今の政官の振る舞いに「国家社会主義」という言葉を思い出す古賀氏

アベノミクスで景気回復を目指すも、累計1050兆円以上にまで借金が膨らんでしまった日本。一方で、増えていく日本企業の利益剰余金に政府はその巨額の資金に目を付けている。

しかし、そうした政府の動きに『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は介入が過ぎるという。

***年々増えて343兆円。日本企業の利益剰余金――内部留保の総額(財務省の統計)だ。

内部留保は企業の純利益から配当や租税などを差し引いた残りの分のこと。ここまで積み上がったのは、アベノミクスによる円安で輸出が伸びるなどして企業収益が大きく改善したためだ。

今年10月16日、政府は経済3団体を官邸に呼びつけ、「内部留保が拡大しているのに設備投資が伸びていない」などと企業の国内投資を促した。政府は「企業が儲(もう)けた金をため込んで新たな国内投資に回さないから景気がよくならない」と考えているわけだ。

そこで政官界でにわかに囁(ささや)かれだしたアイデアが内部留保への課税案である。

しかし、これを良案だとは思えない。そもそも内部留保は現金や預金だけではなく、株式や有価証券になったり、自社の土地建物、機械設備などの、すでに投資として使われたモノとして形を変えている場合がある。

「もっと投資せよ」と言うのは簡単だが、企業が再投資に慎重なのは、日本はこれ以上成長しないと受け止めているからだ。少子化で総人口が減る。構造改革も遅々として進まない。そんな日本で設備投資をしても、それに見合うだけの儲けは得られないと、多くの企業経営者は判断しているのだ。

もし、日本の成長を確信していれば、企業は黙っていても自らの判断でどんどん新たな投資をするものだ。課税を武器に政府が無理やり再投資を促しても、企業が踊ることはないだろう。成長が見込まれる海外への投資が増えるか、配当に回すがオチだ。

政府の口出しは確実に失敗する

それにしても、最近、政府は自由であるべき企業の経済活動にあまりにも口を出しすぎてはいないか。

設備投資を要求するだけではない。やれ、労働者の賃金を上げろだの、携帯電話の料金を下げろだの、企業への指示や干渉が多すぎる。

実はこうした「上から目線」は官界にも根強い。私の古巣である経済産業省でも「民間企業はだらしない。だから、代わりに優秀なオレたち官僚が経営を先導する」と主張してはばからない官僚が少なくなかった。

重要産業を国有化したり、市場経済を政権がコントロールしようとすることを「国家社会主義」というが、今の政官の振る舞いを見ると、そんな言葉を思い出してしまう。

しかし、政治家や官僚が経済に口出しして成功した例はない。一時的に成果が出ることはあっても、長期的には必ず経済は停滞する。それが歴史の教訓だ。

異次元の金融緩和と積極財政が中心で、成長戦略に欠けるアベノミクスは所詮カンフル剤的景気刺激策だ。構造改革が進まない以上、安倍政権が「1億総活躍」「GDP600兆円」などと叫んでも、企業が新たな設備投資に意欲を見せないように、個人もまた将来の生活不安からせっせと貯金に励み、モノを買わない状況が続くことだろう。

そして、何かと民間に口を出したがる安倍政権のことだ。そのうちに「個人の蓄えに課税して貯金を吐き出させ、消費を促そう」という動きに出ることだって、あり得ない話ではないと思う。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)