MMA(総合格闘技)の試合は4年3ヵ月ぶりとなるが、ブランクは気にならないという桜庭

2000年代の格闘技ブームを牽引(けんいん)した男―それは間違いなく桜庭和志だろう。

日本人格闘家が苦汁を飲まされる中、桜庭は不敗神話をまとっていたグレイシー一族を次々と破り“グレイシーハンター”の異名を取った。その独創的な動きに人々は驚き、「プロレスラーは本当は強いんです」という発言に喝采を送った。

しかし、キャリアを重ねるごとに黒星は増え、10年、11年は4連敗。12年から新日本プロレスのリングに上がっていた桜庭にとって、12月29日に「RIZIN」で行なわれる青木真也戦は4年3ヵ月ぶりのMMAの試合となる。

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―もう一度、MMAの舞台で闘うと想像していた?

桜庭 練習はずっとしていたので、そう思っていましたよ。プロレスはずっとやっているので、ロープの中に入った感覚も忘れてないし。

―新日本プロレスのリングに上がった当初は、戸惑いもあったように見えましたが。

桜庭 そうですね。MMAとプロレスの違いは、たとえるなら算数と国語。格闘技は算数のように、人によって解き方は違っても答えはひとつ。プロレスはそうではなく、東京でやったことが大阪では全然受けなかったりするので。でも、最近は楽しくなってきましたよ。

―MMAは長いブランクがありますけど、心配ない?

桜庭 僕にとっては半年、1年くらいにしか感じていない。去年もメタモリス(寝技の大会)に出ましたし。

―PRIDE時代を振り返ることはある?

桜庭 僕、昔のことは考えないんで。だから今も練習できてるんだと思います。逆に言うと、PRIDEやDREAM(08年~12年)を過去のものと思ったら練習してないでしょうし。大晦日の思い出を聞かれることも多いけど、寒いので体がなかなか温まらないことくらいですよ。

―DREAM以降は敗戦が多く、そのたびに引退や限界を囁(ささや)かれました。今回はそういった意識は?

桜庭 別にないです。勝つ時もあれば負ける時もあるのは当たり前のことなので。引退なんて昔から言われているので、今さら騒がれても響かない。辞める時はスパッと辞めると思いますけど。

―46歳という年齢に関しては?

桜庭 回復が遅かったり、体力面で気になることはありますけど、経験を生かして練習の質を変えたり、いろいろ新しい技を覚えたりもしているのでいいようにとらえています。

「辞める時はスパッと辞める」

―青木選手との対戦を初めて聞いた時はどう思った?

桜庭 階級違うじゃん!って(*青木が65~70㎏で闘っているのに対して、桜庭は80㎏台で闘う場合が多い)。キャッチウエイト(双方が合意した体重)でやることになると思うんで、青木君にはぜひ増量してほしい(笑)。

―試合は1Rが10分、2、3Rは5分という、桜庭さんが好きな形式になりました。

桜庭 いや、僕は10分5分の2Rがいいです。20代~30代の頃ならともかく、もう40代なので。あ! 思い切って3Rはプロレスルールにしましょうか。5秒以内なら反則もOKだから、毒霧を吹こうかな(笑)。

―ハハハ。青木選手と5年前にスパーリングしたそうですが、その時の手応えは?

桜庭 …忘れました。

―桜庭選手が3本、関節技でタップを奪ったそうですが。

桜庭 覚えてないですね。5年も前のことなのでお互い変わってるでしょうし、試合はやってみないとわからないし。

―青木選手への対策は?

桜庭 ネチネチ寝技で絡みつく感じだけど、青木君は普通にキックとかもできるので、あまりイメージを固めないようにしています。

―青木選手は「桜庭選手のことはリスペクトするけど、現実を見せる」と言っている。

桜庭 ああ、でも僕の365日を彼が見ているわけではない。逆に僕も青木君の365日を知らない。現実は、当日わかることでしょう。

「格闘技は動物の縄張り争いみたいなもの」

―桜庭選手には、プロとして面白い試合をしようという意識が感じられるけど、青木選手はどちらかといえば勝利至上主義というイメージがある。かみ合うと思います?

桜庭 僕だって勝負事なので勝ちたいですよ。勝って、さらにいい試合ができたらベストでしょう。

―例えば、前半を優勢に進めた青木選手が後半、勝ち逃げを狙い膠着(こうちゃく)したら?

桜庭 喋るかもしれない。「これでいいのか?」とか「もうちょい動こうよ~」とか。

―本当ですか! 過去、対戦相手に話しかけたことは?

桜庭 言おうとしたことはありました。でも、何か喋ると、たぶんレフェリーに注意されますよ。

―最近のMMAは、ポイントを稼いで確実な勝利を目指す傾向がありますけど。

桜庭 僕はあまり好きではない。ポイントっていっても、選手、レフェリー、ジャッジにしかわからないわけで、見ているお客さんには伝わらないじゃないですか。だったら、アマレスのようにタックルで倒したら1点というふうに明示化したほうがいいでしょう。

相手をKOするか、一本勝ちするために闘うべきで、ポイント取って勝ち逃げというのは、やるかやられるかのリングに上がる者の考え方じゃないと僕は思う。

―UFCの影響で世界的にケージが主流になっていますが、RIZINはリング。リングのほうが好き?

桜庭 ケージは円に近いので、プレッシャーもかけず様子を見るだけで積極的にいかない選手には都合がいい。でも、リングは角があるので追い詰められやすい。そうならないためにどうしても前に出ることになる。本当にやり合うならリングのほうが面白いし、闘いがあると思う。

格闘技って動物の縄張り争いみたいなもの。暗黙のルールの中で闘い、「参った」させて縄張りを取る…僕にとって格闘技はそんな感じです。

●発売中の『週刊プレイボーイ』1・2号(12月21日発売)では「RIZIN&新日本1・4祭り」として、さらに青木真也、RENA&橋本マナミ、オカダ・カズチカ、内藤哲也、本間朋晃のインタビューを12ページ大特集で掲載!

■桜庭和志(さくらば・かずし)1969年生まれ、秋田県出身。中央大学レスリング部で主将を務め、93年にUWFインターナショナルでデビュー。PRIDE時代は“グレイシーハンター”の異名で連戦連勝、ブームを牽引した。その後、HERO’S、DREAMを経て、2012年から新日本プロレスに参戦中

■「RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX2015 さいたま3DAYS」12月29日(火)、31日(木)/さいたまスーパーアリーナ[TV中継は29日(火)21:00~23:13、31日(木)19:00~23:45、フジテレビ系にて]

(取材・文/布施鋼治 撮影/保高幸子)