通知カードの配達は年賀状の集荷業務も重なり、多忙を極めている 通知カードの配達は年賀状の集荷業務も重なり、多忙を極めている

配達時期が大幅に遅れているばかりか、全国各地で誤配が相次いでいるマイナンバー通知カード。

配達を担当する郵便局員たちは、「もう誤配はするな! でも配達は早く済ませろ!」と上司からプレッシャーを掛けられながら〝週休ゼロ日〟の激務にさらされている。

前編「マイナンバーが遅れたウンザリな理由」に引き続き、その渦中にいる配達員3名に通知カード配達のリアルな内情について語ってもらった。

●座談会メンバー

配達員Aさん(50代) 勤務歴35年のベテラン配達員。所属する東京都D区の郵便局の通知カード配達総数は約9万通。

配達員Bさん(40代) 勤務歴10年の中堅配達員。東京都E区の郵便局所属。配達総数は約13万通。

配達員Cさん(20代) 勤務歴3年の若手配達員。千葉県F市の郵便局に所属。配達総数は「知らない」とのこと。

―通常業務より仕事がきつい通知カードの配達業務には何か特別給が?

配達員C 特別給なんてものはありません。8時間を超える超過勤務は2割5分増し、休日出勤は3割5分増し。ボクの時給は1千円だから、残業時は1250円、休日には1350円まで上がります。

配達員A それは正社員の月給も同じです。

―郵便局員の給料ってどのように決められるんですか?

配達員B わかりやすい期間雇用社員(時給制)の給与体系でいいますと、局内に評価システムがあって、評価が低い順にスキルC→スキルB→スキルAと区分されています。それぞれに習熟度ナシ、アリがあるので計6区分ですね。東京都の場合、最低評価の局員(スキルC・習熟度ナシ)の時給は1千円、最高評価の局員(スキルA・習熟度アリ)の時給は1600円以上となります。

―ってことは、Cクンの評価は…。

配達員C ……。

―評価基準となる、配達員のスキルとは?

配達員B 一番のポイントは、担当している配達エリアの精通度です。おおむね、郵便局の配達担当は10名程度の班に振り分けられ、1班当たり・5区を担当する。ウチの局では1区当たり・1500世帯程度あります。そこで局内の管理者(集配部の部長など)に「1区のみに精通している」と判断されればCランク、「2区に精通している」ならBランク、「3区以上に精通している」ならAランクとなります。

配達員A ここでいう「精通度」とは、要は郵便物の宛先住所を見て、その家の外観がパッと頭に思い浮かぶかどうか。ここは個人差がありますが、優秀なベテラン配達員ともなると、家の外観だけでなく、住んでいる人の顔、世帯構成、その家に定期的に届く郵便物の内容などを思い浮かべることができます。

配達員C そういえば、ボクが尊敬してる先輩は、ざっと5千~6千世帯分の情報が頭に入っているとか言ってましたね。

―それはスゴイ! ちなみに、Cクンはどんな感じ?

配達員C まぁ、そこそこは。といいますか、今は7桁区分機が配達順に並べてくれるし、それを上から配ればいいだけだし、そこまで詳しく記憶しなくてもスムーズに配達できるんですけどね。

配達員A 今の若い連中はこれだからダメなんだよ…。

誤配リスクが最も高い外国人宅と高層マンション

―いやいや、でも配達員の人ってスゴイんですね! もしかしてその町の危険人物とか不審者とか、警察以上に把握してるんじゃないですか?

配達員A そこまではどうでしょうか。ただ、私たちが把握している個人情報は守秘義務があって、退社後も絶対に外部に漏らしてはいけない類(たぐい)のものです。

―ちょっと失礼かもしれませんが、そんな優秀な配達員がこの通知カードの配達では誤配続きなのは、一体どういうワケ?

配達員B これは言い訳になってしまうかもしれませんが、通知カードの場合は宛名や宛先住所の印字が小さすぎるんです。

配達員A そう、驚くほど小さい! 文字の大きさでいえば、7級~8級でしょう。郵便物の中では最小クラスです。

配達員C そこは集配部員全員がグチってます。なんであんなに小さいんスかね?

配達員A 郵政史上最多の5600万通もあるから国がインク代をケチったんだよ。

配達員B 楽●グループの郵便物も印字が極小で、局内では〝厄介者扱い〟なんですが、社内の関係者にそれとなく聞いたら、やっぱり「インク代削減のため」だって(苦笑)。

配達員A それに匹敵するくらいに通知カードの印字も小さい。配達員は全員、通知カード用にルーペを渡されているんですが、暗いところだと見えないしね。これで誤配、誤配と責め立てられたら、こっちはたまったもんじゃありませんよ。

配達員C 確かに、あの小ささは20代のボクの目にも見えにくい。

―厄介な配達先というのはありますか?

配達員B 外国人…最近は特に中国人宅でしょうか。以前は宛名が漢字表記だったのにローマ字表記に変わってきて、わかりづらくなっているんですよね。外国人が居住する家でもシェアハウスは中に何人も住んでいて、日本語も片言だから本人確認にものすごく手間取るんです。

配達員B それとやっぱり、オートロック付きの高層マンション。セキュリティが厳しいから一軒一軒、1階エントランスのインターホンを押してから配達しなければなりません。12階の1201号室の配達が終われば、一旦、1階に降りてインターホンを鳴らし、また12階に上がって1202号室に行かなきゃならないという。ウチの局では、まだ配達が終わってない高層マンションがたくさん残っているのが不安で…。

配達員C それだといつ終わるかわからないから、ボクの場合は1階のインターホンで複数のお宅のインターホンを連続して鳴らし、それぞれに『通知カードをお届けにあがりました』と伝え、一気に3~4軒分の配達を済ませるという手法を取っています。1軒目の配達に手間取ると、4軒目のお宅で『インターホンで話してからえらく時間がかかったわねぇ』なんて言われることもありますが…。

配達員B それも焦ってしまうから誤配が起きそう…。

配達員C そうなんです。先日、ボクと同じ手法を使っていた別の配達員が、Aさん宅に通知カードを配達する際、誤ってお隣のBさん宅の分も重ねて渡してしまい、その後、Bさん宅に立ち寄ることも失念してしまうという誤配が起きました。

報道されないマイナンバー配達の本当の凄さ

配達員A ウチの局では、マンションでの配達方法について何も言われてなかったので最初からいちいちエントランスに戻ることなく最上階から下へと順々に配達していました。すると通知カード配達初日に『勝手に入り込むな!』と住民から局に苦情が入ったんですが、翌朝のミーティングで上司は苦情の報告はするんだけど、それを「やるな」とはひと言も言わなかった。その後、何度か苦情が入ったものの、それでも「やるな」とは絶対に言わない。

要は「苦情はオレが引き受けるから、やり続けろ」と。上司の沈黙の意図がそこにあることはすぐにわかりましたね。エントランスと各部屋を何往復もしていたら配達が大幅に遅れることは担当局員全員がわかっていましたから。

配達員B いい上司ですね。ウチの上司は「誤配もクレームも1件も出すな!」と上から圧力をかけてばかりの人だから羨ましい。

配達員C ボクは銀座郵便局に異動したい…。

―なぜですか?

配達員C 銀座郵便局の配達区域は銀座、丸の内、大手町、永田町…居住区域が少ないオフィス街ばかりだから通知カードの配達数が5千通くらいしかないんです。それなのに組織は巨大で、仕分けなどの内務担当も含めて局員が800人~900人もいると。同期が銀座局で働いていますが、マイナンバー開始後も「職場は平常時と変わらず、週2日休めてる」と言ってました。

―というわけで、今日は貴重な休日を取材で潰してまで話を伺ってしまい申し訳なかったのですが。皆さん、昨日まで何連勤で働いていたんですか?

配達員C ボクは12時間労働、9連勤でした(泣)。

配達員B 同じくらいですね。足の筋肉痛、腰痛、眼精疲労に悩まされています。職場では「誤配はするな、早く配達を済ませろ」とプレッシャーを掛けられていて、精神的にもきつい。でも、最近は配達先で『ご苦労さまです』と励ましてくださるお客様が増えていることが救いになっています。

配達員C ボクは配達先のおばさんから「疲れているだろうから、これ、職場のみんなで」と、栄養ドリンクを1ダースいただきました。あれは嬉しかったなぁ。

―Aさんは?

配達員A 疲れがピークにきている局員は少なくないですよ。誤配、誤配と報道されるから、配達先で『いつまで待たせるんだよ』『不安がらせるんじゃない!』とお叱りを受けることも多く、上司からの締めつけもかなり厳しくなってきています。

でも、通知カードの配達が始まって以降、誤配が起きた件数は全国で80数件です(12月初旬時点)。配達数は約5600万通だから、誤配率は0.00015%程度。これってスゴイことだと思いませんか? 世界的に見ても、各世帯にこれだけ正確に郵便物を配達できる国なんてそうそうないと思いますよ

だから、ボクは誤配にビクビクしている若い配達員がいたらこう言ってやるんです、『もっと自信を持て、俺たちは〝世界一の郵便マン〟だ!』と。

(取材・文/興山英雄)