの1試合のファイトマネーはPPV(ペイ・パー・ビュー)ボーナスを含み100万ドル(約1億2千万円)超と推測されているので、ジンガーノ戦の「秒給」を計算すると、なんと857万円だ!

ロンダの前回の試合は、8月の「UFC190」(vsベチ・コヘイア)で、米国でのPPV契約件数は90万件だった。9月のメイウェザー引退試合は50万件前後だったから、ロンダはPPV契約件数でもメイウェザーのラストマッチを大きく凌駕(りょうが)したことになる。

また、人気スポーツチャンネルESPNが07年から始めた「ESPY年間ベストファイター賞」は、メイウェザーが07年、08年、10年、12年~14年に受賞し、マニー・パッキャオが09年、11年に受賞したが、今年はロンダが女性ファイターとして初受賞。メイウェザーが今年、パッキャオとの“世紀の一戦”を制したにもかかわらず、である。

ロンダの強さは、あのマイク・タイソンをもうならせた。ベチ・コヘイア戦前にタイソンがロンダの所属するジムを訪れた時のこと。コーチの持つミットにパンチとヒザ蹴りを叩き込むロンダのコンビネーションを見たタイソンは「ワーオ!」とため息をつき、目を丸くして驚嘆。そしてベチをわずか34秒、右ストレートでKOした試合後には「全盛期の俺の試合みたいだ!」とツイートし絶賛した。かつて“人類最強”と呼ばれたボクシング・ヘビー級統一王者にも認められたのだ。

さらにロンダは格闘界だけでなく、ハリウッド映画でも大活躍している。昨年公開の『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』ではシルベスター・スタローン、アーノルド・シュワルツェネッガー、ドルフ・ラングレン、ハリソン・フォード、アントニオ・バンデラス、ジェット・リーらと共演し、「接近戦を得意とする女戦士ルナ」役でド派手なアクションを披露。

また、今年4月に公開され興行収入1位になったカー・アクション映画『ワイルドスピード SKY MISSION』にも出演。この9月には、かつてパトリック・スウェイジが主演してヒットした名作『ロードハウス 孤独の街』のリメイク版をロンダ主演で制作されることが発表された。

“世界のTK”が解説するロンダの強さ

北京五輪でメダルを取った強烈な投げから、得意の腕ひしぎで秒殺の山を築いている(c)Naoki Fukuda/WOWOW

そんなロンダの強さを、プロの総合格闘家はどう分析するか?

「柔道をうまく活かしつつ、総合格闘技での戦いに結びつけているところが素晴らしいですね」

こう語るのは、WOWOWのUFC中継で筆者とともに解説を務めている高阪剛氏だ。元パンクラス・スーパーヘビー級王者でUFC、PRIDE、リングスなどで活躍し、現在は自身のジムALLIANCE-SQUAREで弟子たちを指導するかたわら、ラグビー日本代表チームのスポットコーチを務め低空タックルを伝授。日本代表の大躍進に貢献した。年末のRIZINでは現役復帰戦も決まっている。

「ロンダはよく払い腰などで相手を投げますが、柔道の投げそのままだと回転しすぎて、投げた後に相手に上を取られるなど不利なポジションになってしまうことがある。でも、投げ終わった後のことまでロンダは常に意識していて、投げてすぐポジションをキープしていくんです。柔道にしろ、レスリングにしろ、ひとつの競技を長くやっていると、総合にきても自分のルーツの競技に特化した才能だけで勝負してしまう選手が多いんですが、ロンダにはそれがない。柔道で五輪銅メダルという世界の頂点に近いところまでいったにもかかわらず、です」

パンチなど打撃面についてはこう評価する。

「柔道家は下半身が重く、どうしても重心を低く構えるんですが、それだとパンチを打つ際、体重を拳に乗せるのが難しい。でもロンダはうまくできています。それと、自分もそうでしたが、柔道家は顔面を殴ることに抵抗があって、どうしても躊躇(ちゅうちょ)してしまいがち。でも、ロンダには全くそれが見られない。まあ、性格的なものもあるのかもしれませんけどね(笑)」

今回の対戦相手、ホーリー・ホルムは元ボクシング世界王者だ。ボクシングで38戦も経験したベテランで、3階級を制覇し合計18度も防衛を果たした。アマチュア・キック王者でもあり、総合格闘技では9戦全勝6KO。パンチだけでなく蹴りも強烈で、ハイやミドル、ローキックでのKOもある。

リーチもロンダより長いので、ここのところ打撃が向上して自信をつけているロンダが打ち合いにいけば、逆にKOされかねない。いつも通りパンチを出しつつ距離を詰め、得意の投げで寝技に持ち込めばロンダ勝利の可能性は高いが、絶対女王ロンダといえども、ホーリーを甘く見たらとんでもない目に遭う。

いずれにせよ、UFC史上最大イベントのメインを飾る最強女子対決は、開始1秒から一瞬も目を離せない戦いになりそうだ。

断言しよう――。メイウェザーvsパッキャオより、はるかに面白い試合になることは間違いない!

★「UFC193」はWOWOWにて11月15日(日)午後0:00より生中継予定

(取材・文/稲垣 收)