旗上げ10周年の“センダイガールズプロレスリング”では代表を務める“女子プロレスの横綱”里村明衣子

今年、話題となった女子プロレス興行での“顔面ガチボッコ”事件――。

各方面に反響を呼び、週プレNEWSでも配信(『女子プロレス、顔面ガチボッコの惨劇が業界に波紋!』)したが、これをきっかけに昨今の女子プロ界では『プロ意識』が問題となり、盛んに語られるようになった。

小団体が乱立しフリーの選手も増える中、現役選手として“女子プロ界の横綱”と名高い里村明衣子は地方都市・仙台を拠点に新人をイチから育成し団体を見事に運営している。しかしその歩みは順風満帆ではなかった…!

―来年で旗揚げ10周年を迎えるセンダイガールズプロレスリングですが、一昨年、選手がふたりだけになったと…。

里村 はい。ケガと離脱とが重なった時期があって。実は震災の時もスタッフがゼロに、選手も半分ぐらいになって、一度、団体としてやっていけるかという決断を迫られたことがありました。その時は前社長の新崎人生から代表を引き継ぐ時期だったので、一旦覚悟は決めたんですけど、またその2年後に…。

でも、もう1回やれるかと考えた時、まだ自分はイチからやる気力がある! とりあえず40歳までは賭けてみようって(笑)。

―社長を務めていますが、運営面も自分で手がけているのですか?

里村 はい、全部やってます。イベントを取ってきたりという営業面から経理まで。

―そもそも、なぜ仙台を選んだのですか?

里村 元々、私が選んだ場所ではなくて、元社長の新崎人生(みちのくプロレス)さんが、仙台はこれからプロスポーツが発展すると目をつけて。当時はまだ楽天イーグルスがそこまで浸透していない時期。バスケットボールとサッカーもできたばかりで。この10年でだいぶプロスポーツが定着してきました。

―先見の明だったわけですね。目論見通り発展してきた?

里村 もう、みるみるうちに! 私が移住してから仙台の街並みも本当に変わりました。発展した部分もありますし、2011年の震災でだいぶ変わった状況も見ましたし…すごく変化のある10年でした。今、楽天の球場は平日でも2万人集めるんですよ。もうすごいですよ。この人達をどうやってプロレスに引っ張ってこようかと(笑)。

―首都圏ではなく地方でやる意味はどこに?

里村 地方だから東京より戦力が落ちるとは思いたくないんですね。やっぱりうちが一番、実力も集客も常に先を行っていたいというのがあって。地方発信だからこそ「仙台の女子プロはすごいよね」となるように。自分が発信しているところが一番でありたいので。

目標は日本武道館!

―里村明衣子ここにあり、と! そして「2020年には日本武道館で女子プロレス」というレベルの違う目標も立てていますね。そのために女子プロレスも改革しなくては、と。

里村 そうですね。

―でも以前、ブログで世IV虎の顔面ガチボッコ事件に触れ、新人育成の難しさを語っておられましたが、この時代、あまり厳しくすると辞めちゃうんじゃないですか?

里村 そんな人はいらないです(キッパリ)。「厳しい」といっても、そんなに厳しくないですよ? 一般の人からするとプロレスって厳しいってイメージがあると思いますけど…。

―辛くて「逃げる」とよく聞きます。

里村 いや、一般社会の方がよっぽど厳しいよって思いますね。

―へえー! ご自身の苦しかった経験はないんでしょうか?

里村 「付き人」として任されたことが多すぎて自分の自由時間がないとか、試合が多くて体がキツいとか…。でもそんなものはもう全然キツい中には入らなくて! 私が今この団体をやって直面したのは、やっぱり経営面ですね。

―「今月も無事にお給料が振り込めた!」とツイッターで書かれていましたね。

里村 経営面や営業戦略を考えるようになると、試合と練習だけしていた頃はすごく楽だったなと思います(笑)。「プロレスラー」という自分の好きなことを選んでいるのに、試合がキツいとか対戦カードが嫌だとかそういうワガママで辞めていくヤツはもう…「すぐ辞めろ!」って思いますね!(笑)

―経営者としては「お前は使えねえ」と(笑)。

里村 アハハ! なりますね(笑)。

―実際、練習はどれぐらいしてるんですか?

里村 若手は朝10時から6時間ぐらいでしょうか。

―アルバイトなどは?

里村 させてないです! 一度、バイトしたいと言われてさせたんですよ。もう、全然ダメですね! まとまらないですし、ホントに団体が乱れますね。それに「バイトしたほうが儲かる」って言うので、じゃあしなさいとさせたんですけど、「やっぱり稼げませんでした~」って戻ってきました(笑)。アルバイト経験もない中卒や高校中退のコが軽率な発言をした時は一旦、外に出すことも必要かなと思います。

来年もボディビルは出ますよ

編集部の廊下に貼ってある伝説の「猪木VSアリ」DVDマガジンのポスターを見て興奮!

―お給料をきちんと出して、練習に専念できる環境を作っていると。新しく入門したいというコはどんどんきてますか?

里村 それがですね…ちょうど今、入ってくるコがいなくて。候補のコが3人ぐらいいるんですけど、まだ中学生、高校2年生だったり、しかも大学卒業まで待ってくださいとかで。あと何年だ…と(笑)。今年デビューした岩田美香、カサンドラ宮城、橋本千紘は2年とか7年待った選手で。

―名門・日大レスリング部から初の女子プロレスラーとなった橋本千紘、“仙女初の美人レスラー”岩田美香、デーモン閣下も真っ青なメイクで存在感のあるカサンドラ宮城…と。

里村 この3人はレスラーとしてすごく有望ですよ。岩田は高校1年生の時から目をつけて。博多で試合をやった時に「プロレスラーになりたいコがいる」と聞いて、それからちょくちょく連絡して2年がかりでようやく入門してくれたんですよ。

―そこまでひとりずつ目をかけてスカウトしているとは! ただ待つだけではダメなんですね。

里村 そうなんですよ~、もう入団まで目をかけないと(笑)。カサンドラ宮城も当時短大1年生だったんですけど、卒業まで1年半待ってやっと入ってくれた。すごい才能ありますよ、あの選手は。不器用なところもあるんですけど、たぶん相当化けますね。

―仙女のLINEスタンプのイラストもカサンドラ選手ですし、いろんな面で自己表現が長けていますよね。

里村 デビュー時から最大限の自己表現を自分でさせるよう教育しています。この3人を見ていると、まだこの日本の世の中に眠ってる人材があると思えて。その眠っている人材を見つけ出して、もっと女子プロレスラーとして開花させたいですね。

―里村さん自身もボディビルなど新しい挑戦もされています。

里村 ずっとやりたかったんですよ! それで「今年しかない!」と思って。来年もまた出ます。

―これまでに2、3度、大きなケガで長期欠場されていますが、引退は考えましたか?

里村 いえ、「ケガ=引退」にはしたくなかったので。今まで何度もケガして引退した先輩を見てきましたけど、もし自分が引退するとしたら「もうプロレス人生を全うした!」としたいんです。たとえば眼窩底骨折した時には、しばらくすべてが二重に見えて、試合はおろか車の運転もできなかった時期もあって。

―その時は3回も手術を重ねてますよね…それでも復帰の意思が?

里村 絶対に戻ってくると思ってました。いや、ホントに体の不思議といいますか、あれだけムリかと思ったのに、もう普通に戻っているんです。椎間板ヘルニアも4ヵ所手術して、背中に10センチ以上メスの跡もあるんですけど、それでも100kg以上の選手を持ち上げられるので。

切手になった初のレスラー!

―そこまでトレーニングで復活できるんですか!?

里村 自分でもなんだろうと思いますね…。何年か前に「もうコレは何かのチカラが働いているんじゃないか」と思ってスピリチュアル系の本をわーっと読んで…とアブナイほうにも1回行きましたけど(笑)。結局、自分の気持ち次第なんだと。

―プロレスを全うするべく生かされてる、という感覚も?

里村 ああ、それはあります! ただ、なんでこんなに長くかかってしまったんだろうと(笑)。

―いや、でも切手になったレスラーって男女ともに初ですよ!(※選手生活20周年を記念して日本郵便(株)東北支社から発売)これはどういう経緯で?

里村 日本郵便さんがうちのスポンサーさんなんですけど、局長からお話をいただいて。

―テーマ曲集もメジャーレーベルから発売されましたね。

里村 それもいいご縁があってお話をいただいて。あと、仙台では夕方のニュースで楽天イーグルスの結果の次にセンダイガールズの結果が流れます。

―プロ野球チームと肩を並べてとは! そこまで地元に定着したんですね。観客も当然増えてますか?

里村 ここ2年間で3倍ぐらいに増えました。ちょっと前までは男性が多かったんですけど、今はもう家族連れや女の人も増えて。女性が増えるとすごく嬉しいですね! やっぱり会場が華やかになりますし。

―10年間の積み重ねが花開きつつあるんですね。

里村 ホント、仙台には東京にはないものがあって。実際、自分が一番最初に選んだ場所ではなく「導かれた」場所だったので。本当にたくさんの人たちの協力がなければ広まらなかったんです。優良企業のスポンサーさんもすごくサポートしてくださって、TV局もバックアップ態勢ができてるんですけど、これにあとは「中身」なんですよね!

選手がもっと増えて、「女子プロレスって面白いじゃん」と言ってくれる皆さんがもっともっと増えてきたら、これを勢いにして仙台から発信していきたいです。この態勢は仙台で10年間かけて作ってきたものなので、私はもう仙台を出ずに、仙台で作り上げていく覚悟はできてます!

―まずは今月15日、奪ったスターダムのベルトをかけた岩谷麻優戦が後楽園ホールでありますが…。その着実な歩みを見ていると、本当に2020年には日本武道館で女子プロレスが見られそうな気がしてきました!

(取材・文・撮影/明知真理子)

視線の先にさらなる夢を見据える里村選手

●里村明衣子(さとむら・めいこ)1979年11月17日生まれ 新潟県出身女子プロ界初の地方団体『センダイガールズプロレスリング』代表。3歳より柔道を始め、中学時代に女子柔道部を設立し県大会で優勝。1995年、女子プロレス史上最年少の15歳でデビューし、いまや“女子プロレス界の横綱”と言われるまでに。選手生活も20年を越え、女子プロレス界を牽引する存在

センダイガールズプロレスリング/里村明衣子出場予定11月12日(木)東京・後楽園ホール 18:30~11月15日(日)東京・後楽園ホール 12:00~(スターダム)11月15日(日)東京・両国国技館 15:00~(天龍源一郎引退最終興行)11月20日(金)宮城・仙台市宮城野区文化センター 19:00~11月23日(祝)福岡・博多スターレーン 13:00~12月7日(月)大阪・港区民センター 18:30~最新情報は公式サイトにて。 http://www.sendaigirls.jp