「自分の信念や言葉だけで何かをするのは大変だけど、人の言葉に影響を受けて勇気づけられる人もいると思う」と語る、丸山ゴンザレス氏

TBS系列の紀行バラエティ番組『クレイジージャーニー』で「ジャマイカのマリファナ事情」「ルーマニアのマンホール生活者密着」「フィリピンの銃密造村潜入」など、世界中の危険な場所への取材を次々と試み、今や“危険エリアジャーナリスト”として人気を博している丸山ゴンザレス氏。

恰幅(かっぷく)のいい体つきからガチンコの肉体派ジャーナリストとも思われがちだが、実は書籍編集者という一面も持っており、危険エリア以外を題材にした様々なジャンルの書籍もリリースしている。

本書もそのうちのひとつで、国内外の著名な冒険家が残した名言に著者が独自の視点で解説を加え、その言葉の持つ真理に迫っている。

―『クレイジージャーニー』の放送で“危険エリアジャーナリスト”として、ますます磨きがかかってきましたよね。元々、そのような危険地帯に潜り込むきっかけはなんだったんですか?

丸山 高校生の時から旅をするのが好きで、日本国内をいろいろ回っていたんですが、大学1年の時には行きたい所を制覇してしまった。なので、自然と海外に目が向きましたね。

でも危険地帯を目指したわけではなく、むしろ最初の目的はタイのムエタイジムに修業しに行くことだったんです。当時は格闘技にハマっていて、それで食べていこうとも思っていましたから。大学2年の夏合宿を終えてすぐ、一番安いチケットを買ってタイへ出発したんですが、バンコクの空港で合宿でも一緒だった道場の先輩とバッタリ遭遇しちゃいまして…。そこから先輩に連れられて、バックパッカー御用達みたいな安宿に泊まることになったんです。

そうすると毎晩、世界中のバックパッカーから面白い旅の話を聞くようになって、旅をする面白さの見識がより広がりました。ムエタイのジムには一応通ったんですが、格闘技そっちのけでバンコクのナイトライフを楽しみましたね。

あのバックパッカーたちと世界中でまた再会するために海外をよく旅するようになったんです。

―スラム街に行くようになったのはそれからですか?

丸山 そうですね。想像できると思うんですが、バックパッカーの人たちと話しても、観光地の話題ってほとんど出ないんですよ。だから必然的に行ってみたいと思うようになった場所もスラム街が多く、いわゆる“危険エリア”と呼ばれる場所にも足を運ぶようになりました。

―日本人にしたら、スラム街に飛び込むのってすごく怖いと思うんですが、そういう感情はありました?

丸山 もちろん入っちゃいけないスラム街もありますけど、実はスラム街って、そんなに怖い場所ばかりじゃないんですよ。そこでは普通に人々が生活していて、いくら犯罪率が高いといっても僕自身に対して犯罪が起こるわけではないですから。実際のところ、僕はそんなにスラム街を危険だとも思っていないんですよね。

「さまざまな人と出会いながら、僕はいつも旅人だった」

―ではスラム街に足を運ぶ理由というのは、スリルや好奇心からではないと?

丸山 ライター業を始めてからは裏社会や危険地帯というジャンルの仕事をしていました。そういう情報を手に入れるためには、必然的にスラム街が取材対象になるというだけです。

例えば、東京の丸の内で「誰か犯罪者知ってますか?」と聞いても誰も知らないけど、それが新宿・歌舞伎町のゴールデン街だったら何かしらの情報が出てきそうじゃないですか? スラム街で得た情報っていうのは、その国の本当の姿を表しているような気がします。観光用のガイド本に載っているような情報ではなく、物価にしろ、流行にしろ、リアルに伝わってくるものなんですよ。

―でもやっぱり死にそうな思いをしたこともありますよね?

丸山 『クレイジージャーニー』で行った「フィリピンの銃密造村」、あれはヤバかったですね。危険地帯取材の枠を踏み越えたなという実感がすごくありました。早く帰りたいと思っていましたし、帰りのバスの中、テンションが全く下がらず、ずっとギンギンでしたからね(笑)。危機的状況に陥ると繁殖本能が高くなってそうなると聞いてはいましたが、まさにそれでしたよ。

―今回発売された本は丸山さんが感銘を受けた冒険家たちの名言をまとめたものですが、どういった人たちに見てもらいたいですか?

丸山 人が何かを行動するのには、やっぱり何かしら後押しが必要だと思うんです。何も考えずに「あれやろう、これやろう」って普通はならないですからね。自分の信念や言葉だけで何かをするのは大変だけど、人の言葉を借りて行動に移すのって難しくはないし、中には勇気づけられる人もいると思う。そういったきっかけになってくれたらうれしいですよね。

あとは僕自身の経験でもありますが、例えばどこか旅行に行ったり、取材をしたりした時に「今回、意味あったのかな」と思う時もあるんです。そういう時に僕は必ず、この中に書かれている探検家・星野道夫さんの「さまざまな人と出会いながら、僕はいつも旅人だった」という言葉を思い浮かべます。そうすることで自分の行動が何か意味があったように感じられたり、新しい価値観に気づけたりできると思うんです。

僕は小説は読まず、ノンフィクションの冒険家や探検家の本ばかり読んでいたんですが、やっぱり実際に何かを成し遂げた人の言葉って心に突き刺さるものがあるんですよね。単純にそうした人たちの言葉を知るだけでも面白い本だと思います。

座右の銘はアントニオ猪木さんの…

―丸山さんの心を揺さぶる、座右の銘はどんなお言葉なんでしょうか?

丸山 強いて言えば、座右の銘はアントニオ猪木さんの「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」という言葉でしょうか。「いつでも」という姿勢が若い頃の自分にはものすごく刺さりましたね。その言葉に影響を受けて、僕も常に最善の準備をして仕事に臨もうと意識を変えました。

仕事に関する情報は、絶えずアップデートを怠らないようになりましたし、特に自分の得意分野である危険地帯や裏社会のネタに関しては「いつでも」仕事を受けられ、企画を出せる準備をするようになりました。あの言葉は、僕の中ですごく響いたものだなって今でも思いますね。

(取材・文/ヒロタシンイチロヲ)

●丸山ゴンザレス(まるやま・ごんざれす)1977年生まれ、宮城県出身。海外の危険地帯から裏社会や犯罪、国際ビジネスまで幅広い分野で活動するジャーナリスト。國學院大學大学院修了。大学院まで考古学を専攻し、日雇い派遣や測量会社を経てビジネス書出版社で編集者となり独立。編集者、作家業では丸山佑介の名義。著書には『図解 裏社会のカラクリ』『裏社会の歩き方』『アジア罰当たり旅行』(以上、彩図社)、『図解 裏ビジネスのカラクリ』(イースト・プレス)、『海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)などがある

■『世界の危険に挑む99の言葉』(文庫ぎんが堂 686円+税)自らも旅行作家、犯罪ジャーナリストとして、世界中の危険地帯に足を踏み入れてきた著者が、常に危険と隣り合いながら挑戦し続けてきた世界の「冒険者」たちの言葉を厳選する。未知の世界を切り開き、時に命を賭して、成功をつかみ取ってきた彼らを突き動かしたものとは何か。“狂気の旅人”丸山ゴンザレスを旅に駆り立てる理由がここにある!