辺野古の新基地建設を現場に座り込んで阻止しようとする沖縄県民たち

警視庁の機動隊が沖縄に派遣され、辺野古(へのこ)の新基地建設反対の現場では一気に衝突が激しくなってきた。

それだけではない。10月中から安倍政権の沖縄に対する態度は横暴さを増し、理不尽な手法が次から次へと繰り出されている。 

報道を見る限りでは、このまま強引に工事が始まりそうな勢いだが、実はこの一連の動きは安倍政権の焦りの表れなのだ。何が今、辺野古で起きているのか?

***

11月4日、警視庁機動隊が投入され、辺野古ゲート前は一気に緊張が高まった。

この原稿を書いている朝も、座り込みによる非暴力抗議を続ける県民を、警視庁機動隊員が強制排除している。

これは沖縄県民が選挙で示してきた「辺野古新基地建設反対」の民意に対する重大な挑戦であり、沖縄に対する不当な弾圧行為というほかない。

しかし、ゲート前での抗議にほぼ毎日参加している県民の中には、警視庁機動隊が来て急に現場が緊迫したのではなく、変化は少し前から起きていたとの見方がある。

「国と県の1ヵ月間の協議が決裂し、政府はすぐに新基地建設の工事を再開すると宣言しましたよね。あの時期、つまり9月半ばぐらいから警備は過剰になって、排除の仕方も乱暴になっていました」

同時期、辺野古の現場は地元・名護署の仕切りではなく、沖縄県警本部の直接的な指揮下に入ったという証言もある。県警本部長は、常に中央の警察庁から送り込まれた人物が務めている。となれば、沖縄の特別な歴史や心情などまったく理解できない人間が来ても不思議はない。

一方、ゲート前に座り込む人たちの中には、凄惨(せいさん)な沖縄戦を体験し、米軍基地の存在に苦しみ続け、さらに人殺しのための新基地を押しつける政府は許し難いと感じている高齢者がいる。

連日座り込みに参加している最高齢の島袋文子さん(86歳)は、15歳の時、壕(ごう)の中で米軍の火炎放射を受けて大やけどを負いつつも生き延びた人だ。彼女は機動隊の若者にしばしばこう語りかける。

「あたしは、あんたたちを戦争に行かせないために命をかけて頑張っているんだよ。そんなに基地を造らせたいんだったら、あたしを殺してからそうしなさい」

数人がかりで倒され、呼吸困難に

警視庁の機動隊が投入されて県民との衝突は激しくなってきたが、実はその前から排除の動きは激しくなっていた。今後もこの傾向は強くなるだろう

機動隊に幾度となく「ごぼう抜き」される彼女の姿を私も至近距離で見てきている。その心からの叫びは痛いほどわかる。だが、彼女を強制的に排除しようとする機動隊員の中にも、時につらそうな表情を浮かべ、うつむきがちになる青年はいる。ウチナーンチュとして家族から沖縄戦の体験を聞いて育った若者なら、文子さんたちの必死の訴えを心の深いところで受け止めることができるのだ。

9月半ばのある朝、こんなことがあった。

抗議行動中の市民の名前をスピーカーの大音量で連呼して嫌がらせをする警察官に対して、「人権侵害はやめろ」と抗議し、その警官の乗る車両に詰め寄る市民が数人いた。その中のひとり、金城徹さん(仮名)が、車両のタイヤ付近を蹴ったという軽微な容疑により公務執行妨害で不当逮捕された。その後、彼は私の取材にこう答えてくれた。

「名護署で取り調べを受けて実感したのは、警察にも気持ちの通じる人たちが間違いなくいるということです。ある警察官は『あなたたちのやっていることは正しいよ』と本音をポロッと漏らしてくれたほどです」

さて、安倍政権がメディアを動員して、実際には始まってもいない「埋め立て本体工事」に着工したかのように喧伝(けんでん)し、沿岸部のいくつかの作業の再開に踏み切ったのは10月29日のことだった。

そして、その翌日には機動隊員による重大な集団暴行事件が発生している。

その朝、比嘉次郎さん(仮名)は工事関係車両のゲート内への進入をなんとしても止めたくて、車列の前に立ちはだかった。すると機動隊員が猛烈な勢いで体当たりしてきて倒され、数人がかりで両手両足をつかまれ、歩道に転がされ、体と顔をアスファルトに押しつけられた。手足の関節をキメられ、身動きが取れない状態にされ、ひとりが膝(ひざ)を比嘉さんの頸動脈(けいどうみゃく)や気管支などに当てた状態で体重をかけ続け、呼吸困難に陥らせた。

指揮官の「規制解除」の声がかかり、数人の機動隊員が比嘉さんの容体を気にかけることもなく走り去った時、彼はアスファルトの上でぐったりとうつ伏せになったまま、ぴくりとも動かぬ状態だった。救急車で病院に運ばれた時、体温は39℃に上昇していた。「規制解除」があと1、2分でも遅れたら、と想像すると恐ろしい。

彼はこう振り返る。

「僕は機動隊員と闘っているつもりはないし、個人的な恨みはありません。ただ新基地建設を絶対に止めたい。それだけですから」

比嘉さんは暴行を受けながら薄れる意識の中で「こんなことでは負けない。もっと頑張る」。そう心に言い聞かせていたという。

●この記事の全文「辺野古新基地建設が不可能なこれだけの理由」は発売中の『週刊プレイボーイ』48号でお読みいただけます。

(取材・文/渡瀬夏彦 撮影/野田雅也)