恵比寿マスカッツの登場でAV界に起こった

2000年代後半、ニュータイプと呼ばれるスケベな女たちがAV界に激増し、TVでは恵比寿マスカッツが旋風を巻き起こすのだが...。

―前回、00年代中盤になって、とうとうと自分語りをするわりに中身が薄い、ふわっとした女子がAV業界に増えたという話がありましたが。

松尾 その傾向って00年代後半になっても続くよね?

山下 そうだね。09年に『裸の部屋』(ハマジム)っていうのを撮ったんですよ。俺がひとり暮らしの女のコ5人の家に泊まってセックスするって企画で。この時の撮影でもそれは強く感じた。

―どんなコがいたんですか。

山下 風俗からAVに流れてきた3P好きの女とか、吉原の現役ソープ嬢とか、まあ普通のキャバ嬢もいたし...。

―クセが強い感じ?

山下 いや、破綻してる系のコじゃなくて、ちゃんとしてるって言い方はヘンだけど、ホント普通のコたち。けど、どの女も、言葉もセックスもざっくばらんすぎるというか。

―例えば、どんな話を?

山下 高校卒業して2ヵ月間キャバ嬢をやってAVに流れてきた、18歳のらんってコなんかは「高2から出会い系サイトでエンコーしてた」とか「AVにスカウトされた時はふたつ返事でOK」とか、それこそ、とうとうと語るんだけど...そのコらしさが顔を出す瞬間が一切なくて。この時代の女ってブログとかmixiで語る自分に慣れてきたってことなのかな。

―あらかじめ自分を語るテンプレートが用意されている感じですかね。

松尾 セックスはどうなの?

山下 そこもあけすけ。後ろ暗さとかは一切ない。キャバ嬢のみさき(24歳)ってコはズリネタにしてるAVを見ながらプライベート風オナニーを披露してくれたんだけど、オナニーでイクとオシッコがピュッと出て、セックスでイケばイッたで、またオシッコがピュッと出る。

激エロ女優が急増殖!

―自在に操れると?

山下 そう。本気かサービスかわからないけど。男優が手マンするとね、自分から「触りたくなった?」って勝手にクリをいじっちゃう積極性も見せる人。

松尾 欲張りですねぇ。

山下 ただ、そのみさきって、やせ薬ブームに乗っかってハード系のヤバい下剤を服用してて、そのコのオシッコを飲んだ男優が腹を下しちゃうぐらい破壊力があった(笑)。

松尾 なんだそれ(笑)。

山下 でもそうやってホントなんでも見せてくれるんだけど、薄く感じちゃうんだよ、俺の年齢のせいかな...。

松尾 結局ね、00年代に入って"ニュータイプ"の女のコが増えたって話なんですよ。

山下 どういうこと!?

松尾 要は初体験の前からケータイやネットでアダルト動画を見て育った世代がAVに入ってきて。彼女たちは「私も女優さんみたいにセックスで気持ちよくなりたい」って思いながら成長してるから、みんなセックスに前向き。

山下 電マ使ったり、AV見て学んでるってこと?

松尾 そう。ニュータイプはセックスの戦闘能力が高い。軽く肌に触れるだけで過剰にアンアン声出してビクンビクン反応するんですよ。俺が撮った単体女優にも本物のニュータイプがいましたね。

山下 言い切るね。

松尾 とにかくドスケベ。パンツに手を滑り込ませたら、すでにぐっちょり濡れてて。それ指摘したら「ごめんなさい」ってつぶやくの! ごめんなさいって普通出ませんよ!?

山下 単なるドMでしょ?

松尾 (無視して)聞いたら彼女、学生時代からケータイでAV見てオナニーしてたと。セックス大好きだと。単体ではトップ級のドスケベ嬢でしたね。ロケ終わってから、撮影とか関係なく"おかわり"せがんできたぐらいだから。

恵比寿マスカッツの影響力とは?

―ちなみに当時、希志あいのや希崎ジェシカ、佐山愛をはじめ「恵比寿マスカッツ」メンバーの単体女優が人気で、七海なな、明日花キララなどビジュアルとタレント性を兼ね備えた女優も続々と登場しましたね。

松尾 恵比寿マスカッツのおかげでAVに対する暗いイメージってなくなったね。AV女優がアイドル的なポジションでTVに出てんだもん。

山下 ただ、単体女優とはいえセックスの中身もかなり激しくなってきたよね?

松尾 本番もハードプレイも普通ですよ。でもね...それには裏があって。

山下 どういう?

松尾 とあるメーカーのプロデューサーと話してたらさ、4年近く担当してる単体女優の私生活を一切知らないって言うんだよ。

山下 それは踏み込みたくないほど女がヤバいメンヘラなのか、惚(ほ)れちゃうのが怖いから私生活を聞かないのか...。

松尾 私生活や素顔を知って情が移ると仕事に支障が出るからイヤなんだって。

山下 そうなんだ。

松尾 プロデューサーは契約期間内に、女優に「複数」「アナル」「ぶっかけ」「外国人」...って激しい内容をどんどんのませなきゃいけないから。

山下 まあ、それを淡々と遂行するのが仕事だからねぇ。

松尾 会社の査定もその達成度で決まってくるんだって。

山下 ユーザーから集まった趣味嗜好(しこう)をデータベース化して、ヌケる要素のみ抽出して女優に全部やらせると。

松尾 結果、売り上げが見込める作品の出来上がり。AVがそういう作り方になったって話です。「松尾さんや山下さんみたいに自分が面白いと思う作品は、撮ろうと思っても撮れないんです」って直接的に言われたこともあるから。

山下 なるほどねぇ。

松尾 ニュータイプの女優たちは、仕事としてセックスを一生懸命やりながら楽しむ特性もあるから、ハードルが高くなってもこなすしね。

山下 そういう女、撮りたい?

松尾 俺は天然のほうが好きだけどね(笑)。

※この対談のバックナンバーはこちら!

●この続きは『週刊プレイボーイNo.47』でお読みいただけます。

(構成/黒羽幸宏 撮影/井上太郎 取材協力/ハマジム アリスJAPAN h.m.p)

●カンパニー松尾 1965年生まれ、愛知県出身。87年に童貞のままV&Rへ入社し、翌年に監督デビュー。代表作は『私を女優にして下さい』シリーズ。『劇場版テレクラキャノンボール2013』『劇場版 BiSキャノンボール2014』が社会現象的大ヒット

●バクシーシ山下 1967年生まれ、岡山県出身。大学在学中にAV業界へ。90年に各方面で物議を醸した『女犯』で監督デビュー。以降、社会派AV監督として熱い支持を受ける。『ボディコン労働者階級』ほか代表作多数。著書に『セックス障害者たち』(幻冬舎)など