スポーツ整体「廣戸道場」主宰の廣戸聡一氏

厚生労働省による平成 22 年度国民生活基礎調査では、日本人の約2800万人が腰痛に悩まされているという。

実に国民の約4人にひとりの割合になり、ここまでくるともはや国民病といっても過言ではないーー。

なのに、病院に行ってもすっきりとした解決策を得られないことがほとんど。ライター稼業でパソコンに向かう日々…という自分の経験でも、レントゲン撮影をして腰椎をチェック後、湿布や痛み止めをもらい、家で安静といったことが日常的に多く、結局、原因の本質はわからないまま対処療法を繰り返すのみだ。

その結果、腰痛は完治することなく、小康状態を保ちながら、だましだまし付き合っていくものと思い込んでしまいがち。目の前が急に開けるような根治方法は存在しないのか?

そこで、スポーツ整体「廣戸道場」を主宰し、今年「『4スタンス理論』で腰痛は9割治る!」を上梓した廣戸聡一氏に、腰痛の正体とその改善方法を聞いてみた。廣戸氏は、世界で活躍する一流アスリートから一般の施療、介護、リハビリ医療までオールランドな患者に関わり、30万人を超えるケア実績を持つ整体のエキスパートだ。

-ずばり、腰痛(腰痛炎)の原因はなんですか?

廣戸 立位状態の人間は、頭と足先を水平・垂直の状態で安定させるために骨格と筋肉を使っています。骨格がうまく積み上げられると、筋肉は頭部、胸部、骨盤、足の各パーツをつなぎ合わせて安定させようとする役割を休むことができるのですが、逆にこの時、骨格にある程度の体の重さが乗っていない場合、筋肉で補正して体勢を維持します。

例えば、それが1週間の補正なら問題はないですが、それが永遠に続いてしまうと、筋肉の使用過多となり、そのダメージが腰痛を引き起こしているわけです。私の施療経験だと、腰痛の半分以上がこういった筋肉痛によるものですね。

腰痛の改善に不可欠なのは脳の安定

腰痛を熱く語る廣戸氏

-腰痛は、椎間板ヘルニアだったり腰の骨が正常でないことが原因だと思っていましたが、それは関係ないのですか?

廣戸 腰の椎体の異常には出会ったことがあまりないですね。椎骨だけがおかしいという診断には疑問を感じています。

-では、腰痛の原因が筋肉痛ならば、「もむ」「叩く」「伸ばす」みたいなことで改善しますか?

廣戸 一時的な緩和にはなっても、むしろ腰痛には良くないですね。根治には、痛い腰に直接刺激を与えないことを強く意識してください。痛いところを動かしたら、絶対に痛い。

筋肉の使用過多で縮んでいる筋肉をストレッチで無理に伸ばそうとすると切れるだけです。いわば、関節技をかけているような状態です。腰痛の原因を突き止めないで、腰周りが固いからそこだけやるのは古い感覚。今の時代それでいい事が起きているためしがないですね。

-病院で、筋肉が弱いから腰痛になると言われたことがあるのですが、背筋など筋トレをはどうですか?

廣戸 筋肉を鍛えるのは、つまり負荷をかけるのは筋肉の状況がいい時にやらなければただ破壊工作になるだけです。筋肉というのは、きちんと縮むことと同時に伸びることも大事。腰痛ということは、そのバランスが崩れ、ただ緊縮し、内圧が上がるだけ上がってしまい、巻き過ぎたゴムのように切れてしまう可能性があります。

-恐ろしいですね…。それでは根治するためにはどうすれば?

廣戸 実は、治すべきは筋肉ではなく、骨格なのです。筋肉の痛み(腰痛)を治すには、ずれた骨格を正しい位置に戻し、何かのはずみで偏ってしまった筋肉の使われ方を生まれた時の基本的な状態に戻す必要があります。筋肉が緊縮せず、よく緩み縮む状態です。あとは、脳の状態が安定していることも大事です。

治すべきは筋肉ではなく骨格

記者の長年にわたる腰痛の原因は、骨盤の傾きだと指摘する廣戸氏

-脳の状態の安定? 脳が腰痛とどんな関係があるんでしょうか…。

廣戸 人体のメインコンピューターである繊細な脳の状態は、肉体というハードにも影響を与えやすく、脳が緊張を感じてしまうと、筋肉も緊張します。ところが、脳の特性として水平垂直が保たれると安定します。そうすることで筋肉を緩ませるわけです。肉体だけでなく、脳も常に同じレベルで意識することが、腰痛の改善には不可欠なのです。

-具体的には、どうすれば?

廣戸 人間の体というものは、生まれながらの本来の動きを繰り返せば、自動的に正常化していきます。なので、まずは基本となる正しい「立つ」「座る」をマスターすることが重要です。

立ち方からですが、まずは、股関節幅(首幅)に足を開いて立ちます。この時、一番大切なのは土踏まずが地面に対して水平で、伏せられたような状態になっていることです。その上に足や体が乗り、重心が落ち、土踏まずで地面をしっかり感じ取れているのが正しい感覚です。

注意点としては、母指球(親指の付け根のふくらみ)とかかとで立っている意識になりがちですが、あくまでも意識は土踏まずに重心をのせて立つことです。次に仙骨(骨盤のお尻側にある骨で、上部は腰椎の最下部とつながり、下部は尾骨とつながっている)と肩甲骨を地面に対して垂直にします。

自分で仙骨を触り、指先を地面に向けると垂直をイメージしやすいでしょう。また、力を抜くような感じで2~3回肩を軽く上下動させると、肩甲骨はより垂直になります。さらに、左右の肩甲骨と仙骨を結ぶ二等辺三角形が地面に対して垂直であることを感じれば、自然体で正しく「立つ」状態になります。

(C)日本文芸社 「4スタンス理論」で腰痛の9割は治る! より

座り方のほうですが、正しく立った状態から、肩甲骨と仙骨はなるべく垂直のまま、ひざを曲げ、土踏まずに均等に力をかけながら上体と腰を垂直に降ろします。この時、足を踏ん張りながら、スクワット(直立した状態から膝を曲げたり伸ばしたりする運動)の姿勢で腰を下ろしていきます。

座面にお尻を下ろした時のイメージは、椅子の足を含めて6本足で立っている感覚です。この状態だと体の力を抜いても姿勢が崩れず、腰がつぶれて仙骨が倒れることもないので「正しく座る」状態になります。

(C)日本文芸社 「4スタンス理論」で腰痛の9割は治る! より

人間には骨格の構造上、動きやすい形がある

-すごく単純ですが、これを正確に繰り返すだけで、骨格が本来の形に戻るんですね。

廣戸 その通りです。これは基本の基本です。それに加えて腰の痛みを改善する動作が他にもたくさんあります。

-どんな動作なんですか?

廣戸 まず、その前に説明しないといけないことがあります。初耳かもしれませんが、人間の体の動きを詳細に見ていくと、血液型のように例外なく4タイプに分けることができます。言い換えると、それぞれ人間には骨格の構造上、生まれながらにそう動いたほうが動きやすい形があり、それが4種類ほどあるということです。従って、腰痛に至る過程も改善方法も4タイプに分けられます。この考え方を「4スタンス理論」と呼んでいます。(※4スタンス理論は、廣戸氏考案の理論。現在、ゴルフや野球などのプロスポーツで応用されている)

つまり、自分の体のタイプにあった改善動作をしないと症状を悪化させる恐れが大きいので、必ず体のタイプチェックを行ない、自分の体にあった腰痛改善動作を行なってほしいですね。詳しくは、「『4スタンス理論』で腰痛の9割は治る!」(日本文芸社)を参考にしていただければと思います。

-では最後に、仕事中にできる腰痛予防法があれば教えてください。

廣戸 お教えする動作は、体の4つのタイプを気にせずにできるものです。デスクワークや自動車の運転など長時間同じ姿勢でいると、どうしても筋肉が固まってしまいます。それを避けるために、立った状態で体を前後に動かしつつ、体幹部主導で全身を「ヘビの動き」のようにクネクネと動かしていきましょう。

下から上へ向かって、足首・ひざ・股関節・みぞおち・首のつけ根の5点のうち、2点を順番に前に出すイメージで。初めはひとつひとつを確認しながら行なってください。体が動き方を覚えたら、段々とスピードを上げて行きます。各部位が順番に動くことが大切で、力を抜いて動かすことを意識してください。

(C)日本文芸社 「4スタンス理論」で腰痛の9割は治る! より

次は逆で、頭と胸郭、骨盤、下半身を上から下にうねらせるイメージで連動させながら前後に動かします。正しく立ち、頭を土踏まずの垂直線上から動かさずに足のサイズ分の前後幅の中で体を一定速度で動かすイメージです。

(C)日本文芸社 「4スタンス理論」で腰痛の9割は治る! より

短時間でもまめに体を動かし、このようにして体の柔軟性を保ち、腰痛予防を頑張っていきましょう!

(取材・文/週プレNEWS 撮影/松井秀樹)

廣戸聡一(ヒロト ソウイチ)1961年生まれ。東京都出身。一般社団法人「レッシュ・プロジェクト」代表理事。スポーツ整体「廣戸道場」主宰。日常生活の動作からスポーツ競技、文化芸能における身体動作、コンディショニング、介護、リハビリテーション、栄養摂取まで総合的に指導するアドバイザー。人間の身体特性を4種類に分類する「4スタンス理論」を含む、動作における軸、個体別身体特性などを解明した総合身体理論「レッシュ理論(REASH Theory)」を提唱。平成22年度よりJOC(日本オリンピック委員会)強化スタッフ。日本ゴルフツアー機構(JGTO)のアドバイザーとして強化合宿などで指導中。2013年より日本プロ野球千葉ロッテマリーンズとアドバイザリー契約。身体コンディショニングに関する著書多数。詳しくは廣戸道場の公式ホームページをご確認ください。http://www.h-dojo.net/